剣聖はお金に惑わされない
剣聖は隣町までの護衛依頼を指名で受けていた。オーランドは指定された場所まで訪れた。
「オーランド・ハワードだ。よろしく」
目の前の女性に挨拶をするオーランド。彼女こそが今回の依頼主であり、護衛対象である。身長は160cmちょっと。艶のある黒髪を腰まで伸ばしている。切れ長の目は見方によっては不機嫌のように見えるが、今の彼女は穏やかな笑みを浮かべている。髪と同じ色の瞳はとても綺麗だった。
「私、ソフィア・オルコットと申します。今日はよろしくお願いいたします」
ソフィアは優雅に一礼した。そこには確かな教養と品位があった。
「一つ聞いていいか? 」
「なんでしょう? 」
「なぜ俺を指名したんだ? 」
「一番頼りになる方をと思いまして。ご迷惑、でしたか? 」
「いや、そんなことはない。期待に応えられるよう努力しよう」
オーランドは内心でガッツポーズを作っていた。こういう時の為に鍛えているのだと再確認できた。
「では中にお入りください」
馬車を指すソフィア。扉はすでに開いていた。
「もう一人の護衛の方が中でお待ちです」
中に入ろうと一歩踏み出したオーランドに告げられた言葉は、オーランドの足を重くした。彼は二人っきりのデートみたいなものだと内心ウキウキしていたからだった。
中には身長150cmの小柄な女性がいた。髪は後ろの襟足あたりで切られている。目の色は薔薇のように鮮やかな赤色で、髪の色は明るい紫みの赤色であった。彼女の鋭い目つきはどこか攻撃的な猫を彷彿とさせる。
――――もう一人の護衛とはアメリア・ハリスであった。
ガラガラと進む馬車の中は静かであった。
アメリアは先日の件でオーランドに照れて顔を合わせづらく目が合いそうになったらプイッと窓の方へ向く。
オーランドはそんなアメリアにどう反応していいか分からず、無言であった。
ソフィアは二人がどんな関係なのか気になり質問することにした。
「えっと、お二人はお知り合いなのですか? 」
二人はビクッと反応した。最近の二人は知り合いという言葉に過剰に反応してしまう。
「まぁ付き合いは長いな……10年ぐらいか? 」
「ええ、それくらいになるんじゃないかしら? 」
オーランドは知り合い発言を否定もせず肯定もしなかったが、付き合いの長さは強調しておこうと思った。
「そうでしたか。ちなみにお二人はお付き合いを……」
「してない」「してないわ」
二人とも食い気味に反応した。
「そうですか」
ソフィアはオーランドの方を向く。
「でしたら、私の夫になりませんか? 」
オーランドとアメリアは突然の事に驚き固まった。
「……急にそんな冗談を言わなくてもいい。空気を気遣ってのことだろうが笑えない」
オーランドは先ほどから静かだった馬車内を明るくするための彼女なりの冗談だと思った。
「冗談ではありません。強い人が夫ならプライベートも安心ですから。私、昔から何かと巻き込まれ体質でして。ここまで来るのにも大変でしたのよ」
「その体質については同情するが……」
オーランドはモテたいと思っているが打算的な付き合いはNG派である。純愛至上主義なのでこの話は断ろうとしたところアメリアが割り込んできた。
「やめときなさい。こんな男。女心の一つも理解できないもの。結婚しても苦労するだけよ」
オーランドとしては恋愛指南書から女心を学べたと思っていたため予想外の言葉だった。
「いえいえ、そんなつまらないこと気にしませんわ」
アメリアはソフィアを睨みつけた。目力だけで殺しそうなほどである。
「ハワードさんにとっても魅力的ではありませんか? 私の資産を得られるんですよ? 」
自信気に提案するソフィア。
アメリアはもしもオーランドが損得勘定で相手を選ぶなら勝ち目はないと思っていた。
オーランドは即答した。
「金に興味はない」
オーランドは金に興味がない。彼にとって生きる目的はチヤホヤされることである。そしてそれは金で得る表面的なものではなく、実力で手に入れる事にこそ意味があると強く思っているからである。
今度は逆にソフィアが驚き固まった。
アメリアはオーランドに惚れ直していた。
(そうよね……金で動く人間じゃないわよね! )
「……変わった人なのですね」
ダン、ダン
外から複数の銃声が聞こえた。
「野盗だな」
「まさに、お金に興味がある連中ね」
「ふっ、俺が行こう。オルコットのことは任せた」
オーランドは馬車から飛び降り、野盗の人数を確認する。
(ざっと15……いや17か)
敵の位置と人数を確認後、一息で詰め寄り相手に何もさせずに一人残らず切り伏せた。
野盗退治後馬車へ合流したオーランド。その後も何度か野盗に襲われるも無事に撃退し、隣町に着いた。
「助かりました。また機会があればお願いしてもいいですか? 」
「ああ」
「もちろんよ」
オーランドとアメリアがソフィアに背を向けて歩き出した。
ソフィアはその背中に小さく手を振っていた。
「資産に興味を持たない方など初めてです。どうすれば振り向いてもらえるのでしょうか? 」
「よかったの? 大金持ちになれたかもしれないのに」
「金で夢は買えんからな」
「へぇ〜。どんな夢なの」
アメリアはオーランドの隣まで駆け寄る。
「……秘密だ」
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