第20話「廃墟の街と眠る影」

 古の街道を抜けた先に広がっていたのは、石の壁が崩れ、苔と草に覆われた廃墟の街だった。

 風が吹き抜けるたびに瓦礫が鳴り、遠い昔の声がこだまするかのようだった。


 学者が息を呑んだ。

「伝承にある“緑の回廊”の都……王都よりも古き文明がここに栄えていたはずです。だがなぜ滅んだのか、記録はすべて封じられている」


 アルトは崩れた門を見上げ、胸にざらついた予感を覚えた。

(王都がこの道を封鎖した理由……きっと、この街に眠っている)


 街の中を進むと、広場には石像が並んでいた。

 人の姿を模しているが、皆苦悶の表情を浮かべている。

 まるで生きた人間が石へと変えられたかのようだった。


 リィナが槍を握りしめ、金の瞳を細める。

「匂いがする……血でも肉でもない。呪いだ」


 傭兵が剣を抜き、低く呟いた。

「この街は呪いに喰われた……そういうことか」


 やがて、大広間に辿り着いた。

 かつては議事堂だったのだろう。瓦礫に覆われた中央に、黒い結晶が突き立っていた。

 それは脈打つように闇を放ち、近づくだけで胸を圧迫する。


 カエルが竪琴を抱え、声を震わせた。

「これは……“王国建国以前に封じられた禁忌”だ。歌にだけ、断片が残っている。

 ——闇の核が目覚めれば、森も人も呑み込まれる、と」


 アルトは拳を握った。

「つまり、王都はこの核を恐れて街道を封じた……」


 学者が頷く。

「ええ。そして恐らく、王都はこの真実を隠し続けてきた。異端の烙印も、その隠蔽のための方便かもしれません」


 その時、結晶が低く唸りを上げた。

 闇が噴き出し、影の兵が姿を現す。甲冑を纏った人影のようだが、眼は空洞で、剣からは靄が滴っている。


「また呪いか……!」リィナが槍を構える。


「いや……これは昔ここに住んでいた人間の成れの果てかもしれん」

 傭兵の声に重苦しい沈黙が落ちる。


 アルトは一歩前に出て、掌に光を宿した。

「なら……解き放つしかない」


 戦いが始まった。

 影の兵は数に勝り、剣の一振りで石床を割った。

 だがリィナの槍が疾風のように突き、傭兵の剣が鋭く影を切り裂く。

 アルトは祠の光を思い出し、掌から放った光で影を焼き払った。


 だが影は倒しても倒しても湧き続けた。

 カエルが必死に歌を奏でる。


「——光は闇を呑まず、闇もまた光を消せない。

 ならば共にある道を示せ……!」


 旋律に呼応してアルトの光が膨らみ、影の兵たちの動きが一瞬止まった。


 その隙を突き、アルトは黒い結晶に掌を当てた。

 焼けるような痛みが走り、闇が体に流れ込もうとする。


「ぐっ……!」


 リィナが叫ぶ。

「無理だ、離れろ!」


「いや……今しかない!」


 アルトは歯を食いしばり、心の奥底に叫んだ。

(俺はもう逃げない! 異端でも構わない! みんなを守る!)


 その決意に応えるように、掌の光が爆発し、結晶を包んだ。

 影の兵が絶叫と共に崩れ去り、街全体に響いていた呪いの脈動が静かに消えていった。


 静寂。

 崩れた街に月光が差し込み、石像の表情がわずかに安らいだように見えた。


 アルトは膝をつき、荒い息を吐いた。

 リィナが支え、低く呟く。

「……無茶をする。だが、おまえだからこそできた」


 学者は震える手で瓦礫を拾い上げ、驚愕の声を漏らした。

「これは……建国以前の文字だ。“森と人が国を築く”……アルト殿、あなたはこの街の意志を継いだのかもしれません」


 アルトは答えず、ただ拳を握った。

(なら、この道を繋げる。森の国は、過去に敗れた者たちの夢を継ぐ場所になるんだ)

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