幕間01 引っ越してきた町での出会い
私は親の事情でこの町に引っ越してきました。
日がな一日荷解きをして、それが終わった後で両親に連れられレストランに行ったのです。これからの生活を思って……。
そこで私はある少年を見かけました。自分と同じくらいのこちらを見つめる瞳。これが出会いだったのかはちょっと微妙です。言葉を交わすことなくすれ違ったから。
「あの子可愛いな。ああいうのが好みなのか?」
「えっ、なんで!?」
食事をしている家族連れの声が聞こえてきます。
「ふふ……」
聞こえてきた内容に思わず笑みが零れ、そっと手を宛がって隠しました。
口いっぱいに料理を頬張る様子があんまりにも可愛かったから。だから本当につい、だったんです。
「あら、ご機嫌ね。何か良いことあったの?」
「ううん。なんでもない」
振り向いた母に私は軽く首を振って応えました。
本当になんでもないの。でもあの子のおかげで、ちょっとだけ肩の力が抜けた気がしたのです。
家に帰った後、お風呂に入って着替えて部屋に戻りました。丁寧に髪を梳かし終わってから棚に手を伸ばして1冊の魔導書を手に取ります。しおりを挟んだ頁を開いて……。
(そういえば、あの子同じ学校なのかな?)
読書中、ふと思い出して、同じ年くらいだったと思って。
「同じだったらいいなぁ」
なんとなく呟いて、ふふっと頬が緩んでしまいました。
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転校初日、不安と緊張で胸をいっぱいにしながら教室の扉を潜ります。
先生の言葉で自己紹介をして皆の顔を見回しました。視線を巡らせているとドキッと胸の奥が高鳴りました。あの子です。レストランで可愛く頬を膨らませていた男の子。驚いている様子で私を見ていて……。
(そうだよね。でも覚えててくれたんだ)
明らかに「覚えている」という反応につい嬉しくなってしまいました。
挨拶を終えて席に着き、自然な流れで授業が始まります。先生に指名された時はやっぱり緊張しました。ちゃんと答えられてよかったです。
そして休み時間になると同級生達が集まってきて――。
「ねえねえ、前はどこに住んでたの?」
「好きなことってある? あたしは~」
「わからない事があったら何でも聞いてね」
次々と質問されて戸惑っちゃいました。皆、積極的すぎ!
うぅ、いっぺんに言われると答えられないよ。私があわあわと狼狽えていると、誰かが「落ち着きなよ」って言います。助かるって気持ちになりました。
「やあ、ニーアちゃん。君は森樹精族なんだよね。近しいものを感じるな」
突然、1人の男の子が割って入ってきて話しかけてきます。
「え、えっと……」
(名前、誰さんだっけ?)
「ほらこの耳。僕はエルフ族だからさ!」
「ああ」
(名前、名前がわかんないよぉ~)
機嫌良さそうに話し続ける男の子。口を挟む隙がありません。
「お互い森で暮らす者同士仲良くしようじゃないか」
「あはは……今はもう、そういうの関係ないと思うけど……」
本当にどうしよう。どんどん話が進んでて聞けない。
つい合わせちゃう私のバカッ、このままじゃ収集がつかないかも……。
たぶん無意識に身を引いて、苦笑いを浮かべていました。要領の悪さがこんな所で出るなんて。
「そうだ! 今はもう皆仲良く暮らしてるんだから」
「そ、そうよね。今更先祖がどこで暮らしてたとか言ってもねぇ」
「うん。そりゃ、中には離れられない事情もあったりするけど……」
「ああ! 森で暮らす者とか関係なく僕達とも仲良くしてよ~」
あ、なんかいい感じに助けてくれたっぽいです。
心のどこかでほっと安堵してました。ありがとうって気持ちであの子に微笑みます。気づいてくれてるかな。うまく話せなくてごめんね。
(盛り上がっちゃってて声かけられない……)
同調したらしい周囲の子達と楽しく話しているあの子。
(名前、ちゃんと知らない。聞かないと)
でも、と躊躇っている内に時間が来てしまいました。うぅ、残念。
その後もなかなかタイミングが掴めなくて体育の授業が始まらいました。私が選択したのはウィンドキャリーです。魔法を上達させたいから。
ルールは簡単で、魔力に反応するボールを浮かせて先着順を競います。
遠くにあるポールを3周して戻ってくればゴール。でも必ずボールを浮かせた状態でやりとげないといけません。
「では、よーいドン!」
殆どの子がボールを軽く浮かせて走って行きました。でも私は――。
(ルールじゃ術者が走る決まりはない、から)
「えいっ」
落ち着いて、丁寧に、を心がけて魔力をコントロールします。
気をつけないと魔力が大地の元素と結びついちゃう。そしたら落ちちゃうから、魔力を鳥に見立てて干渉されない高さを意識して……。
(うぅ、遠くなると難しい)
両手を前に掲げて、いっぱいいっぱいになりながら3周させ引き寄せます。
なんとか最後までやり遂げると気が抜けました。何度かやってちょっと休憩。気がつけば視線は人を探していました。姿を探していると、白熱した様子の2人を見つけます。
「くっそぉ、ちょこまかと!」
「ふん。単調だね」
ペインボールで激戦を繰り広げていました。
「なんか、凄い……」
「まーたやってるよ、あの2人」
「なんだか変な喧嘩してる~」
「男の子って単純よね」
(よくやってるんだ)
皆の歓声と感想に耳を傾けてそう思います。
瞬く間に授業が終わって、休み時間になり移動して行く人の流れ。私はまた周囲を見回していました。水飲み場で火照った身体を濡らしているあの子を見つけ駆け寄って――。
「あの!」
「わっ、どうしたの?」
「驚かせてごめんなさい。それで、な、名前を教えくれませんか」
ギュッと服の裾を掴んで、思い切って言ったつもりでした。
男の子は一瞬だけ目を丸くして、でもすぐに嬉しそうな照れ笑いを浮かべます。
「そういえば自己紹介まだだったね。俺はエミル・ヴェルベイン、よろしくな!」
「はい。よろしくお願いします」
最初の一言が言えると先程のお礼もすんなり出てくれました。
私がお礼を言うとエミル君は、怪訝な眉を寄せ何のことかわからない様子で……。けれど思い至ったら「大したことじゃない」って言ったのです。
可愛いの第一印象から始まり、不思議な魅力を感じる彼との縁が繋がった瞬間でした。
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