第2話 刃物
それは刃物のようだった。
展開してみればそこには「霊能異理」と刻まれている。言葉の意味は分からないが、なにか恐ろしい事が起こるような空気を感じた。
写真家になって色々なところへ行っているうちに涼は危機を感知する事が得意になっていた。
恐る恐るそれを掴んで、展開する。
そして、「
「そうか」
涼の肉体は変化していた。黒い強化筋肉が皮膚の上を覆い尽くし、更にその上に白い強化皮膚が覆い尽くす。強化皮膚は顔すらも覆い隠し、黒い複眼が眼球を保護する。
「俺に力をくれるのか、怪奇エンバー」
頭の中に浮かぶビジョンでは「怪異を殺せ」と戦士が叫ぶ。
これ以上、力なく死んでいく非力な人類に悲鳴を上げさせないために、立ち上がるべき男が一人。
どうせ死に場所のない命だ。構わないな、と思いながら拳を握った。どうせ居場所のない命。
妹を護れず、母を護れず、自分の命ばかりが助かっていく。
もし彼処で死んだのが自分であったなら、汚されたのが自分であったなら、どれほど二人にとって幸福だったか。
何度だって叶わないことを思った。
加害者の親が頭を下げてくるのを見て、汚い生き物だと思った。頭を下げれば人が許すと思っているような、知恵の薄い意志薄弱の屑だと思う。
ああいう悪性人類をまもるのは誓って御免被りたいが、なにはともあれ、力なく倒れていく人間を守れるのは有り難い。
怪奇エンバーを閉じると変身も解除された。
涼は怪奇エンバーを懐にしまい込んで、最低限必要な荷物を持って、すぐに東京に向かうことにした。
家は捨てることにした。思い出もいらない。
東京に出ると葛飾にある小さな木賃の部屋をひとつ借りて、底で生活をすることにした。
それからすぐになって電話機に向かい、伴伊に東京に出たというような事を言うと、「急だなぁ」と驚かれる。
「君をわざわざ岩手まで赴かせるというのも申し訳ないからなぁ。それに東京の方がいろいろなところへ行きやすいだろ」
「花巻に飛行機あるだろ。あれどうすんの」
「あんな物、くれてやるさ」
「そうかよ」
そうして東京に良い喫茶は無いかと探してみる。
色々な所を歩き回ってみると、頭の上に「感嘆符」が登場現れ、ラッパのような音が鳴った。
これは危機が近づいた時に現れるものである。
要するに危機察知能力で、とても便利。
「何処だ?」
感覚に従って歩いていくと、其処には祠のようなものがあった。
そして、その祠からはドロドロと黒い何かが溢れ出していた。
「ホォ……これが怪異……」
怪奇エンバー 蟹谷梅次 @xxx_neo
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