第9話 月夜の宴
広場の真ん中に導かれると、月明かりに照らされた石畳がまるで舞台のように輝いていた。
すでに多くの猫族たちが集まっており、俺と柊の姿を見つけると一斉にざわめきが広がる。
「……柊王子がお戻りになられた!」
誰かの声が響いた瞬間、猫族たちは一斉に頭を垂れた。
小さな子猫のような者から、威厳ある老猫まで――皆が柊を見つめるその光景に、俺は思わず息をのんだ。
「王子……」
隣の柊は少し照れくさそうに笑いながらも、堂々と胸を張っていた。
その姿は、普段の無邪気な“猫男子”ではなく、本当に“国の王子”としての輝きをまとっていた。
◇
やがて宴が始まった。
石畳の広場には大きなテーブルが並べられ、色とりどりの料理が並んでいく。
焼き魚、甘いミルクを使ったデザート、香ばしいハーブ入りのスープ――どれも猫族らしく魚や乳製品が中心だ。
「ご主人さま、ほら、これ食べてみて!」
柊が皿を差し出す。
俺は困惑しながらも口に運び、その意外と美味しさに驚いた。
「……うまいな」
「でしょ? 僕らの国の料理だからね」
柊の尻尾が嬉しそうに揺れる。
周囲の猫族たちも、柊に話しかけては笑い合っている。
その光景を見ながら、胸が少しざわついた。
――こいつは俺だけの“猫男子”じゃなかったんだ。
ここでは、皆が彼を慕っている。
俺なんてただの部外者じゃないか。
そんな思いがよぎったとき、不意に柊の耳がぴょこんと揺れた。
次の瞬間、頭の中に声が響く。
(……ご主人さまが一緒にいてくれるから、僕は笑顔になるんだよ)
心臓が跳ねた。
顔を見上げると、柊が真っ直ぐに俺を見て微笑んでいた。
その一瞬、胸のざわめきが溶けていくのを感じた。
だが、宴の盛り上がりの中。
広場の片隅で、ひとりの黒い影がじっとこちらを見つめていた。
月明かりに照らされても、その瞳だけは闇のように冷たい。
――宴に紛れて、確かに何かが忍び寄っている。
それに気づいたのは、俺だけだった。
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