第5話 制服の採寸

車に揺られて約20分ほどたっただろうか。

くねくねと曲がりくねった道に立ち並ぶショッピングストリートについた。


百合は車から降り、大きく深呼吸をした。


雨が降った後のような湿った空気感

対して、空はカラッと晴れていて少し肌寒い



司牙はその便りにある住所から店を探し、3人は学校制服専門店に向かう。


 “ご事情により制服の用意が遅れる場合——

 下記の仕立て屋ではご用意できる場合がございます。ご予約を強くお勧めいたします。” 


                             霊殿学院高等学校



店の前に立つと、魅鬼と百合は仲睦まじくおしゃべりをしていた。


「魅鬼君と仲良くなれそうでよかったよ」

「ねえねえ、この街、百合ちゃんのところにも似たようなところあるみたいよ!」


くねくねと曲がりくねった道に立ち並ぶ古いレンガの建物。

百合の近所にこういったショッピングモールはあるが、周りを見渡すと、頭にはねじが付いた男性や、シルクを顔にかぶった女性など、見慣れない姿が百合の横を流れていく。


彼は2人を見て安心した。が、同時に少し羨ましく見えた。

やはり同性の方が距離は縮まりやすいんだな。


少しだけ胸がざわつく。父親らしい感情なのか、自分でもよくわからなかった。


「終わったらカフェでも行こうか」



店に入ると、女性の店員が声をかけてきた。

「いらっしゃいませ、ご予約されていますか」

「はい、司牙です」

「あ、司牙様! お待ちしておりました。本日はお嬢様のご入学おめでとう御座います」

そういって店員は三人を奥まで案内する。



「霊殿学院様ご指定の制服ですね。何なりとお申し付けください」

スタッフは百合に軽く挨拶をした。


腰の前あたりで重ねた長年培ってきたであろう手を見ると、しわに沿って縫い目があった。

手に職をつけたと言うべきだろうか。

顔にも同じように縫い目があり、つぎはぎ人形のようにも見えた。


店内は、ディフューザーがいたるところにおいてあり、高級感がただよっていた。ちょっといい服を着ていかないと緊張しちゃうような、そんなお店だった。


「では、夏服から。早速採寸を始めますね」


すると腕のつなぎ目からメジャーが出てきた。これが能力で、これで仕立ての仕事をしているんだと気づいた。


店員は採寸をしながら話を始めた。


「お嬢様は、この学校でなにか目標などは立てられましたか?」


「あ...えっとその。友達たくさん作れたらなあって」


ごく普通の面白味もない答えだ。

本当のことなんて言えないし、とりあえずその場しのぎで言ってしまった。


「百合ちゃんは、この学校はいるのに苦労したもんね」


魅鬼が横からフォローする。


「霊殿学院は、一流エリートを輩出する由緒ある学校ですものね。私の息子も目指していますが、アドバイスなどいただければ......」


「父が、私の背中を押してくれて」


答えに詰まりそうになっていた百合をかばおうとしたが、魅鬼は彼女の思うようにしてあげた。


 “父” といっても、これも今のうちだと思うと少し虚しくなった。


メジャーで測っていた手をとめ、担当スタッフはバインダーに測った数字を記入していく。


「なるほど、素晴らしいお父様でございますね。私、感動しました。そういえば、お父様は向かいのミスターさんによくお召し物を買いにこられる姿を見かけますのよ」


「へえ、それって何ですか?」

「あら、ご存じないのですか? あちらにございますのが、ミスター・ミスターさんです」


店員の言う向かいのお店を窓からのぞくと、見たことのないようなおしゃれなスーツが並んでいた紳士服専門店だった。


「それにしてもこちらの制服、奇抜なデザインですこと.....どちらの制服ですか?」


あ.....いけない。そんなこと考えてもいなかった!


「コスプレですよ! ね、百合ちゃん」

魅鬼はうまくごまかそうとウィンクをする。


「そうですか、こんな大きくて可愛い娘さんがいるならもっと早く教えて欲しかったです。なんちゃって」


「あのー、僕の噂はその辺で勘弁してください」

カーテン越しから彼の申し訳なさそうな声が聞こえて、少しホッとした。



無事に採寸が終えた百合は、鏡の前で夢中になっていた。


黒い軍服のような制服

下に向かって赤色のグラデーションになっている。しっかりした革のベルトに黒生地のキルトスカートの裾には白線が一本入っている。


こんな立派な制服 “あっち” では見られない。ただ、生地もすごくしっかりしていて、ものすごく高そう。


これ、 “こっち” の父が全部払うんだと思うとゾッとする。


「思ったより早く終わってよかったね。疲れたでしょう。カフェにでも入ろうか。」

会計を終えた司牙は、すがすがしい顔で店を出ていった。


「見てみて! 百合ちゃん、ちょー絶可愛かったよ!! ホーム画面にしちゃおうかな」


魅鬼は鏡に映る百合の制服姿を盗撮し、それを写真を司牙に見せていた。


「魅鬼さん恥ずかしいです!」

「ごめんごめん! 司牙君にも送るから許して?」


「頂戴」

「こら!」

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