第4話 アルバイト。

次の日、バイト初日、タムラくんが目を覚ましたのは、朝10時だった。完全に遅刻だ。急いで服を着替え、食パンを一枚口にくわえ、アパートを出た。自転車に乗ると、バイトと先の「はるみ」まで、全力でこぐ。途中、わき道から出てきたタクシーとぶつかりそうになり、また、道端に寝そべっていた三毛猫を轢きそうになりながら、店に着くとドアを押した。息が上がる。ママがカウンター越しからタムラくんを睨む。タムラくんは、言う。

「すみません、ママ、寝坊をしてしまって。」

「いい度胸ね。いいから、このエプロンを付けて。」

ママは、机の上のブルーのエプロンを取るとタムラくんに投げて渡す。

「もう、掃除も終わり、準備も済んだから、11時には、店を開けるわよ。いいわね。」

ママは、ドアを開けると店看板を出して、のぼりの旗を出した。「オープン」の札をドア先に掛ける。11時になった。早速3人のサラリーマンが店内に入ってきた。

「私が注文を取って来るから、よく見ていなさい。次からタムラくんにやってもらうからね。」

ママは、そう告げてホールに出る。丁寧にお辞儀をして、注文書に書き込む。ペコペコかしこまるママ。口調も色っぽい。

戻ってきてタムラくんに言う。

「今のでわかったでしょう。それから、空き時間に、このマニュアル表とメニューを見て覚えなさい。いい。それから、テーブルは奥から、1、2,3、4,5,6,7番よ。一度きりしか言わないよ。」


一人のサラリーマンが入ってきた。タムラくんは、ビビりながら注文を取りに行く。サラリーマンがオーダーする。

「キリマンジャロをブラックで。それから、チーズハムサンドを一つ。」

タムラくんは、震えながら、伝票に書き込むと、カウンターにいるママにオーダーを告げる。ママは言う。

「タムラくん、おずおずした態度は辞めなさい。ダンディーにね。さぁ、これをお客様に運んでちょうだい。このコーヒーを1番のお客様に、そして、このサンドイッチを2番に、こっちを6番に。タムラくんは、頭がいいのだから。」

タムラくんは、何時も通っていた頃の笑顔のママとは、全然違った厳しい口調に戸惑いながら頷く。

「こりゃあ、大変。仕事って、大変。」

と思いつつ働く。


午後一時に、30分間の休憩を取り、タムラくんは、牛乳とサンドイッチを口の中に押し込み、すぐ、次々と店に入ってくる客のオーダーを取りに行く。

ママも息つく暇がない。コーヒー豆を機械で轢き、ドリップする。その間に、スパゲティーやカレーライスを、せわしなく作り、ジャズのレコードを、取り換えにターンテーブルに駆け寄る。ママは、口調を荒々しくして、言う。

「タムラくん、流しのお皿を洗って、それから、バタバタしないで。それと、慣れてきたら、タムラくん、コーヒー煎れてね。あと、ジャズのアルバムも覚えて頂戴。約1000枚あるからね。」


あっと、言う間に4時になった。ママは、額の汗をぬぐい

「タムラくん、お疲れさん。」

と言った。

タムラくんは、ほっとして言う。

「ママ、これから、僕は、この店で、彼女とデートです。」

ママは、驚いて言った。

「まぁ、近頃の若い者ときたら。」

タムラくんは、頭を掻いて、照れ笑いをした。


                       END.



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タムラくん、コーヒーを煎れる。 トシキ障害者文人 @freeinlife

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