第3話 旅立ちは唐突に

 その日の夜、村の外れにある自分の家の中で、ミトは大号泣した。


 親しかった村人は誰一人として生き残っておらず、挨拶もできぬまま、永遠の別れを遂げてしまった。


 いつも良くしてくれたお爺さんお婆さんも、歌声を聞きに来てくれた大人達も、一緒に遊んでくれた子供達も、皆平等に蹂躙されていた。


 その悲しみを乗り越えるのに、一日を要した。


 次の日になるまでミトは家から出ることが出来ず、その間、家の外はメロとライラが張ってくれていた。


「あ、あの……すみません、お二人共。夜ご飯、食べますか……?」


 夜になり、その日何も口にしていなかったミトは扉を開けて防御してくれている二人にそう提案した。


「頂くか」

「そうだね。実は私達も丸一日食べていないんだ」


 二人は傷心のミトに寄り添うように家にあがり、居間で同じ食事を口にした。その間、何度も蘇るいつもの日々の記憶に嗚咽が漏れるミトを、メロは頭を、ライラは背中を撫でて慰めてくれた。


 結局村から出ることは出来ず、ミトの家にメロとライラを泊めて一晩過ごすことになった。


「ベッドは当然、一つだけだね」

「なら、今夜は俺が外で張っていることにしよう」

「駄目だよメロ君。それでは君は三徹目に突入してしまうだろう?」

「……なら、どうするんだ」

「ふふん。どうするもなにも」


 ライラはミトのベッドに先に横たわり、ミトを呼びつけて隣に寝転がせた。


「ら、ライラさん、僕が隣で寝ていいんですか!?」

「構わないよ。同性なんだし、気にする事はないだろう?」

「ライラ、そいつは男だぞ」

「なに、ついてるかどうかはさして問題じゃない」

「問題じゃない!?」


 ドギマギするミカを他所に、ライラはメロを手で招いて、


「ほら、まだ余裕があるよ」

「余裕……えぇ!?」

「……はぁ、分かった」


 意味を察したミトは跳ねるようにメロに振り向き、メロは呆れてため息を漏らしながら、ベッドに滑り込んできた。


 小さなミトを真ん中に、ライラとメロがベッドに乗っかった。体の大きなミトの父のベッドを採用していたからか、三人の女性が寝ても問題はない。ないのだ。


 だが、ミトの心臓はうるさく鳴り響いていた。


「ふふん。何を緊張しているんだい、ミト君」

「ふぇ!?だ、だって……」


 耳元でからかってくるライラの声に体を震わせると逆サイドのメロのため息が聞こえてきて、


「傷心の少年に、悪趣味だぞ」

「傷心だからこそ、こうして寄り添って傷を癒しているのさ」

「ああ言えばこう言うな、性悪魔術師」


 一つのベッドの中で、この世で一番と言われても納得するほどに美しい二人に挟まれ、ミトは緊張のあまり息が詰まる思いだった。


 しかし、意外にもすぐに眠りにつくことが出来た。おそらくは、魔獣への恐怖と悲しみ、そしてメロとライラによる安心感に包まれ、疲弊した心と体が休むことを選んだのだろう。


「おやすみ、ミト」


 眠りにつく直前囁かれた声は、酷く優しい子守唄のようだった。まだ小さなミトを寝つかせる母のような───


「おや、寝てしまったね」


 二人の美女を置き去りに、ミトは一足先に意識を手放したのだった。


~~~


 次の日の朝、最低限の荷物と弦楽器ウルールを背負ったミトは、覚悟を決めて家の扉を開けた。


 斜めに差し込む太陽の光に目を慣らし、思いっきり伸びをして前を見据える。


 そこには靴の履き具合を確かめるメロと、昇り上がる太陽を眺めているライラがいた。


「準備、出来たか?」

「はい、バッチシです」


 もぬけの殻、とはいえない自分の家を振り返り、ミトは頷いた。いずれ帰ってくるかもしれない家族のために置き手紙も残し、鍵も閉めた。村人のいないこの村に、ミトが居続ける理由もない。


 吟遊詩人となって世界中を旅する。そんな夢を叶えるために、ミトはメロ達と旅立つことを決めたのだ。


「改めて、ミト・シノノメと申す者です。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」

「それじゃあ、次の街へ行こうか」


 歩み出すメロとライラ。その背中をミトが追ってくる。


 ライラは笑ってミトを仲間に向かい入れ、メロも大仰な反応はせずともミトを受け入れた。


 そして少し大きめなため息を吐いて、


「上手く行ったな、いつも通り、気持ち悪いくらいに」


 そう、口の中だけで呟いた。

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