あの日の悠ちゃんは、背が低くて青白く、ガリガリに痩せていて、表情もどんよりと暗かった。体格的には私と同い年くらいに見えたけれど、表情なんかはちょっと寄り付きにくいくらいだった。つまり、まだ全然ガキだった私でも、なにか訳ありだ、と、察するような様子をしていたのだ。

 『悠一くん、ご飯食べましょうか。』

 お母さんがそう言って、私たちははじめて四人で食卓を囲んだ。悠ちゃんははじめ、自分のお皿によそわれたお料理にさえ手を付けなかった。なにか、怯えているみたいな、ぎこちない感じでじっと座っていた。それを黙ってしばらく見ていたお母さんが、くっきりと、これまではどうだったか知らないけど、これからはなんでも食べていいのよ、と言った。すると悠ちゃんは、泣いた。ごく静かに涙を流す泣き方は、子どもの泣き方ではなくて、ずっと年上の大人の泣き方みたいに見えた。

 『いいのよ。いいの。』

 お母さんは、テーブルの向こうから手を伸ばして、悠ちゃんの手にお箸を握らせた。悠ちゃんは、泣きながらご飯を食べた。私はなんだか圧倒されてしまって、呆然とお母さんと悠ちゃんを見ているしかできなかった。

 悠ちゃんの母親が、お母さんのお姉さんで、そのひとが悠ちゃんを置いていなくなってしまった、という事情を、私が知ったのは、それからしばらく経ってからだ。

 『いいかげんなひとだと思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ……。』

 呆れたようにお母さんが呟いた。私はお母さんが編む毛糸玉がするすると痩せていくのを、ソファに座って眺めていた。幼かった私には、お母さんが話してくれた内容は完全には理解できなかった。でも、とにかく悠ちゃんは大変な思いをしてきたのだな、と、それだけは分かった。お母さんも、それだけ分かってね、と言った。だから私は、突然現れて、お父さんお母さんの関心を攫っていった悠ちゃんに、嫉妬なんかをしなかったのだと思う。それに悠ちゃんは、私にやさしかった。兄弟がいなかった私にとって、いいお兄ちゃんになってくれたのだ。

 『悠一くんは、大人すぎる。』

 お母さんが、お父さんにそう言っているのを聞いたことがある。夜で、私は歯磨きを終えてリビングを横切り、悠ちゃんも入れた家族四人で寝ていた寝室に寝に行こうとしていた。寝室には先に悠ちゃんが行っていて、私の宿題の音読を見てくれることになっていた。

 私はそのとき、お母さんが言うことのなにが問題なのか、全然分からなかった。今は少しだけ、分かる気がする。

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