真犯人は笑っているよ 結



「私の負けね」


 黒の着物の裾で口元を押さえて、冴継十世は笑う。


「――鈍感な子だったけど、あなたのトリックに何とか気付いてくれたわね」


 私、四之宮裕子はまたがらんとなった館でそう言い返して、あの日と同じように階段に腰を下ろす十世を見下ろした。


「これで、六勝五敗かしら。いい勝負になってきたわよね。次は何年後になるのかしら」

「さぁてね、またあの家の子が増えて来たなら呼びましょう」


 私はそう言って、くるりと舞う。それを見て、十世も立ち上がってくるりとする。

 昭和の初め、十世は父を死に至らしめた。酷い父だったのだという。恨んでいたのだという。私はその日、彼女の父、私にとっての祖父に呼ばれて単身、館へ遊びに来ていた。私と十世はすぐに友人になった。その時はその凍りついた感情――殺意に気付くこともなかった。

 そうして祖父は亡くなり、それが殺人だと気付いたのは私だけだった。私は友人の十世に真相を質した。十世はそれを認めたが、私は真相を知ってもなお、口を噤むことにした。


 それが過ちだったのだ。

 聞き耳を立てていたのは、横山家の人間であった。祖父には莫大な遺産があり、それを手に入れるため、私たちはこの館に閉じ込められた。

 火あぶりの館とは、嫌な名前をつけられたものだ。

 きゅっと十世は私の手を握る。燃え盛る炎の中、必死で扉を叩いたあの日はきっと忘れることはないだろう。悔しさも、憎しみも未だ消えずにここにある。

 私たちの時間と心は、燃え盛る炎の中、決して灰にはならぬように、強く強く、身体の奥底で凍り付いてしまったのだ。

 もうお気に入りの桜色の日傘も、十世の大好きだった淡い青色表紙の詩集だって、もう手に取ることも出来なくなった。


 ――暇があれば、新しい遊びを考えるのはいつの時代も同じだ。


 そんな私たちは新しい遊びを考えたのだ。

 恨む者を十世が導き、暴く者を私が導く。

 これは千代祟る、私たちの呪い。




 ほらね、真犯人は笑っているよ。


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推理合戦バー シリーズ 佐渡 寛臣 @wanco168

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