第7話 プレゼント
「で、どこでかぎつけたんですか?」
「本当にたまたまなの!」
ゲームセンターの片隅で真白は反省のために正座で説教を受けている。
面白そうなことがあれば首を突っ込む真白のことだ。どこかで出かけることをかぎつけて
それでも、尾行する意味はないので反省のためしばらくは放置しておく。
ちなみに、
先ほどから純恋の声しか聞こえてこないがきっと話も盛り上がり仲良くなってるころだろう。
「ちなみにいつまで正座するの、ぼく」
「閉店までしとけばいいんじゃないですか?」
「ほんとにごめんなさい!いつも一人なちか君が有名な神代さんと一緒にいるからもしかしたら騙されてるんじゃないかって心配で…つい…」
「真白先輩………本音は?」
「クリスマス前に抜け駆けなんてさせてたまるか!はっ!しまった!」
「反省が足りてないみたいですね」
「あんまりいじめちゃだめですよ、先輩」
さて、どんなペナルティを課そうかと考えてると落書きを終えた純恋がシールをもって出てきた。結縁は逃げるように正愛の背へと隠れた。
「はい、先輩。かっこよく撮れてたので先輩は加工なしにしときましたよ」
「プリクラってそれもう可愛くないだろってなるまで加工かけるところじゃねえの?」
正愛の偏見を微笑でスルーし、プリントシールを手渡す。
しかし、後ろの結縁は隠れたまま受け取ろうとしない。拾ったばかりの子猫のような警戒心だ。
「神代さん、紹介するね。総明中等部の綾織純恋。俺の後輩。そっちの白髪が紙透真白。同じぼっちだからビビらなくていいよ」
「だれがぼっちでポンコツだ!」
結縁と同様のタイミングで出てきた純恋の背後に隠れ、今も後ろからヤジを飛ばしている。
なぜそのコミュ力で乱入してきたのか…。
「か、かかか、神代…結縁で、す!」
顔を出すことなく正愛の背後に隠れたまま自己紹介を終える。
なぜか後ろから突かれるので振り返れば避難がましい視線を向けられる。
「こんなに可愛い子と友達なんて…。ぼっち仲間だと思ったのに」
仲間になった覚えはない。
結縁の八つ当たりを無視し、後ろに隠れたままだと話が進まないので強制的に前に立たせる。
「神代先輩、これからよろしくお願いします。私のことは純恋って呼んでください。良ければ結縁先輩って呼んでもいいですか?」
「陽キャだぁ…!」
純恋の太陽のような微笑に陰キャラ結縁は浄化されていく。
「それで、先輩たちは何してたんですか?」
「ちょっとな。たまたま会っただけだよ。な?」
「く、暮雲くんには探し物を手伝ってもらってました!」
すぱーん!と小気味良い音が響いた。混乱は物理攻撃で治る。
「た、叩きましたね!お母さんにもぶたれたことないのに!」
「ちょっと来い!」
少し離れたところへ結縁を強制連行させ、いったん落ち着かせる。
「お前、正直に言ってどうすんだよ!
「うっ…。す、すみません。可愛くいて陽キャの後輩に動揺しました…」
「確かに純恋は明るくて可愛くて聡明で清楚で人気者だが…」
「そこまでは言ってないですよ?」
「危害を与えたり何かたくらむような奴じゃないから大丈夫だ。落ち着け」
正愛に諭され、結縁はゆっくりと深呼吸する。
「くれぐれも内密にな!聞かれても誤魔化せ」
伝えたいことは伝え終わり、二人と合流しようと振り返るが袖を強く引かれる。
「…暮雲くんは、私のことどう思ってますか…?」
「…図々しさなら世界一…アイタッ!」
*
「それで、先輩はこれからどうするつもりだったんですか?」
合流し、そのままモール内を回る4人。目的地も決まらないまま歩いている正愛に純恋は尋ねた。
「特に何もなければ
「それじゃあ、みんなで…」
「それじゃあ!この僕に!現役女子高生筆頭に任せてみないかい!」
純恋の言葉をさえぎって、真白が大げさに大仰にポーズを決める。
しかし、嫌な予感しかしないので見なかったことにする。
「純恋、いいアイデアある?」
「無視しないでよ!現役女子高生の意見なんてそうそう聞けるもんじゃないんだからね!」
「……一応、聞くだけ聞いときますよ」
「チキチキ!お兄ちゃんの威厳を取り戻せ!プレゼント対決~!」
「さ、行くぞ」
「ちょっと待ってよ!」
案の定、ふざけ始めた真白をおいて3人で愛沙へのプレゼント…もとい、貢物を探しに行く。
「じゃあ、ちか君は女の子のことわかるの?流行りものも追えないくせにいもうとちゃんがほしいものわかるんですかー?」
一理ある。
正愛はため息をつき、仕方なく話を聞くことにした。
「ルールは簡単!各々が妹ちゃんが喜ぶと思われるプレゼントを買ってくる!以上!スタート!」
言い出したら聞かない真白を止めるのは諦める。
自分のスタート合図と同時にどこかへ駆け出して行った。
「…では、私も行きますね。先輩方はごゆっくりどうぞ」
次いで、純恋も真白の後を追うように歩いていく。
結縁は参加しないだろうと、隣を見ればなぜかやる気満々に闘志を燃やしている。
「…実は負けず嫌いとかいう設定ある?」
「人生負け続けの私にですか?」
ネガティブが過ぎるよ。
なぜかやる気を出している結縁は純恋たちとなるべく会わないよう、反対側へと歩いて行った。
「さて、じゃあ…」
「お買い上げありがとうございました~!」
「これでよし」
正愛は愛沙へのプレゼントを買い、近くのベンチに腰を掛け少し休憩する。
正愛は3人がまともなものを買ってくるとは思っていなかった。
真白と結縁の二人は言わずもがな一般的な女子高生からかけ離れた感性を持っているため期待はできない。
純恋はこういう場面では人を立てるため望めばアドバイスはくれるが代わりにプレゼントを買うようなことはしない。きっと選ぶ時間もプレゼントのうちなんて言うだろう。
「…いかん、不安になってきた」
まじめに考え、買った結果、少しズレてるだけならまだいい。
ふざける…あるいは、大幅にズレていた場合は?
「様子見に行くか」
最初の一人はすぐに見つかった。店にも入らずメモ帳片手にぶつぶつつぶやいている姿は傍から見ると不審者でしかない。声かけたくない。
「おい…公共の場で怪しい行動するな。みんな見てるぞ」
「ひゃあ!」
結縁にしては可愛らしい悲鳴が上がり、手に持っていた手帳をこぼす。
「おい、落としたぞ」
「ちょっと待って!」
拾い上げようと手を出し、結縁に制止されるがその前に手帳に目を通してしまう。
友達とやりたいことリストと書かれた手帳にはびっしりとページいっぱいに夢が書かれている。
油をさし忘れた機械のようにぎこちなく結縁と視線を合わせる。
頬を朱に染め、相当恥ずかしいのか目に涙を浮かべた結縁は何か言おうとして、言葉を濁すを繰り返す。
「こーゆうの書くやつほんとにいるんだな」
言葉を放った瞬間、己のミスを悟る。恥ずかしさの限界突破した結縁は抵抗の意を表すようにポコポコと肩を叩く。
「わ、悪いですかぁ!?友達が一人もいないぼっちは妄想も禁止されてるんですか!そうですね!ぼっちは世間では有罪ですもんね!この犯罪者!」
「なにも言ってないし、巻き込むな!いいから落ち着け!」
五分ほどしてようやく落ち着いた結縁に拾った手帳を手渡す。
奪うようにかっさらわれた手帳に拾ってやったのにと思わないでもないが長くなるだけなのでやめた。
「見ました?」
「見たよ。流れでわかるだろ」
「違います!そこは見なかったことにしてこっちも暮雲くんも記憶から抹消するものなんです!空気読んでください」
これ以上の刺激は大爆発につながりそうだったため正愛は口を噤むことにした。
「それで、プレゼントは?決まってなくても候補くらい絞れたか?」
「それなんですけど、私妹ちゃんのこと知らないですし選びようがなくて」
「なんで参加した?」
「まあ…それは…ね?」
首を少し傾げ上目遣いで誤魔化そうとするがそもそも正愛は理由を知っていた。
結縁の友達のやりたいことリスト。その中でも数少ないチェックのついている行。
その一つには『誰かのプレゼントを選ぶ』と書かれていた。
それを見てしまっては無下にはできない。それに、正愛のためにしていることでもある。
「ほら、いくぞ。妹のことなら道中で教えてやるから」
正愛の言葉にパーッと表情を輝かせるととてとてと可愛らしく正愛の横に並ぶ。
「じゃ、じゃあ!早速なんですけど、妹さんの趣味って何ですか?」
「小説が好きかな。最近はラノベにはまってるみたいだけど昔は推理小説にはまってたかな。アーサー・コナン・ドイルとか海外の本も好きだったよ」
めぼしい店を見つける間、正愛は多くの質問に答えた。
好きな動物、色、食べ物。その質問、プレゼント選びに関係ある?と思われるものまで隠さず答えた。その結果がこれだというのか。
「可愛いものが好きだとは言った。猫も飼ってたって言った。置物を飾ってるとも言った。だからって猫の木彫りはねえよ!相手女子中学生だぞ!」
「だ…だって、可愛いですし、猫」
「周りを見てみろ。デフォルメされた可愛い猫のぬいぐるみが見えないか?」
「えーっと…」
いまいち納得のいってない結縁。正直、絶望しかない。
プレゼントは気持ちだ。それは否定しない。
しかし、結果としてそれを使ってもらえなければ悲しいのも確か。プレゼント選びにセンスが必要なのは自分のためでもある。
それを説明すると結縁は名残惜しそうな顔で猫の置物を棚へと戻す。
「…可愛いのに」
まだ言うか。
「いいか?プレゼントに必要なのは1にも2にも相手のことを考えることだ!幸い、愛沙の感性は一般的の女子からそう離れていない。はい、じゃあ、普通の女子が欲しがるものはなんだ!?」
「はい!今、駅前で流行ってる可愛いクレープです!」
「生ものはやめろ」
微妙にズレたプレゼントセンスを披露する結縁にため息が出る。
「…参考になるかはわからんけど先輩たちのチョイス見に行くか」
不安はあるものの実例を見ながらの方がわかりやすいだろうと結縁を連れ立って二人を探しに散策の続きを開始する。
「……」
「…だめだ、これ」
先に見つかったのは真白だった。
真剣に手に取る二つの商品を見比べている。
その様子だけを見ればかわいい後輩のために一肌脱ぐいい先輩でしかないのだが、いかんせん手に取ったのがどくろのリングと十字架のネックレスだ。
「…先輩、一応聞きますけどそれプレゼントじゃないですよね?」
「あ、ちか君、いいところに来た!愛沙ちゃんもアクセサリー類欲しくなる時期でしょ?どっちがいいと思う?」
「それ置いていったん店出ましょう」
店から真白を連れ出し、結縁と二人並ばせる。
「それで、先輩。あれは何のつもりなんですか?」
「なにって…かわいい後輩のために一肌脱いだ結果じゃないか。褒めてくれたっていいんだぜ」
二の句が出ない。先ほどからため息が止まらない。
「…なんであれを?」
とりあえず理由を聞こうと尋ねるとなぜか自信満々に自白を始める。
「かっこいいから…!」
中二病患者の真白を傷つけずに止める手立ては正愛にはなかった。
なので、諦めた。
「くそダサいんでやめた方がいいですよ」
「…っ!?」
真白がフリーズした。
きっと真白も中学時代には黒いロングコートにどくろのリングをつけ首元には十字架のネックレスをつけ、眼帯で魔眼を封印していたのだろう。
しかし、うちの愛沙はオタクではあるが中二病ではない。
「だ、ださくないもん…」
まだ言うか。
「先輩、今のうちにやめときましょう?これ以上、口開くと絶対、黒歴史流出しますよ?またコスプレ裏垢発覚事件の二の轍を踏みたいんですか?」
「べ、別に僕は持ってないもん!かっこいいし!」
諦めない真白をどうなだめるか考え、結果第三者を巻き込むことにした。
「神代さんはどう思う?」
「え?」
振られると思ってなかったのか気を抜いていた結縁はあわあわとした後スマホを取り出した。
『私はいいと思います』
「じゃあ、もらって使うか?それつけて学校行けるか?」
結縁は少し気まずそうに思案したのち、スマホに指を滑らせた。
『ごめんなさい。嘘です…。あれは正直いらないです…』
「だよな。…って、なんでスマホ?直接話せよ」
『は、恥ずかしい…』
正愛は無言でスマホを取り上げ、頭上に上げる。
結縁はすぐに取り返そうと飛び跳ね、懸命に手を伸ばすか数度して潔く諦めた。
「それで、わかりましたか?これが世間一般…と言えるかわかりませんが民意です。諦めて別のプレゼントを探しましょう」
『で、でも…』
結縁と同じようにスマホで話し始めた真白から無言でスマホを取り上げ以下略。
「じゃ、じゃあ!ちか君が女の子にアクセサリープレゼントするなら何あげるの!どうせ女の子にプレゼントなんてしたことないでしょ!」
仕返しのような真白の一言にこともなさげに返事をする。
「ありますけど。今日つけてた純恋のピアス俺があげたやつですし」
「ピアスって…あの紫色のジュエリーなやつ?」
「まあ…紫じゃなくて菫色ですけど」
「今、ちか君がつけてるの?」
やべ、と思わず左耳を隠す。まったく隠す必要はないのだが。
気まずい空気と何故か責め立てるような真白の視線にすーっと視線を逸らす。
「へー。知ってた?ピアスを異性に贈る意味はどこにいても自分の存在を感じていてほしい、らしいよ?感じててほしかったんだ」
「ぼっちほどそーゆうの敏感ですよね」
繰り広げられそうな不毛な言い争いを真白に効く致命的な一言で断ち切り、静観する結縁へ声をかける。
「参考になった?」
「参考になったと思います?」
後ろで真白が流れ弾に被弾した音がした。
流れ弾で傷つき、床に伏す真白を哀れに思う。
「ま、今回の人はセンスが悪…いじょ……ちょっと特殊なだけ」
「もう言い切ればいいじゃん!僕にとどめを刺せよ!ころせぇ!」
「じゃ、本命のプレゼント選び見に行くか」
「やっぱり僕のことは遊びだったんだ!このチャラ男!遊び人!くず!」
「ちょっとさっきからうるさいんですけど!」
ぐちぐちと文句を垂れ流す真白を最後尾に結縁と並び、純恋を探す。
とはいえ、見当はついているのでそこに向かうだけだ。
「…暮雲くん、これ以上は私近づけません…」
「ちか君、僕もだよ。悔しいけど、ここまでだ。後は頼む」
二人して近づくにつれ歩みが遅くなり、ついには止まってしまった。
「くっ!行きたいのに!足がこれ以上、進んでくれない!」
「プレゼントの極意…ぜひ、学びたかったです!あとでSNSでください」
「そんなにジュエリーショップに行きたくない?」
テナント前まで行くこともできず二人は二の足を踏む。
純恋がいたのは案の定、ジュエリーショップだったがその場にいたほかのお客さんの陽のオーラに圧倒されたらしく入店拒否し始めた。
「当たり前じゃん!ここに入れるなら中学生男子が入るようなセレクトショップでプレゼント選んでないよ!」
「私だってここに入れるならもっといいプレゼント選んでます!」
「なんでそんなに偉そうなんだよ…。いいから行くぞ」
諦めの悪い二人の背中を押し、テナントに踏み入れる。
入った途端、二人は正愛の背中へと隠れ他人の視界に入らぬように警戒を始めた。
「なお、怪しいって。普通にしてれば、誰も気にしないから」
「い、いましたよ!いち早く、綾織さんを連れてここから逃げましょう?」
「敵地への潜入ミッションだと思ってる?ここに来た主旨忘れた?あなたたちのプレゼント選びのセンスを磨きに来たんだよ?」
じっとショーケースに入れられたアクセサリを見る純恋に正愛はそっと近づき死角から声をかける。
「お客様、何かお探しですか?」
「はい。どこかのお兄さんが妹を怒らせたみたいなので代わりに貢物を」
「悪かったな。バカ兄貴で」
「冗談ですよ。こうして休みの日にプレゼント探しに来てあげるお兄ちゃんなんてそういませんよ。それで、いいのは見つかりましたか?」
「ああ、俺はな」
それだけ言い、視線を後ろの二人に向ける。
それだけで純恋は察したようになるほどと苦笑する。
「ち、違うの!純恋ちゃん!言い訳だけさせて!」
「いいですよ。期待はしていませんがおっしゃるのは自由ですから」
「中学生はみんなどくろ好きだよね!?」
「同意はできませんね…」
「悪あがきやめろ」
諦めの悪い真白を遠ざけ、純恋が熱心に見ていたものに目を向ける。
花のモチーフがあしらわれたシルバーのピアス。
「プレゼント?」
「いえ、愛沙ちゃんはピアス開けてないですし、そもそも校則で開けちゃだめですよ」
「そうだったな。校則破りの不良でもないし普通は開けないか」
「あ、先輩がそれ言っちゃいます?」
正愛の一言に可愛らしく拗ねる純恋に苦笑しながらショーケースのピアスの値段に目を向ける。
お手頃なブランドだけあって少し高いが許容範囲内だろう。
近くの店員を呼び止め、包装してもらう。
「すみません。買ってもらっちゃって」
「愛沙に普段のお礼をプレゼントするなら愛沙の手伝いをしてくれる純恋にもプレゼントするのが筋だろ」
「ありがとうございます。大切にしますね」
「そうしてくれ」
さて、うしろでひそひそしてる二人を止めるか。
「女たらし」
「俺がいつ誑してました?」
「すけこまし」
*
結局、プレゼント対決は勝者なし敗者二人で幕を閉じた。
まだ帰るには早いと少しぶらぶらしてると外にキッチンカーを見つけおやつにすることにした。
「…朝はフルーツサンド食べて、昼パフェ、次はドーナツ。よくそんなに甘いもの食べれるな」
「甘いものは別腹ですからね」
「…ふ」
「先輩?お口にチャックしましょうか」
純恋たちと合流してから数時間。仲良しとは言えないがぎこちなさは消え去ったようだ。
真白もメモ帳を使うことなくコミュニケーションをとることができている。
「…成長のレベルが低いなぁ」
「先輩。しみじみとしてどうしたんですか?」
「んにゃ、なんでもない」
そう答えるとドーナツを手早く食べ終え、ごみをゴミ箱へと放り投げる。
「寒いし戻るぞ」
「はーい」
もう冬も真っ盛りだ。雪こそまだ降っていないが外では上着を着ていないと凍えそうだ。
かじかむ手をこすりながら温かさを求め、ポケットのカイロに手を伸ばす。
「くしゅん!」
「大丈夫か?」
「はい。でもちょっと寒いですね…」
「もっと温かい恰好しろよ」
上着は着てるもののマフラーなどはつけておらず首や手は露出してる。
「実はうちの式神の子が間違って燃やしちゃって…。気に入るものもまだ見つからなくて」
「ふーん。じゃ、ほい」
冷えた手に押し付けるようにカイロを握らせる。
「ま、中は温かいからいらないかもだけどな」
「いえ、ありがとうございます」
素直に礼を言われ、こそばゆくなった正愛は恥ずかしさを誤魔化すように速足で店内へと向かった。
その後も遊び続け、気づけば時計の針は7時を回っていた。
「はぁー!楽しかったぁ!もう暗いじゃん、外!」
「今日は解散ですね。真白先輩は方向同じですよね?」
「俺は神代さん送ってから帰るから」
ショッピングモールで二人と別れ、それぞれ帰途へ着く。
この暗さだと探し物の続きも不可能だろう。
ちらりと隣にいる結縁に視線を向ければにやにやと楽しかったことを窺わせる。
「リストは埋まったか?」
「…早急に速やかに記憶を消して下さい。……でも、お友達と遊べたみたいですごく楽しかったです!」
そう言って年相応の笑顔を見せる結縁は世界を救った救世主などには見えず。むしろ
「普通の女の子だよな…」
「だれが、いつもは変な子ですか。失礼ですよ」
「誰もそう言ってないだろ」
何も考えなければよかった。知らなければよかった。
歴戦の猛者であれば…あるいは、伝説の勇者であれば正愛は躊躇なく背中を押せただろう。
しかし、今の正愛に戦場へ向かう結縁の背中を押せるだろうか。
戦えと言えるだろうか。
未だに向き合えぬ傷を抱え、死を恐れすぎる正愛に。
「どうしたんですか?」
考え事をしていた正愛は結縁の声に我に返り、「なんでもない」と告げる。
今は、結縁の力になることだけを考えよう。
正愛は問題を先送りにし、薄暗い道を進んでいった。
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