第28話 ランダム・ウォークとゴガクシン粒子


​「……はっ?」


​天国で、呉学人のほうけた声が響いた。

​『神様TV』の中では、司会の神山が自信満々に続けた。



​司会者・神山: 「そう、呉学人はその『方向音痴』すらも、恐るべき『戦術』に変えていたのです!」


​VTRが再開する。


今度は、物々ものものしい雰囲気の軍事アナリストBが、腕組みをしながら登場した。


​軍事アナリストB: 「彼の方向音痴は、もはや戦術兵器です。常人には理解しがたい、予測不能な脅威。我々はこれを『ランダム・ウォーク戦術』と呼んでいます」


​ナレーション(以下、ナレ): 「ランダム・ウォーク戦術。それは、常人の予測の範疇を『超越』する、予測不可能な移動パターン」


​天国・学人: 「(小声)……ただ道に迷っているだけだ……それも、盛大に……」


​軍事アナリストB: 「敵のしのびは、彼の次の行動が全く読めなかった。城内で迷ったフリをして、実は敵のスパイをあぶり出していた、という記録も残っています」



​天国・学人: 「(叫び)迷ったフリではない! 本気で迷っていた! かわやを探して三千里だったんだ!」



​ナレ: 「その最たる例が、美濃みの攻略時。

敵地に潜入した呉学人は、道に迷い……なんと、偶然にも…………敵の主要な兵糧庫を発見! 即座に焼き討ちにしたのです!」


​CG映像が流れる。


キョロキョロと道に迷う呉学人(役)が、角を曲がった瞬間、目の前の巨大な蔵(【米】と大書されている)にドン、とぶつかる。


学人(役)が「!?」となり、懐から火打ち石を取り出すイメージだ。



​天国・利家: 「(爆笑)ぶはっ! 学人、お主、『偶然』だったのか! 俺たちには『三日三晩寝ずに突き止めた』と言っておったではないか!」


​天国・学人: 「(慌てて)い、いや、それは……二日間本気で迷った後、三日目に『あっ、これ兵糧庫じゃないか』と偶然見つけたんだ! 嘘は言っていない!」


​天国・信長: 「(ニヤリ)くくく……見事な『戦術』ではないか、学人よ。わしらですら、貴様がただの方向音痴だと、まんまとだまされておったわ」


​天国・学人: 「だから騙してません! 殿が一番ご存知でしょう、私の方向音痴っぷりを! 安土城のかわやの場所を、私に三度も聞かれたではありませぬか!」



​ナレ: 「だが、『誤先生』の謎はそれだけではない。彼の驚異的な移動速度、通称『神速』だ」



​天国・学人: 「(嫌な予感)……そっちは馬だ。いい馬と、寝てないだけだぞ……ひたすら馬を乗り継いで、尻の皮が三枚は剥けたんだぞ……」



​ナレ: 「美濃から京、京から越前へ。常識では考えられない速度での往復。彼は、馬で『走って』いたのではない。時空を『跳んで』いたのだ」



​画面は切り替わり、今度は白衣を着た物理学者Cが、子供のように目を輝かせて興奮気味に語り出す。


​物理学者C: 「いわゆる『ワームホール』を局所的に生成していた可能性が極めて高いですね。彼は時空をゆがめていたのです」



​天国・学人: 「(白目)わーむほーる……」



​物理学者C: 「その証拠があります! 近年、安土城跡の近辺から、彼のものとされる草鞋わらじの断片が発見されました。そこから、現代科学では説明できない未知の素粒子……『ゴガクシン粒子』が検出されたのです!」



​CG:青白く光る謎の粒子が、原子核の周りを回るイメージ。


画面の隅には【出典:月刊オカルト】の小さな文字。



​天国・慶次: 「(目を輝かせ)『ごがくしんりゅうし』! なんと! 学人、お主、そんなものをき散らして歩いておったのか!」


​天国・利家: 「(笑いすぎて苦しそう)ひっ…ひぃ…! 『わーむほーる』! だからお前はあんなに速かったのか! 尻の皮が剥けたのも、時空の摩擦だったのだな!」


​天国・慶次: 「ぬう! こいつは豪快だ! 俺の松風は天下最速と自負しておったが、まさか友が『時空』を跳んでおったとは! 一本取られたわ!」


​天国・学人: 「(震え声)違います! 馬です! 必死に馬を乗り換えて、尻の皮が剥けながら走ったんです! 粒子ではなく、ほこりと汗です!」


​学人の悲痛な訴えは、もはや誰の耳にも届かない。

三人が腹を抱える中、信長だけが腕を組み、真剣な顔で学人をじっと見つめていた。


​天国・学人: 「(ギクリ)……で、殿……?」


​天国・信長: 「(頷き)……ふむ。わしは常々、貴様が妙な空気をまとっておると思っておったが……」


​信長が、ポン、と納得したように手を打った。


​天国・信長: 「あれは、貴様が撒き散らしていた『粒子』だったのだな」


​天国・学人: 「(ついに崩れ落ちる)も、もう……好きに言ってください……」


​学人が雲の上に突っ伏した、その時。

テレビの神山が、ひときわ深刻な声色で言った。



​司会者・神山: 「そして、『誤先生』最大の謎……彼の超人的な知性と予測能力は、なぜ、あの運命の『本能寺』で発揮されなかったのか?

そこには、驚くべき真相が隠されていました」



​天国・学人: 「(ガバッ)!」


​学人は、最悪の予感に、勢いよく顔を上げた。



── つづく ──



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