第16話 アパートの一室

 視界が広がった。身体を起こした。畳の上にじかに横になっていたようだ。その部屋を見たことなどなかった。立ち上がって窓を開いて、外の景色を見やった。朝の匂い、明るさだった。どうやらアパートの一室のようだ。

 コンコン

 鳴らされたところに視線を送る。玄関だった。開いて現れたのは、あの篠原碧だった。

「ごきげんようかしら? どう? ご気分は?」

 その挨拶には随分に皮肉な色があるように聞こえた。

「これは……どうなったんだ?」

 篠原碧と対面となって座った。

「これだから人間は嫌いなのよ。どれだけムチャクチャなことをしたかわかっていないわよね」

「もちろん」

「これでも見る?」

 篠原碧は一つのタブレットを見せた。そこには一人の少女が元気に歩く登校の様子だった。動画は生中継なようで、その彼女に呼びかける声があった。それが聞こえる。

「千宙、おはよう」

「おはよう」

「元気になった?」

「うん、寝不足だったのかも。何だか変な夢見ちゃってさ」

 千宙と呼ばれた少女は、その姿格好、声、雰囲気はまさに結奈瑞穂その人であった。

「どういうことったよ?」

 画面から視線を篠原碧に向けた。

「〈ゲンジツ〉に結奈瑞穂という人間は存在しなかった。あなたが知っている彼女は、塚本千宙として存在している、ということよ。旧塚本千宙君」

「じゃあ、俺は……?」

 篠原碧は彼に手鏡を渡した。鏡に映ったのは、彼が物心ついた時から鏡で見て来た塚本千宙の容姿であった。自分の声という確信もある。

「これがあなたの選択した結果よ」

「瑞穂が千宙になっているんだったら、俺はどうなってんだよ?」

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