第20話 戦いか否か
「チッ……これだからガキは嫌いなんだ。盗みもまともにできねえのか?」
「わ、悪い……兄貴。コイツ、妙に素早くて追いついてきたんだ……」
怒る男に、少年が恐縮したように縮こまって謝罪した。
彼らが話している間に、ソレイユが改めて現状について確認する。
前方にいるのはスリの少年。後方に現れたのは三人組の男達。
男達はいずれもガラが悪く、大柄で筋肉質の体型だ。
服装はいずれも裕福そうには見えない。
特に男達の雰囲気はどことなく殺した海賊に似ていた。
(つまり、悪党ということだな。うん)
「まあ、良い……一人くらい畳んで身ぐるみ剥いじまうか!」
「おい、そこの野郎! 命が欲しければ荷物を全部置いていきな!」
二人目の男……わかりづらいので、ソレイユは頭の中で彼らを『悪党A~C』と仮称することにした。
最初に話しかけてきたのは悪党A。残りの二人がBとCである。
「まずはその剣だ! 俺達がもらってやるから寄越しな!」
「おかしなことをしようなんて思うなよ。コイツが見えるよな?」
悪党Bが怒鳴り、悪党Cが見せつけるようにして刃物を抜いた。
それは『剣』というよりも『鉈』に近い形状のぶ厚く無骨な刃物だった。
「こっちは三人だ。まさか勝てるなんて思っていないよな?」
「三人? 四人じゃないのか?」
ソレイユが不思議そうに少年を見やる。
少年は恐縮しきった様子でオロオロと視線を左右にさまよわせていた。
「そんなガキが頭数に入っているわけねえだろうが! ふざけてるとぶっ殺すぞ!」
「殺す、殺すか。なるほど理解した」
怒鳴る悪党Cにソレイユが頷いた。
相手が自分を殺そうとしている。
ならば、こちらが殺したとしても文句は言われないはず。
世間知らずなソレイユであったが、殺すか殺されるかという野生のルールは十分に心得ていた。
「よし、わかった。じゃあ斬ろう」
「は? テメエなに……」
悪党Cは最後まで言い切ることができなかった。
ソレイユが散歩に出るような自然な足取りで歩き出し、次の瞬間には悪党Cの眼前に移動していた。
空を走る剣閃。一瞬で振り抜かれた刀が悪党Cの首を斬り飛ばす。
「なあっ!?」
「へ、え……うわああああああああっ!?」
仲間の首から上が消えてなくなったのを見て、悪党Aと悪党Bが驚きの悲鳴を上げる。
「グレイ! おまっ、仲間に何を……」
「殺しただけだ。すぐに会える」
続いて、悪党Aの首を刎ねた。
やはり一瞬の出来事である。二人目も抵抗もできず斬られた。
頭部を無くした胴体から噴水のように血が噴き出し、雨となって路地裏に降りそそぐ。
「あ……ああっ、嘘だ、嘘だ嘘だ……冗談だろ……っ!?」
最後の一人……悪党Bがへたり込んで、血だまりの中で顔を蒼白にする。
腰が抜けた様子の悪党Bを見下ろして、ソレイユが怪訝そうに目を細めた。
「何やってるんだ。座り込んだりして?」
「ヒッ……!」
「戦うんだろう。ほら、そこに落ちているじゃないか」
ソレイユが人差し指で地面を指す。
そこには悪党Cの手から離れた刃物が転がっている。
「殺し合いをするんだろう? 座り込んでいる場合じゃないぞ」
「ゆ、許して……頼む、命だけは……!」
「…………?」
ソレイユが心の底から意味不明といった様子で首を傾げる。
状況がまるで理解できない。悪党Bは何を口にしているのだろう。
(これは殺し合いだよな。コイツらがそう宣言した。だから殺したのに、何故そこまで恐怖しているんだ?)
「お前らが仕掛けてきたんじゃないか。殺る気があるなら最後まで殺れよ」
「こ、こんなつもりじゃ……嘘だ、嘘だ、嘘だ……!」
「……わからん。異文化理解というのはこうも難しいのか?」
戦いの場では殺すか殺されるか。
それは剣の師であるカグヤから耳にこびりつくほど言われているし、読んだ書籍……英雄譚や軍記物語にも書いてあったこと。
ソレイユには武器も手に取らずへたり込み、命乞いをしている男の気持ちに少しも共感することができなかった。
「まあ、いいや。考えるのが面倒臭くなった」
「あ……」
ソレイユが刀を鞘に納めて、身を翻した。
悪党Bにトドメを刺すことなく路地裏から立ち去ろうとする。
殺し合いなのか、殺し合いじゃないのか、わからなくなってしまった。
宿でも探して、ゆっくり腰を落ち着けて考えようではないか。
「ウ……ワアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
だが……そこで再び、予想外の事態が発生した。
立ち去ろうとするソレイユの背中めがけて、悪党Bが刃物を手に突進してきたのだ。
「死ねえええええええええええええええええっ!」
「……結局、殺し合いだったのか?」
ソレイユが右足を軸にして振り返り、刀を抜いた。
「えええええっ………………え」
悪党Bが驚きの表情になり、次の瞬間にはそんな顔がどこかに飛んでいく。
斬られた首が宙を舞い、奇遇にも悪党AとCの頭部の横まで転がっていった。
仲良く並んだ三つの首に真っ赤なシャワーが降りそそぐ。
それは性質の悪い悪夢のようなおぞましい光景であった。
「最後の最後まで意味がわからなかったな……人の町で暮らすのも大変そうだ」
やれやれと肩をすくめて、ソレイユが処刑場となった路地裏から去ろうとした。
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