第9話 月夜の宴

広場の真ん中に導かれると、月明かりに照らされた石畳がまるで舞台のように輝いていた。

すでに多くの猫族たちが集まっており、俺と柊の姿を見つけると一斉にざわめきが広がる。


「……柊王子がお戻りになられた!」


誰かの声が響いた瞬間、猫族たちは一斉に頭を垂れた。

小さな子猫のような者から、威厳ある老猫まで――皆が柊を見つめるその光景に、俺は思わず息をのんだ。


「王子……」

隣の柊は少し照れくさそうに笑いながらも、堂々と胸を張っていた。

その姿は、普段の無邪気な“猫男子”ではなく、本当に“国の王子”としての輝きをまとっていた。


やがて宴が始まった。

石畳の広場には大きなテーブルが並べられ、色とりどりの料理が並んでいく。

焼き魚、甘いミルクを使ったデザート、香ばしいハーブ入りのスープ――どれも猫族らしく魚や乳製品が中心だ。


「ご主人さま、ほら、これ食べてみて!」

柊が皿を差し出す。

俺は困惑しながらも口に運び、その意外と美味しさに驚いた。


「……うまいな」

「でしょ? 僕らの国の料理だからね」

柊の尻尾が嬉しそうに揺れる。


周囲の猫族たちも、柊に話しかけては笑い合っている。

その光景を見ながら、胸が少しざわついた。

――こいつは俺だけの“猫男子”じゃなかったんだ。

ここでは、皆が彼を慕っている。

俺なんてただの部外者じゃないか。


そんな思いがよぎったとき、不意に柊の耳がぴょこんと揺れた。

次の瞬間、頭の中に声が響く。


(……ご主人さまが一緒にいてくれるから、僕は笑顔になるんだよ)


心臓が跳ねた。

顔を見上げると、柊が真っ直ぐに俺を見て微笑んでいた。

その一瞬、胸のざわめきが溶けていくのを感じた。


だが、宴の盛り上がりの中。

広場の片隅で、ひとりの黒い影がじっとこちらを見つめていた。

月明かりに照らされても、その瞳だけは闇のように冷たい。


――宴に紛れて、確かに何かが忍び寄っている。

それに気づいたのは、俺だけだった。

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