第4話 身近な学び
それから数日後、日々の学業をこなして迎えた休日。
今日俺はタルホと一緒にいた。お互い用事もなくのんびり遊べる日だから。
「へぇ、魔法塾に転校生の子が入ったんだね」
「そうなんだ。これからの塾が楽しみだよ」
すっかり緩んだ顔で言う俺に友は笑顔を向ける。
よく遊びに訪れる森の川辺。そこにある広い岩の上に座って話す。
さっきまで水遊びをしていたから髪や服が少し濡れていた。だから服を乾かしながら休憩中だ。森で遊ぶ前にしっかり乾かさないとな。風邪をひくのは嫌だもん。
「ところでさ。前から気になってたんだけど……」
「ん、なにが?」
「魔法の適性ってどうやって知るの?」
魔法を扱うのに適性が必要なのは彼も知っている。
でも、どうやってソレを調べるのかがちょっと気になったらしかった。
家族が使えるからと言って必ず遺伝するとは限らない。適性の詳細も違う筈だろう。子供でも想像がつく疑問だ。
道具でも使うのか、とタルホが聞いてくる。それに対して首を振り答えた。
「魔力の解放を促す方法と同じだよ。こう互いの手を合わせてやるんだ」
身振り手振りを加えて説明する。
まず熟練者と適性のわからない者の手を合わせるのだ。どっちの手でもいい。
目を閉じ、触れた手から魔力を流し込んで循環させる。この時に互いは不思議な感覚を覚えるんだ。
適性があれば魔力の循環がスムーズに行われて、その速度が早ければ早いほど適性が高い。それって少ない時間でたくさんの力を扱えるってことだから。
「適性が低いと循環の速度が遅かったり、どこかで詰まったりする」
「ふーん。道具とか使わないんだ」
「精密に調べられる道具もあるよ。でも個人で持てる物じゃないから」
専用の道具「
より正確に細かい部分まで調べられるけど、生産や素材のコストから非常に高価なものなんだって。大きな町とか都市に行けば持っている機関もあるだろうけど……。
「さすがにこの町にはないかもなぁ」
「そういう物なんだ」
「うん。でも、道具に頼らなくたって知ることはできる」
魔法を学ぶ際には大体の場合師匠がいる。独学は大変だからな。
普通だったらその師匠が今のような方法で調べてくれる筈だ。……ていうか魔針盤のほうが後にできたモノだし。
「それにな。潜在能力に関しては道具でも正確には測れないんだ」
「より精密っていうのに?」
「魔法適性とか元素との相性とかは結構正確らしいぜ。でも、魔力がどれくらい成長するかまでは目安なんだよ」
人づてや教科書で知った内容をそのまま伝えた。ちょっと得意げに。自分で調べて覚えたことだし、これくらいはいいよな。
するとタルホは「属性の得手不得手はどうやるの」と質問してきた。
あ、そっか。そっちを説明し忘れてたな。うん、当然の疑問だぜ。俺はスッと立ち上がって岩から軽々と飛び降りた。こっちの姿を目で追って覗き込んでくる。
「属性、つまり元素との相性な。これは魔力が少し扱えるようになってから調べる」
こっちも道具なしで調べらえる方法を伝えた。昔から伝わってきた方法だ。
俺は周囲に視線をやり、手頃な小枝を拾って相手に見えるよう掲げる。よく見ているように告げて集中した。今手に持っている小枝に魔力を注ぎ込む。
魔力を受けた小枝が少しだけ揺れ、パチッと何かが弾ける小さな音が響く。
この音は魔力反応っていう。魔力が使い手の意志にそって反応を起こす。そこに元素があれば変化を促してくれる。
「むぬぬぬっ」
「な、なに? 枝の先から何かが出て……」
全身全霊を込め、たっぷりと時間をかけた結果。
手に持った小枝の先から小さな芽が出た。本当にちっこい奴だが反応があったんだ。実感が生まれ、フゥッと息を吐きだして集中を解く。ちょっと息が上がっちゃったな。
「どうだ。これが元素との相性ってヤツ!」
「……えっと、これって成功なの?」
「一応な。でも特別得意って訳じゃないから時間かかったよ」
「じゃあ、相性がいいとすぐ芽が出るんだね」
「その筈だぜ」
すぐに反応が出る=元素が素直に従ってくれれば相性がいい。
魔力と合成しないと魔法にならないから相性は大事だ。手間がかかればそれだけ時間も使う。元素との相性がよければそれだけ早く、強い力を生み出せるんだ。
体感だけど、俺と木属性の魔法は普通くらいかな。ちょっと弱い気も……いや、まだ練習中だし!
「ならエミルはどの元素と相性がいいのかな」
「今日は随分と質問が多いな。まあ、いいけど」
人に教えるのも勉強のうちだ。気にしない、気にしない。むしろ復習できてよかったと思うことにしよう。うん、それがいい。
「まだ全部試したわけじゃないけど、今んとこ特に相性の悪い元素はないかなぁ」
「凄いじゃないか。どれも普通に扱えるってことでしょ」
「ちゃんと修練しないとダメだけどね」
「それでも凄いよ!」
瞳をキラキラさせて誉めてくるその言葉はくすぐったかった。
自分でも照れているとわかるくらい、気持ちがふわふわとしていて全身がカッと熱くなる。魔法が難しいと感じるのは変わらない。
けれど、相性や適性的には全然悪くないのは確かに凄いと自分でも思う。
(でも、実際のところ大変なんだよなぁ)
もしも本当にすべての属性が扱えたとしたら……。
でも、その時はきっと取捨選択が必要になるんだろうな。全部を確実に習得するなんて、たぶんできないだろうから。まだわかんないけどね。
「おし、そろそろ服も乾いたし森で勇者ごっこしようぜ」
「うん。どっちが勇者やる?」
「えーっと、オレやっていいかな」
「いいよ。じゃあ僕は幼馴染の魔法使いね」
あっという間に配役を決め、2人とも手近な枝を持って森の中へ押し入っていく。
堂に入った体で古くから伝わる伝説の勇者を演じる。この世界には昔から、世界の危機に際して召喚される勇者がいるのだ。時代とともに1人として同じ勇者はいない。
だが召喚される地はいつの時代も同じだった。それは隣国・ジルビリット王国。子供に話して聞かせる英雄譚にもよく出てくる国の名だ。
「ねえねえ。エミルはどの勇者が好きなの?」
「ええ、どうしたんだよ急に」
「だって毎回感じが違うからさ」
さっきも言ったけど、一口に勇者と言ってもいっぱいいる。
タルホは俺が演じる勇者が毎回違うのが気になったらしい。まあ、確かにそうだよな。でも仕方ないんだ。だって――。
「特別好きな勇者はいないかな。憧れるけど、会ったことないし」
「勇者に会うって無理だと思うけど……」
「でも生で見たほうが好きになれる気がするんだよな」
「むちゃくちゃ言ってるよ」
無理な話なのは自分でもわかっている。
けど、本当にそう思うんだから仕方ないだろ。俺は素直に言ってやった。
「そういうタルホは同じ感じだよな」
「うん。僕は990年くらい前の勇者エルエトスが好きなんだもん」
「へぇ、勇者エルエトスって確か邪龍ベルモンドに攫われた姫を助けに行った人だっけ」
「そうだよ。姫に仕えた騎士と一緒に戦ったんだ」
邪龍は当時の人には手に負えないくらい強かったんだよな。
もともとドラゴン自体が強いんだ。それなのに、邪神から特別な力を授かったっていうんだから恐ろしい敵だったに決まっている。
まあ、このドラゴンは龍と言っても原種に近い奴だけど……。
勇者エルエトスは魔法も得意な剣士だったという。ちなみに召喚者と呼ばれるのは、古今東西「勇者」だけなんだぜ。勇者以外の召喚者っていないらしい。
「姫を助けに行く勇者か。王道じゃん」
「うん。でもそこがまたカッコいいんだ。飾り気がなくても強く輝いてる」
力のこもった声音で語る友に俺も熱くなった。本当に好きなんだなと思う。
意気揚々と森の中を演技しながら突き進む。とても楽しい時間だった。伝説の英雄になりきり、仮想の敵を作り出してえいやとカッコつける。
そうして数十分と歩き続けた。んで、ようやく気づく。いつの間にか奥地まで来ていたことに。
「ヤバ……奥まで来過ぎちゃったかも」
「ねえ、さすがに戻ろう?」
「そうだな」
これ以上は危険と判断する。すると獣の鳴き声か、魔物かの遠吠えが響く。
「帰ろう!」
急に怖くなって慌てて来た道を引き返す。
危なかった。たぶん、もう少し判断が遅れてたら襲われてたかもしれない。親にも起こられるだろうし戻ってよかったと思う。
見慣れた場所まで来る頃には日が傾き始め、また遊ぶ約束をして別れた。
⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔
季節はめぐり後日、俺の家にニーアとタルホを呼んだ。
家庭科の授業を後に控えた状態で集まる。やることは決まっていた。バスケットや袋を持参して訪問した2人を出迎えてダイニングに案内していく。
「あの、初めましてニーナです」
「こちらこそ。タルホだよ、よろしくね」
意外とすぐ打ち解けられそうでほっとした。言ってはあったけど……。
入室した彼らは俺の母さんに挨拶をした。やり取りを見守ってから促す。
「店で使ってるのをちょっと貰って来たよ。はい、小麦粉とバター。あとパン粉」
「さすがパン屋。良いの使ってる~」
「私はじゃがいもと玉ねぎとナツメグを持ってきました」
「こっちも美味しそうな野菜だ」
まず持ち寄った食材を見せ合う。確認は大事だよな。
ナツメグは気を利かせて持ってきてくれたらしい。これを入れると美味しくなるんだって。その気遣いに胸がキュンッてなったよ。もちろん俺のほうも抜かりはないぜ。
「じゃあ先生、お願いします!」
「お願いします」
「うん。任せて」
俺が号令をかけるとタルホが頼もしく応えた。手を洗うなどの支度は万全。
家庭科の課題は「クロケット」だ。改めて材料はじゃがいも、合いびき肉、玉ねぎ、ナツメグ、バター、塩コショウ、小麦粉、パン粉、卵、あと油。母さんに見守られながら調理開始だ!
「まず下拵え。野菜を洗って皮を剥く」
「はい」
「あ、ジャガイモはまだ剝かないで。茹でるのが先!」
「おっと危ない」
茹でたジャガイモは熱い内に皮を剥く。火傷に注意だ。
俺達がジャガイモの皮処理と潰し作業をしている間、タルホは玉ねぎをみじん切りにしてバターやナツメグなどを入れて炒めていた。解説付きで!
「エミルは本当に物覚えがいいね」
「へへん、だろ~♪」
「ニーアちゃんは丁寧だね」
「そんな、ただ遅いだけ……」
「ううん。大事なことさ」
「そうそう。俺なんてテキトーだぜ?」
自慢げに言った言葉にタルホは苦笑いを浮かべる。
具材が出来上がると混ぜ合わせて皆で丸めた。コイン型にするんだ。成形が終わった後はしっかり覚ます。そして、ついにこの時が来た。
「監督! 油、使います!!」
「はい、宜しい」
応えたのは母さんだ。見守るのは変わらないが鍋が見える位置に移動してくる。
「ではタネに小麦粉、卵、パン粉の順につけます」
「つけたよ」
「油の準備はいい?」
「うん。こっちも大丈夫みたい」
「じゃあ端から滑らせるようにそっと入れて」
「やるぜぇ!!」
俺は高らかに吠え、タネを掴んで構えた。
「だからそっと!」
「エミル、ふざけちゃダメ」
「はい。監督」
注意を受けてしゅんと真剣になり熱い油の中にタネをスポーン!
練習を兼ねているので揚げる時もニーアと交代しながらやった。箸を構え、いや持ち、揚げ加減を見ながらこんがりキツネ色になったソレを掬う。差し出された皿に完成した料理を乗せて――。
『完成!』
全部上げ終わったら嬉しくて声を上げてしまった。
でき上がったクロケットをテーブルに並べていく。そして母さんに向かいこう言った。
「審査員、試食をお願いします」
「うむ」
調子を合わせて頷いた母さんが一口頬ばる。
ちゃんと咀嚼して飲み込む。緊張しながら結果を待つ。それから一旦箸を置いて……。
「美味しい」
「本当?」
「うん。皆、よくできました」
「やったぁ!」
一発合格を得られて嬉しくない筈がない。
それからは皆で「頂きます」をして勉強・試食会は無事幕を閉じた。
本番当日、家庭科の授業は長めに時間を取って行われる。
食材は分担して持ち寄り、エプロンや手洗いなどの準備を各自でする。
「手順は以上です。皆さん、早速作ってみましょう」
『はーい!』
「エミル、どっちが美味しいクロケットを作れるか勝負だ」
「いいけど誰が審査するの?」
「先生、は無理か。なら上級生か班の連中でいいだろう」
「わかった。負けないぞ」
「こちらこそ」
また始まったよ、と周囲の呆れた声が聞こえた。
気にせず、俺は同じ班の奴らとテキパキ作業していく。ニーアも同じ班だ。
先生や上級生の人達がそれぞれ見守っていた。時々声を掛けているのが聞こえてくる。
「油で揚げる時は先生か、上級生のお兄さん達に声を掛けてね」
誰に言うでもなく先生の声が響く。皆に言っているのだろう。
わいわいと楽しく調理する。つい気になってハロルドの班に視線をやると、アイツ難しい所を他の奴に任せてた。うわぁ~ずるい。
(いや、惑わされるな。自分で作ることに意味がある)
何のために練習したのか。その意味を忘れては意味がない。
「エミル、具材を炒めて」
「オッケー」
(タルホがやってた通りに――)
任された役目を俺は教わった通りにやり遂げた。
タネまで作り終えて上級生を呼び、アドバイスを受けながらカラッと揚げる。その手際を見て上級生や周りの子達が……。
「わ~上手」
「そりゃ先生がいいからね」
「わたしにも教えて」
「いいよ」
人から人へ、教わったことが繋がっていく。
そしてついに完成した暁にはドキドキわくわくの試食審査会だ!
上級生と班の皆が各々に一口を味わう。しっかり咀嚼して呑み込み考え込む。
「ど、どっち!?」
「うーん。こっち」
「あっち」
次々と票が入っていき、僅差で俺達の勝利だった。
あったり前だろ。こっちにはニーアの隠し味があるんだ。あと自分で作ったし。悔しがるハロルドの顔が気持ちいいぜ。
まあ、こんな感じで家庭科の授業は大成功のうちに終わった。
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