クニク(9月29日)にちなんだ掌編・『苦肉の策』

夢美瑠瑠

第1話

掌編・『苦肉の策』


(今日の9月29日{ク・ニ・ク)にちなんだものです)


 …草深い、山奥の村に、正直な百姓が住んでおったとな。


 よく働いて、冬には猟師もしておった。

 狩猟の腕もなかなかで、山鳥やキジも一度見つけると取り逃がすことはめったになかった。


 イノシシもよく一撃で仕留めた…眉間の急所を、100メートル離れていてもあやまたずに撃ち抜くことができたのである。


 愛犬で、賢い犬の、アカを飼っていた。

 猟にはこのアカがお供した。

 赤犬で、ふさふさしたシッポ。

 鼻がよく効いて、機敏で、疲れを知らない元気な精力的なワン公だった。


 ある日、百姓が夕餉の支度をしていると、立派な白い髭の将軍が家を訪ねてきた。

 「ここは…どこですか? 道に迷いまして…」

 「ここは、深谷というところで、文字通りの深山幽谷。 なあんにもないところです。 わたしが犬と二人暮らししているだけです」

 「それはそれは。 お百姓さんはふもとへ出る道はわかりますよね?」

 「もちろん知ってはいますが、おっそろしく遠いですよ。 今日はもう無理ですね。 明日なら道案内してあげられますが」


結局、将軍は一宿一飯の恩義を、こうむることになり、旅装を解いて、百姓の狭いうちにいっとき、くつろぐことになりました。


 「お百姓さんはずっとここに御住みですか?」

 「いえ、若いころには仕官していて、お城の侍頭でしたが…すまじきものは宮仕え。  

 だんだん嫌気がさして、こうやって晴耕雨読、悠々自適の生活を選んだのです。

 が、いざ大阪城というときには、はせ参じる覚悟はあります」

 「どこかで聞いた話ですな」

 「有名な”いざ鎌倉”の故事ですよ。 いっぺん言ってみたかったんや」

 「なるほど。わははは。 面白い方だ」

 「そのハナシでは、主人が大事にしていた植木を燃やして、将軍の暖をとったことになっている…そうだ! もてなしたいが、なにもごちそうがありません。 うちにはよく太った赤犬がいます。 赤犬の肉はよく温まるそうです。 わたしもだいじなものをあきらめて、将軍のために…」


 それを、土間の犬小屋で聞いていたアカは、びっくりして飛び上がりました。

 「なんだって? 冗談じゃない! おれをオモテナシのごちそうにしようってのか? 大変だ! 逃げよう」


 アカは、逃げようとしましたが、そこは名犬で、一計を案じました。

 前に猟に行ったときに、タヌキの穴に火をつけていぶりだそうとして、火の勢いが強かったので、タヌキを捕まえずに帰ったことがあった。

 主人はもう忘れているが、あそこにはまだ死んだ狸の肉があるはずだ」


 びゅんっと、脱兎のごとくに駆け出して、忘れもしない、あのタヌキの穴に潜り込んで、タヌキの肉をくわえてまた飛んで家に戻りました。


 百姓がアカの犬小屋が空なのを訝しんで、「アカ、アカ」と呼んでいるところにタヌキの肉をくわえたアカが戻ってきた!


 「アカ! なんだい、猟にってたのか? おや、タヌキの燻製肉か! どこにあった?」


 アカの機転で、主人は将軍をたっぷりの燻製肉でもてなすことができた…燃えた煙で天然の燻製肉ができていて、で、保存がきいていたのです。


 「うまい! これは上等の燻製肉ですな! 酒が進みますな!」


 将軍は悦にって、おおいに放歌高吟しました。


 アカの「苦肉の策」が奏功したわけですが、おいしいけれど?燻製の肉だけに文字通りひどく「苦かった」そうです。


 ポテチン。

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クニク(9月29日)にちなんだ掌編・『苦肉の策』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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