第21話「帰還と新たな試練」

 古の街の呪いを退けたアルトたちは、夜明けと共に森の国への帰路についた。

 苔むした街道を踏みしめながら、仲間の誰もが疲労の色を浮かべていたが、その眼差しには確かな光が宿っていた。

 彼らは確かに道を見つけ、封じられた真実に触れたのだ。


 リィナが前を歩きながら、振り返る。

「これで道は繋がる。王都に封じられた街道を、私たちの国の血脈にできる」


 アルトは頷いた。

「でも、王都も黙ってはいない。……むしろこれからが本当の戦いだ」


 集落に戻ると、人々は歓声で迎えた。

 子どもたちが駆け寄り、老農夫が涙を流して手を握った。

「よくぞご無事で……! これで冬を越せますな!」


 傭兵は笑って剣を掲げ、カエルは竪琴を鳴らして歌を響かせた。

 「長よ、道を拓いた。森は我らの国を選んだ!」


 その夜、焚き火を囲んで宴が開かれた。

 狩りで得た獲物と畑の実りが並び、人々は笑い、歌い、未来を語り合った。


 アルトは火を見つめ、胸に熱いものを感じた。

(俺はもう無能じゃない。追放された者じゃない。この国を守る長として……立っているんだ)


 だが、安堵の時間は長くは続かなかった。


 翌朝、森の国に一人の使者が現れた。

 王都の紋章を掲げた若い騎士。

 その顔は青ざめていたが、命じられた役目を果たすために必死に声を張った。


「異端アルトへ、王都より布告を伝える!

 ——森の国は反逆の地と定められた。三日のうちに降伏し、祠の力を明け渡せ。さもなくば……王国軍が総攻撃を開始する!」


 集落にざわめきが走る。

 人々の顔から笑みが消え、不安の影が広がった。


 リィナが前に出て低く唸った。

「やはり来たか……狼の牙がむき出しになったな」


 会合が開かれた。

 傭兵は剣を膝に置き、冷静に言う。

「王国軍が動けば数は圧倒的だ。正面からぶつかれば潰される」


 学者が地図を広げた。

「しかし街道を抑えれば、物資と援軍をこちらに引き込める。包囲を突破できる可能性はある」


 老農夫は拳を握りしめた。

「逃げて屈すれば、また無能と蔑まれるだけだ。ここまで来たなら立つしかない」


 カエルは竪琴を抱え、震える声で歌を口ずさんだ。

「——恐れるな、我らは一つ。異端ではなく、希望の証を……」


 人々の心が少しずつ落ち着いていく。


 アルトは立ち上がり、声を張った。

「俺は降伏しない。

 祠の力を王都に渡すくらいなら、この命を捨ててでも守る!

 森の国はもう、誰かに奪われる国じゃない。ここで生きる俺たちの国だ!」


 その言葉に人々が立ち上がり、声を合わせた。

「森の国を守る!」

「異端ではない、我らの長だ!」


 焚き火の炎が高く燃え上がり、決意を映し出していた。


 その夜更け。

 アルトは一人祠の前に立ち、掌を当てた。

 柔らかな光が脈打ち、彼の胸に問いかけてくる。


(おまえは戦うか? それとも祈るか?)


「どちらもだ。戦い、祈り、この国を守る。

 ……俺はもう、追放された無能じゃない」


 光が答えるように強く輝き、森の奥から風が吹き抜けた。

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