第25話 旅立ちの朝

神殿の戦いが終わって数日。


崩れた壁は修復され、泉は清らかに輝きを取り戻していた。


猫たちの国は再び穏やかさを取り戻し、あちこちで笑顔が広がっている。


柊は王子として認められ、仲間猫たちに囲まれていた。


けれど、その横顔はどこか遠くを見ているようだった。


「ご主人さま……僕、決めたんだ!」


陽介の方を振り返り、柊は真剣な瞳で言った。


「闇は消えたけど、まだ国のあちこちに影の残滓がある。


だから僕は――猫の国を守る旅に出たい」


陽介は少し目を伏せた。


都会での日常、仕事、ひとりでの生活――。


そのすべてが頭をよぎったが、胸の奥で答えは決まっていた。


「……わかった。俺も一緒に行く。お前のご主人さまとして」


柊の耳が震え、尻尾が嬉しそうに揺れた。


「本当に……? ずっと一緒だよね?」


「ああ。当たり前だ!」




夜明けの空に、淡い光がし込む。


猫の国の仲間たちが二人を見送りに集まった。


「王子さま、陽介さま……どうかご無事で」


柊と陽介は並んで歩き出す。


背中には、猫たちの温かな視線。


寄り添う二人の影が、朝の光に長く伸びていた。


――こうして、猫の国を巡る新たな旅が始まった。


二人の物語は、まだ終わらない。

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