剣聖は賞金稼ぎとの距離を知りたい
「オーランド! 」
昼過ぎの事務所に大声が響く。声を出した人物はズカズカと事務所の中に入っていく。入ってきたのは身長150cm程の小柄な女性だった。髪は後ろの襟足あたりで切りそろえられている。目の色は薔薇のように鮮やかな赤色で、髪の色は明るい紫みの赤色であった。オーランドは書類から顔を上げて、入ってきた女性を見る。彼女の鋭い目つきはどこか攻撃的な猫を彷彿とさせる。
「どうした? アメリア」
「賞金首を持ってきてあげたわ! 」
そう言って、アメリアと呼ばれた女性は縄でぐるぐる巻きにされた男をオーランドの前に突き出す。
「そうか。手続きが終わるまで座って、待っていてくれ」
オーランドが椅子を引き、そこに慣れたようにどかっと座るハリス。
「リベラ、悪いがコーヒーを三人分淹れてくれるか? 」
「はい」
エレナはコーヒーを淹れに行く。オーランドは手配書がまとめてあるファイルを手に取り、男の名前と一致する手配者を探す。特徴が全て一致したところで男を牢に連れていく。
牢に男を入れ、賞金を金庫から取り出したオーランドはアメリアの元へいき、賞金を渡す。同時にエレナが三人分のカップと砂糖とミルクをトレーに乗せて持ってくる。
「賞金だ。せっかくだ、ゆっくりしていってくれ」
オーランドはエレナからトレーを受け取り、三つのカップと人数分のスプーン、砂糖、ミルクを置く。
席を引き、エレナを座らせた後、隣に自分も座る。
「アメリア、彼女は新しく部下になった子で名前をエレナ・リベラという」
「エレナ・リベラです」
エレナはぺこっとお辞儀をする。
「私はアメリア・ハリスよ」
アメリアはコーヒーに砂糖を入れながら答える。もう五杯入れている。
「アメリア・ハリスって宮廷魔術師団でも一、ニを争う凄腕魔術師のアメリア・ハリスですか? 」
エレナは目を丸くして驚いていた。
「元よ。今は賞金稼ぎ」
アメリアは砂糖を10杯入れたところでやめ、今度はミルクを入れ始める。溢れる一歩手前でやめてゆっくりとかき混ぜている。
「アメリアは宮廷魔術師団を辞めた後、アンスリウム地区で賞金稼ぎを始めてな。次々と賞金首を捕まえてくれて騎士として助かっている」
オーランドに褒められハリスは得意げになる。
「あなた達騎士が役に立たないんだもの。この地区の平和は私なしでは成り立たないわね」
「他の町は知らないが、少なくとも俺はアメリアなしではやっていけん。この事務所にある防衛機能はハリスの力で成り立っているからな」
「そうだったんですか。ではあの見えない扉の仕組みも? 」
エレナは気になっていた扉のことを聞く。
「もちろん、アメリアが設定してくれた。そうだアメリア、後で事務所の魔法システムを見てくれないか? 先日襲撃された際にベルを壊されてな。他にも影響があるかもしれない」
オーランドはアメリカの方を向いてお願いをする。アメリアはますます得意げになる。
「いいわよ。全く、剣聖と言われようと私がいないと何もできないんだから」
混ぜ終えたコーヒーをゆっくりと飲むアメリア。
「ハワードさんとハリスさんはどういったご関係なのですか? 」
オーランドは考えた。そして思った。ハリスと俺の関係ってなんだ? と、オーランドとアメリアは元々王都で出会い、そこから様々なことがあって今の関係に至る。
オーランドはアメリアに対しては他の女性よりも気を遣って接している。今でこそ落ち着いているが、元々アメリアはかなり攻撃的だったのだ。偶にその時の片鱗を見せるのでこの回答も気をつけて発言しなければならない。
知り合いというには付き合いが深く、友達ほど距離が近いわけではない。仕事上のパートナーと言うとオーランド的に寂しい気もする。
「そうだな……そう言われると難しいな。アメリアはどう思う?」
考えた末に出した結論はアメリアへのパスであった。オーランドはこの質問を機にアメリアが自分をどう思っているかを知ろうとした。アメリアにとって自分は知り合いなのか、友達なのか、仕事上のパートナーなのか、それとも特別な関係なのか。距離感を制するものは恋愛を制すると恋愛指南書「彼女が途切れない7つの方法」に書かれていた。
「そうね……ただの……知り合いよ」
「そうでしたか」
エレナは特に深掘りせずに下がった。
対してオーランドはショックを受けていた。アメリアとの付き合いは長く知り合い以上の関係は築けていると思っていた。ただアメリアが知り合いだと思うのであれば、もっと接点を増やし知り合い以上になる努力をしようと思った。
「そうだな……」
ただ立ち直ったつもりだったオーランドだが、思いの外ショックを受けていたようで表情はいつも通りでも声に覇気がなかった。
アメリアはオーランドの声からショックを受けていることはわかったが、内心焦るだけで上手くフォローする言葉が見つからなかった。
なぜなら、アメリアにとってもオーランドとの関係が分からなかったからだ。知り合いと言ったのはオーランドが否定できない言葉を探した結果である。保険である。
アメリアはオーランドが好きだった。異性として好きなのである。日頃恋人になりたいと思っている。しかし、好意を口にするのは恥ずかしいし、心の準備ができていない。
友達と言えるほど深い仲ではないし、仕事上のパートナーと言うとはアメリアも寂しい気がした。正直知り合いと言った自分の言葉を否定してくれることを期待していた。オーランドを傷つけるつもりはなかったのである。
知り合い以上にオーランドが思ってくれていて嬉しいが、知り合い発言を撤回することが恥ずかしくて出来ないアメリアは出されたコーヒーを一気に飲んで立ち上がる。
「賞金ももらったし、今日は帰るわ。コーヒーご馳走様」
「よろしければ、いつでもいいのでお話しできませんか? 宮廷魔術師団時代の話をお聞きしたいので」
エレナは帰ろうとするアメリアに声をかける。
「暇だったらね」
「待ってくれ」
オーランドは外へ出ようとするアメリアへ声をかけた。
アメリアはドキッとして立ち止まる。
「何かしら? 」
振り返り、キリッとオーランドを見つめる。つりがちの目尻がさらに吊り上がった。
「……事務所のシステムを見ていってほしんだが……」
「……そういえばそんなこと言ってたわね」
アメリアは事務所の魔法システムを見直した。外から中の人間を呼ぶシステムが壊れていただけだったので直して帰った。
――――オーランドは事務所のシステムのことで呼び止めたのではなく、エレナのように自然と次会う約束をしようとしただけであったが、アメリアが怒っているように見えたので咄嗟にシステムのことを話しただけであった。
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