剣聖は賞金稼ぎをデートに誘いたい

オーランドは町外れの崖の上にいた。


「あの小屋か……」


 オーランドは崖の上から小屋を見ていた。大きさは一般的な小屋の大きさであった。オーランドは先日捕まえた銀行強盗団の下っ端からアジトの場所を吐かせていた。かなりの人数で組織的に犯罪を行なっていたという。小屋はあくまで入り口のカモフラージュで地下に盗んだ金と組織の人間がいるらしい。

 

「奴は元宮廷魔術師がいると言っていたが、もしそれが本当なら……アメリアが来ているのは心強いな」


 オーランドは少し距離を置いた所にいるアメリアに向かって言った。


「ふん。私は最悪よ。せっかく独り占めできると思ったのに……」


「すまない……こちらも仕事でな」


 オーランドはアメリアと仕事中に遭遇できて嬉しいと思っていた。ただアメリアにとって自分は知り合い。彼女にとってはそこまで嬉しいことではないのかもしれないと見当違いのことを考えていた。


「で、何か作戦はあるのかしら? 」


「アジトに突っ込んで逃げる前に全員捕縛する」


「やめときなさい。魔法罠が仕掛けられてるわ。一つ一つは弱いけれど数が多いわ。あんたは鈍臭いから下手したら逃げられるかもね」


「そうか……」


 オーランドはアメリアの忠告を聞き入れ、作戦を変更することにした。が、オーランドにとって新しい作戦を考えるよりもアメリアと何を話すべきかを考える方が重要であった。


 一方アメリアはオーランドを引き留めることができてホッとしていた。アメリアはオーランドともっと一緒に居たかったのである。確かに魔法罠は仕掛けられているが、オーランドならば罠が起動するより速く小屋へ到着することができるし、そもそも罠は既に解除済みである。もちろん相手に気づかれないように、である。


アメリアは一秒でも長く好きな人と一緒に居たかった。ただし問題があった。オーランドと何を話せばいいのかわからないのである。オーランドと同じくアメリアもまた強盗団を捕まえる方法より何を話すかを考えよる方が大事であった。


 長い沈黙の末、オーランドが話しかけることにした。オーランドはある作戦を思いついた。強盗団を捕まえる作戦ではない。アメリアと仲良くする為の作戦である。


「……アメリアは甘いものが好きだったな? 」


「ええ、まあ、嫌いじゃない、わね」


 唐突な質問にたじろぎながら答えるアメリア。


「最近、新しくカフェができてな」


「へぇ、そう、なんだ」


 アメリアはひょっとしてデートに誘われるんじゃないかとドキドキしながら答える。


「今度……」


 ――パン。


 オーランドはアメリアを見ながら片手で飛んできた銃弾を掴む。


「今度、なに?」


 アメリアは攻撃されたことを気にも止めずに、オーランドに言葉の続きを促す。


「今度……」


 ――パン


 またしてもオーランドめがけて銃弾が飛んできた。今度も手で掴んだ。


「今度……」


 ――パン、パン、パン。


 次は連続で飛んできた。手で全て掴んだ。


 彼らは思った。


 (鬱陶しい……!) (鬱陶しいわね……!)


 二人は強盗団を捕まえにきたことを半ば忘れていた。

 

「俺が突っ込む。サポートは任せた」


「ちょっと……!」


 オーランドは強盗団のアジトに向けて突っ込んだ。


 (勇気出してデートに誘おうとしているのに邪魔しやがって)


 オーランドは苛立っていた。目にも止まらぬ速さで小屋に接近すると目につく奴らを片っ端から気絶させていった。


 小屋の地下へも入って行き、同じように目につく奴は片っ端から気絶させていった。

 

 アメリアが小屋に着く頃には既に立っている者はオーランド以外いなかった。


「ありがとう」


「え? 」


 アメリアは急なオーランドからのお礼に困惑した。盗賊団は全てオーランド一人で倒していたからである。


「罠が発動しなかった。事前に解除してくれたのだろう? 」


「……ああ」


 アメリアは罠の事などすっかり忘れていた。そんな事より先程のオーランドの続きが気になって仕方なかった。


「そんなことより……今度……何よ? 」


「ああ、今度一緒にカフェにいかないかと誘おうと思ったんだが…… 」


「別に……いい……けど」


 アメリアは予想通りのデートのお誘いで舞い上がりそうになったが必死の思いで押し殺した。


 オーランドもまた、デートの承諾を受けて踊り出したくなるほど嬉しかったが、必死に堪えた。

 

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