Ver1.3 眠れる陰謀

「――私が調べた結果はこんな感じだ」


そう言うと、ジゥは考え込み、クソンはあくびをした。


日が陰り始め、境内に影が落ち始めていた。


「寒いねー今日」


 クソンの言葉を、私もジゥも聞き逃さなかった。

 

「……で、お前はどうだったんだよ」

「私はー、色々CES周りを聞いて回ったんだけどー、特に噂にはなってなかったかなー」

「……ジゥは?」

「ロイヤルも同じです。誰も話題にはしていませんでした」

 

 そういい終わると、ジゥはこちらに視線を向けた。


 それを受け、私はクソンに視線を向けた。


 クソンはニコリと笑い。


 ジゥはため息を付き。


 私は頭を掻いた。


 そして、私達はただ無言になった。


 ――表向きでは


『なんで盗聴されてんだ?』

『クジが尾行されてたんじゃないー?』

『現場まで見に行くからですよ、クジ』

『はぁ? てめぇーらの可能性もあんだろ』


 小さな言い争い。

 

 しかし、これらは口で行われていない。

 

 精神感応能力。


 いわゆるテレパシーで行っている。


 ハッキングが発達したこの世界で、盗聴や盗撮、盗難を防ぐのは至難の業だ。

 アンダーの治安が悪いと言われている理由の1つが、ポケットハック(所謂スリ)である通り、人とすれ違うだけで軽犯罪が起きる世界だ。


 そこから身を守る術は人によって様々。


 アンダーなら、持たない、近づかない。


 ニュートラルならCESに魂を売れ。


 ロイヤルなら金で身を守れ。

 

 では、私達巫は?


 巫力を使えばいい。


 故に、テレパシーである。


 まぁ、疲れるから使いたくないけど。


『――で、一体誰が盗聴してると思うー?』


 話を割って、クソンが言った。


『CESだろ?』

『CESだったら盗聴なんてしませんよ』

『最初からCセキュ寄こすよねー』

『じゃぁ、誰がなんで盗聴してんだよ』

『気になるからでしょう、私達の動向が』

『えー? 一体誰がそんなこと気にするのかなー?』

『……テレパシーでもうぜーなお前』


 ジゥはため息をした。

 (テレパシーでもため息ってあんの?)


 そして、言う。


『……依頼者ですね、犯人は』

『それはちょっと変じゃないー?』

『依頼者だとしたら、私達の報告を待っていればいいだろ』

『待っていられないでしょうね、きっと』

『そんなに急ぎならー、自分たちで探せばいいのにねー』

『……自分たちでは探せない……CES謹製のオートマトン……依頼者が隠している……』


 ある仮説が頭をよぎった。


『……?』

『無許可試験体の可能性もありますね』

『どうするジゥー? このまま調査続けるのー?』


 ジゥは即答した。


『当たり前です。我々の目的は金銭欲求ではありません』

『魂の救済――でしょー?』

『その通り。そろそろ調査に戻りましょう、これ以上黙っていたら怪しまれます』


 その言葉を聞いて、クソンはすぐにテレパシーを切った。


「じゃ、またね~」


 クソンが境内を出ていくのと同時に、ジゥもテレパシーを切った。


「クジ、気をつけてくださいね」


 そう言って、ジゥも境内を出ていった。


 私はまだ沈黙を続けていた。


 悪い予感が当たっていたから――


 想像通りの結末に近づいているから――


 怒りがこみ上げる。


 どうしていつもこうなる。


 私は問うた。


 彼らに。


 神に。


 『どうしてあんたらは、見ているだけなんだ』






 ―――Ver1.3 眠れる陰謀 終

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