旅の軌跡
究極の猫背
第0話【僕の世界】
そこはまるで、
世界を希望で包み込んでいるかのように美しい光が輝き走る円形の大聖堂。
静かに手と手を繋ぎ、神に感謝し、祈りを捧げ、清らかに生きる事を誓う場。
しかしながらその大聖堂は、その風格に合った眩い輝きを放ちながらも、
激しい衝撃を受け、いたるところに亀裂が入り、
天井からボロボロと似合わぬ土埃が降り注ぐ。
そんな今にも崩れ落ちそうな大聖堂に、13人の男女がいた。
「ハハ⋯」
その内の一人⋯白髪の男は、不快な笑みを浮かべながらゆっくりと息を吐き、
頬に着いた血を親指で拭いながら中央に佇む。
その白髪の男を、10人が各々武器を手に持ち、
明確な敵意を向けながら囲うように立っていた。
皆が白髪の男に激しい思いを胸に抱き、この場に訪れていた。
しかし、そんな10人の目に入っていたのは、
今皆で討ち倒そうとしている白髪の男ではなかった。
全員が目を向ける物はそのすぐ側にあった。
白髪の男⋯その足元には、長い白剣を硬い床に突き刺し、
血を流しながら座り込む黒髪の男の姿があったのだ。
意識を失い、顔から滴る血が鼻先を赤く染め、ポタポタと純白の床に落ちる。
皆が目を震わせ、息を乱し、黒髪の男を見続ける。
⋯故に自分達に襲いかかろうとしている脅威に気がついたのは、
この大勢の中でただ一人だけだった。
遠くから見ていた一人の者だけが異変に気づき、
口を勢い良く開いて怒号を響かせる。
「避けろぉぉぉぉぉっ!!!!!」
全身に力を入れ、短い剣を手にしっかりと持ちながら、
皆に脅威を伝えようと発せられた声。
それにピクリと反応し、皆が倒れている者から白髪の男へと目を向ける。
しかし、皆がやっと視界に白髪の男を捕らえたその時、
既に彼の胸部辺りで、真っ黒で異質な光が抑えられていた。
「待ッ──!」
気づいてから言葉を口にする猶予もなく、
その光は、解放されると同時に雷のような形を成し、
一瞬にして四方八方へ向い飛んでいく。
その『攻撃』に皆も尋常でない速度で反応し、動く。
ある者は同じ性質の物を放ち、相殺しようとする。
ある者は瞬時に鋼鉄のように硬い壁を作り、仲間を気にかける。
ある者はどうにか避けようと、不思議な力で宙へ浮かぶ。
各々が自分にできる事を成そうと必死に行動を起こす。
しかし、形を成したソレはまるで意識があるかのように邪魔な物を認識し避け、
目を前にある目標を追尾した。
そして⋯この場にいる者達の体を貫き、鈍い音を複数回響かせた。
体に大きな穴が空き、血が止まらず流れる。
だが、自身に開いた穴を手で抑えながら、
仲間を気にかけ一歩⋯また一歩と向かおうとする者もいた。
しかし、そんな思いも虚しく、荒れていた息も次第に小さくなり、
体を貫かれた者達は、皆変わらず次々と倒れ込んだ。
そんな無残な敗者達を見下しながらも、
白髪の男は不快そうに目を細め、辺りを確認をする。
「⋯一人、逃れたのがいるな。煩わしい。」
だが、白髪の男は再び辺りを見渡すと、
その光景に、先程とは違いとても満足したように笑みを浮かべていた。
「────まぁいい。」
手の甲で口元を覆い、溢れ出そうになる笑い声を必死に抑える。
自身の道を邪魔する不快な者を消し去った愉悦に、
白髪の男はどっぷりと浸っていたのだ。
そんな白髪の男が立つこの場は、完全に静まり返っていた。
聞こえてくるのは崩れた壁の隙間から入り込んでくる風の音。
美しく光り輝く大聖堂の中に大きな声が響き、
その三十秒後には静寂がこの神聖な場を支配した。
だが、その静寂の中で目を覚まして起き上がる者がいた。
「うん⋯?」
ピクリと動いたその者の体を見て、白髪の男は不敵な笑みを零す。
「ハハ⋯⋯ おはよう。」
その嘲笑うような声に反応し、白髪の男の側で膝を折っていた黒髪の男は、
ゆっくりと瞼を上げ、完全に目を覚ました。
「⋯⋯?」
頭をフラフラと揺らしながら起こし、
自身が膝を折り、眠っていた間に何があったのか?そう思い、周囲を見渡す。
そんな彼が見た光景は、まさしく絶望だった。
広がっていく血の池に身を漬けながら動かない仲間。
着ていた服は布切れの様にボロボロだが、その身に傷一つなく立っている白髪の男。
その光景に心が押し潰され、黒髪の男の体は崩れた。
涙とゲロが止まる事なく押し寄せ、
黒髪の男は血で染まった床に這いつくばる。
様々な感情⋯様々な後悔が床に這いつくばる惨めな男の中を延々と廻る。
すると聞こえてくるのは、
ハァ⋯!ハァ⋯!と、怒りと血の混じった荒い吐息。
だが、そんな乱れた息も次第に静かになっていった。
楽になっていく体の痛み。無くなっていく体の温もり。
その二つの身体の異常が黒髪の男に訪れる『死』をハッキリと実感させる。
しかし、どういう訳か黒髪の男は死を目前にして、
弱音を吐いたりせず、ただ姿勢を整え正座をしていた。
そんな黒髪の男を見て、白髪の男は言葉をかける。
「⋯もう終わりだね。
その潔さは、諦めの表れかな?」
白髪の男⋯⋯魔王の言葉に、膝の上の手を強く握り、
黒髪の男⋯⋯英雄は顔を上げる。
「いいや⋯ 違うよ。」
英雄のその顔を見て、その声を聞き、魔王は不思議そうに首を斜めにする。
「お前を討ち倒す者が⋯
お前を止めてくれる者がいつかきっと現れる。」
激しい怒りの乗った強い声。
だがその声は同時に、強い哀れみや優しさと言った物を感じさせた。
「僕のこの手で止める事ができず、
他人任せになってしまうのが悔やまれる⋯」
「⋯⋯⋯」
「けど、僕はこの世界で⋯⋯
いや、この短い人生の中で出会ってきた人達を信じる。」
英雄は曇りのない綺麗な瞳を輝かせながら、
最後の力を振り絞り、静かな声をその場に響かせる。
その自信に満ち溢れた笑顔を最後に、
世界を守る為に戦った英雄は口を閉ざした。
世界に苦しみを振り撒いた魔王は、
そんな英雄の目の前に立ち、そっと手を添える。
その手の先には、先程と似た黒い光が収束していた。
「ああ⋯ 楽しみに待っているよ──────」
圧のあり、恐怖を植え付けてくるが、
同時に安らぎを与えてくれる異様な声が響き渡る。
魔王は自身の言いたい言葉を言い終えると、
その手から深い闇を宿した一本の矢が放たれ、
希望を信じながら目を閉じた英雄の頭を貫いた。
人界歴92年。
誰にも知られぬような寂しい地で激しい戦いが行われ、
世界を恐怖で包み込んだ魔王が、
止めようと立ち上がった12人の英雄を殲滅し⋯⋯
『英雄が魔王を討ち倒した』と、
生きて帰ってきた7人の英雄によって王へ伝えられた。
その朗報は瞬く間に世界中に知れ渡り、世界は千年続く平穏を被った。
第0話【僕の世界】終
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