魔王とは勇者である -とある錬金術師の手記より-

神成ヨハネ

魔王城調査報告書 一

とある手記について


王国歴382年 五の月 08日 早朝

記録者:王国軍 第二師団 第一小隊 隊長 リベル・カラムス


勇者一行が魔王城へ進攻したとのしらせから、すでに五日が経過しようとしている。

にもかかわらず、凱旋がいせんの報告も、彼らの姿を見た者の証言も届かない。

よって本日、我ら調査部隊は魔王城への潜入を実施する。


【城門】

城門は大きく破損しており、扉は裂け、石畳には斬撃痕ざんげきこん及び、破砕痕はさいこんが確認された。周囲には多数の魔物の死骸が散乱している。


兵士証言:現場で確認した魔物の死骸は、一刀で斬り捨てられたという単純な外傷像ではなく、怨恨を示唆する損傷所見が認められた。


【大玄関】

玄関広間および大通路は異常な静寂に包まれていた。壁面には焼痕しょうこんが確認され、床面には斬られた魔物の肉片が散在している。


兵士証言:現場において、何者かの視線を感じるような、妙な気配が断続的に確認された。


【回廊】

大通路の奥より左右に回廊が分岐している。右回廊は崩落により進行不可。

なお、左回廊の燭台には火が灯っており、維持は生存者による可能性がある。


回廊の先には二つの扉を確認した。


【右の扉:拷問室】

拷問室内には錆びた鎖および鉄具が散乱していた。鉄製の椅子が配置された床面には、黒色の乾燥痕が確認される。


医療兵の検証:現場で確認された乾燥痕は、数日前に形成されたものと推定される。


【左の扉:祭壇の間】

中央に黒曜石製の祭壇があり、天井から垂れ下がる鎖により生贄を固定する構造が残存。床面には比較的新しい血痕が確認された。


医療兵の検証:血痕の乾燥状態および付着状況から、形成後おおよそ一日と推定される。


【最奥の大広間】

大広間は崩落及び甚大な損壊を受けている。瓦礫の中で血に濡れた書籍を発見。裏表紙には「クルダス」と署名があり、筆致より王国認定の錬金術師クルダス公の〝魔力手記〟と推定される。


兵士の証言:現場捜索中、耳元で囁くような気配を感じたとのこと。詳細な確認は現時点では不可能。




【総括】

城内各所に戦闘痕が認められるが、魔王および勇者一行の遺体は確認できなかった。

現段階では、魔王討伐の成否および勇者一行の生死について判断不能である。


唯一の手掛かりである魔力手記は、裂け目や血痕に覆われているが、内容の大半は判読可能である。

日付や場所の記録も残されており、勇者一行の足跡を克明に追える可能性が高い。


これより、手記の精査を開始する。




【補記】


 一体、どの程度までを、御上おかみに報告すべきなのだろうか。

 何気なく手記を裏返したとき、本官は確かにそれを目にしてしまったのだ。


 乾きかけた血で殴り書かれた、一行の文字。



「魔王とは、勇者である」



 息が詰まり、手が震える。

 魔力手記とは、あたかもその場面を切り取ったかのように紙の中に光景を記録し、その再現をいつでも幻像として映し出せるという、錬金術師御用達ごようたしの特殊な手記である。


 つまり、この中にすべての真実が眠っているのだ。


 理性では、読まぬべきだと分かっている。

 それでも、一ページ目をめくるその手は止められなかった。


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