第13話 暗殺技術の先生

「トビアス!あなたが担当なの?よりにもよって!」


 翌日、副団長と共に軍の本部へ行き、そこで暗殺技術を教えてくれる方と紹介してもらった。

 現れたのは、スカーレット様のお兄さんだった。


「そんなわけがないだろう。私の部下だ。軍で一番の技術を持つ。アノン、幸運だったな」

「はい。そうですね」


 そんなすごい人が私の先生。

 いったい。


「あなたの部下って、あいつなの?」

「そうだ。久々の再会嬉しいだろう」

 

 副団長は顔色がものすごい悪い。

 どうしたのだろう。


「遅くなりました。ああ、ギル様ああ。お久しぶりです!」


 私と同じくらいの背丈の小柄の男性が歩いてきたと思ったら、突然副団長に抱き着いた。


「は、放しなさい!ジュエル!」

「いやですぅう。放したら、どっかに行くでしょう?なんなら、ギル様も一緒に学びますか?僕から、あ・ん・さ・つ?」

「必要ないわ。トビアス。ジュエルはアノン君にはふさわしくないと思うのだけど?」

「ジュエルほど適任はないだろう。同じような背丈、体系。学びことが沢山あるはずだ。それとも半端なものに教わるか?」


 昨日やりこめられていたのが嘘のようにスカーレット様のお兄さんは副団長に言い返す。 

 ジュエル様のことはよくわからないし、多分副団長とそういう関係にあった人なのかな?副団長は少し嫌そうなのはわからないけど。


「……わかったわ。アノン君、嫌かもしれないけど、このジュエルは腕は一流だからね」

「ギル様。一流って褒めてもらえるのは嬉しいけど、嫌って失礼です!」


 ジュエル様は副団長と同じで中性的な顔をしている。

 綺麗だ。

 二人がそうしていると、とても耽美な光景だ。

 目が痛いかも。


「ジュエル。放しなさい」

「はーい」


 副団長が再び言うと、ジュエル様はやっと彼から離れた。

 

「アノン君に変なことしたら、ただでおかないから。わかってるわね。ジュエル」

「わかってますよおお」

「じゃあ、私は副団長室に戻るわね。またお昼時間に来るわ」


 副団長はあっさりそう言うと、いなくなってしまった。


「私も、やることがある。ジュエル。後は頼んだぞ。報告を待ってる」

「はい。分隊長」


 ジュエル様は副団長には変な話し方するけど、スカーレット様のお兄さんには普通だ。

 スカーレット様のお兄さんが消えたとたん、ジュエル様が舌打ちした。

 怖い。


「ああ、面倒な仕事うけちゃった。ギル様とずっと一緒にいられると思ったのに。ねぇ。あんた。女のくせにギル様と暮らしてんの?生意気すぎる」


 さっきまでの朗らかな雰囲気がどこにいったのか、ジュエル様がとげとげしい。

 えっと、ジュエル様は副団長が好き?

 そうだよね。

 うん。

 これは、かなり厳しい訓練になりそう。


「お疲れ~」


 まずは体力をつけると、午前中は基礎体力の向上を目指して、走り込み、腹筋など。

 ジュエル様はどうやら私よりも七歳年上らしい。

 そう見えないけど。

 ちなみに副団長は私よりも十歳年上、スカーレット様のお兄さんは十二歳年上らしい。

 十年前に少年みたいな新兵だったから、まだ若いんだろうなと思っていたけど、二十六歳だったんなんて。

 だから大隊長に男娼なんて呼ばれるんだ。

 嫌な呼び方だ。


「ギル様ああ。お昼一緒に食べましょ?いいでしょ?」


 ジュエル様は副団長が来たとたん、犬のように走っていった。小型犬みたいだ。でも見た目と違って、ジュエル様はめっちゃ体力がある。

 まだ一緒に走ったり、腹筋したりしたことしかないけど、顔色変えずに全部こなした。息もほとんど乱れなかった。

 凄すぎる。

 私に対しては、やっぱりちょっととげとげしい。

 絶対に何か勘違いしている。


「残念ね。ジュエル。今日はアノン君と二人で食べるから。またね。二時間後に連れて戻ってくるわ」

「二時間?」

「そうよ。買い物があるから」

「買い物ですか?」

「ほら」

「ギル様、アノン君。それでは二時間後に~」


 副団長と話しているとジュエル様が手を振っていなくなってしまった。


「意外にすんなり諦めたわね」

「え?」

「なんでないわ。ほら、時間があっという間になくなるわ。まずは昼食を食べましょう」


 軍本部を出て、街に降りて食事をする。それから靴を選びに行った。孤児院でも軍でも靴は支給で買ったことがなかったから、副団長に選んでもらった。

 

 軍に戻るとジュエル様が少しお怒りだった。

 副団長がいなくなるとそれは明確になり……。

 でも、厳しい訓練のほうが私のためになる。

 そう思い込んで、ジュエル様についていった。


 夕方、副団長が戻ってきたときにはヘロヘロになってしまった。

 自主練を欠かせないようにとジュエル様に言われ、解散。

 明日は誘惑技術の訓練で、暗殺技術は明後日だ。

 一日、休める。

 でも忘れたら一からなので、自主練をしっかりしようと心に決めた。

 夕食は作る気力がなくてまた外食。

 副団長には申し訳ない。

 

「もう気にしないでいいから。あなたは訓練に集中して。ところで、二人だけの時は、ギルって呼んでよね」

「……はい」


 極力呼ぶことを避けようとしたけれども、就寝までに四回ほど言えなかった。

 普段から心の中で言う訓練をすればいいのか?

 でもそうなると、軍でも言いそうだし。

 それはやめておこう。

 ジュエル様の怒った顔が浮かんでしまった。

 やっぱりお二人は付き合っていたのかな?


 


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