労働のキャロル(風車/霜焼け/キャロル)

王都の北部に位置する大平原を丸ごと南北に分断する巨大な岩壁が存在する。国境線にもなっている大切断だ。大平原に吹く風が全てこの大壁に遮られて、谷川が存在する一箇所に無理矢理に集められていく。大壁で唯一低い場所となる谷川はあまり水量も多くなく、漁などができるほど豊かではない。

それゆえ谷川のほとりにある私の村の一番の特徴といえば、常に風が吹き続けていることくらいだ。村の端に高台が作られ、高台のうえには風車が作られ、この風を利用しようと先人が考えたのも無理からぬことだ。

風車は常に回り続け谷川の水を少しずつ高台の上に掘られたため池に汲み上げている。高台の上に汲み上げられた水は、今度は高台から流し落とされて、

村で一番の産業施設である水車小屋の動力に使われている。谷川が直接水車を回せればよかったのに川は細くに過ぎ、水量も季節によって安定していなかったためにこうなったらしい。世の中ままならないことが多すぎるが、同時にそれでもあれをこれしてどうにかなっていくものなのだなという教訓をもたらしてくれる。おかげさまで水車はどんな季節でも常に回り続け、村の子供達よりも多い羊たちから集めた羊毛を撚り合わせて毛糸を作り続けている。一定程度の品質の毛糸が安定して作られる、ということで村の特産品として結構評判がいいのだそうだ。水車と風車はこの寒い季節にも常に働き続け、ぎしぎしと音を立てている。水車と風車のデュエットによる労働を賛美するキャロルは、村の大人たちが子どもに労働の尊さを教えるために歌われる。こうして作られた毛糸が手袋となり、誰かを霜焼けからまもっているのだ。




~あとがき~

首から下げたプラカードに輝く「私は原稿を締め切りまでに上げられない敗北者です」の文言に大きくバツして「私は極道入稿する大罪人です」に書き換える。

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三題噺置き場 紫以上 @o_vio

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