第42話 「若い女は一体どういうのが好きなんだ?」

グリフォンは、頭と羽が鷲で体が獅子という異形の魔物だ。

危険度だけならブラックウォルフやレッドベアより一段階上になる。

空を自由に飛行し、風系の魔法も使うのだ。


危険度は高いのだが、絶滅危惧種とも認定されていた。

理由は、彼らの性格にある。


「赤子のころから育てたら、それなりに懐くと何かで読んだ気がする」

フィーネとアウレリアがそれぞれに言った。


カイは魔物事典を読んだだけだが、確かにそういった記述があったと思う。

主食は木の実や魚で、好奇心旺盛。


「剥製なら見たことがあるな」

エーミールが思い出すようにしながら言った。


比較的捕まえやすいうえに姿かたちが珍しいと、貴族や王族がこぞって求め、剥製にするために乱獲された時代があったらしい。

百年以上前のことだ。


捕まえやすいといっても飛行するため、剥製にできるほど綺麗な状態で討伐できた個体は少なく、現存しているのは十数体。

エーミールが見たのは、そのうちの一体だろう。


明確に人が敵対するようになり、グリフォンたちは人の国の近くにあった生息域を放棄し、このあたりではほとんど見かけなくなったのだという。


「グリフォンは、基本的に人を攻撃することはないんだろう?」

アウレリアが言うと、ライナーがうなずいた。

「ああ。実際、今回も人や馬は襲われていない。理由はわからんが、馬車だけが攻撃されていた」


フィーネが、耳をぴこっと動かした。

「とにかく、グリフォンが森の奥にいるから、ブラックウォルフがこっちに逃げて来てるってことでいいの?」


グリフォンの行動範囲は広いが、巣を作るのは森の木の上だという。

「そうだろうな。グリフォンは魔物を襲うことはあまりないが、少し縄張り意識が強い。巣と決めた場所の周りからほかの魔物を追い出す習性があるから、そのせいだろう」

アウレリアが教えてくれた。


レッドベアとブラウンボアも追い立てられたのかもしれないが、この中ではブラックウォルフが一番弱い。

結果として、ブラックウォルフが森から出ることになったのだろう。


「なんにしても、馬車を襲う理由がわからないと対処が難しいですね」

カイは首をひねった。


街道を通る馬車が毎回護衛をつければ、ある程度の対策はできる。

しかし今後、村の家などが狙われないとも限らない。


グリフォンがなぜそこにいるのか、なぜ馬車を襲うのかがわかれば、なんとかなるかもしれない。


「昔はペットにしようとした貴族もいたらしいが、さすがに意思疎通はできないからな」

ライナーが肩をすくめた。


「さすがに危険すぎる。人への攻撃性は低くとも、れっきとした魔物だ」

アウレリアが首を横に振った。


確かに、いくら人に慣れやすいとはいえ、魔物は魔物である。


「馬車を襲う理由がわかればねぇ……。いっそのこと、壊してもいい馬車を囮にしてみるとか?」

フィーネが、腕を組んで言った。


「囮か。なくはないが、ただ壊されるだけなら意味がないぞ」

エーミールは顎に手を当てた。


馬車は使い捨てにできるようなものではないので、何度も実験を繰り返すわけにもいかない。

そこで、カイはふと思いついた。

「それなら、僕が馬車を頑丈なものに修繕してみるというのはどうですか?」


デニスとライナーたちが、カイを見た。

考えるようにしながら、アウレリアが聞いた。

「補強するということか。どれくらい強くできそうなんだ?」


「そうですね……幌はちょっとどうしようもないんですが、荷台の方であれば、二トンくらいまでは耐えられるようにできると思います」

カイの言葉に、フィーネが首をかしげた。


「二トン?ってどれくらい?」

「えーっと、二千キログラムですね」

そういえば、この世界では重さはすべて同じ単位でしか聞いたことがない気がする。


「二千キログラム!それはすごいな。大人が三十人以上乗れるということか」

デニスが目を見開いた。


「動かさないなら、もう少し工夫して耐荷重を増やせると思います」

荷台の下に土を固めれば、板が割れる心配もない。



囮の馬車を用意できないかとデニスに相談したところ、ちょうどヤーコブが馬車を買い替える予定があるということで、古い方の馬車を譲り受けることになった。

村が買い上げて使わせてもらうのだ。


ただし、さすがに今日明日というわけにはいかない。

ヤーコブが新しい馬車をツーレツト町で購入するのが十日後というので、それまでは待つことになった。


カイは修理の仕事、バンガードの四人は護衛の仕事である。

ついでに、ゲアトたちも護衛を手伝うために村に残ることになった。


たまの贅沢として食堂に来たところ、ちょうどゲアトたちと鉢合わせてその話を聞いた。


「思ったよりも割がいいからな。もうちょっとここで稼がせてもらう」

ゲアトはそう言って、エールをあおった。


「ゲアトは今、ちょっと貯めるために頑張ってるからなぁ」

ティムがちびりと飲んだのはワインだ。

あまり飲んでいないが、ティムの顔は真っ赤である。


「うるせぇ!ほっとけよ」

ドン!とジョッキをテーブルに置いたゲアトは、ティムに凄んで見せた。


フーゴは、三杯目のエールを飲み干して生ぬるい笑顔をゲアトに向けていた。


「もしかして、プレゼントとか?」

なんとなく思い至って、カイはゲアトに聞いた。


年が似たようなものだから、敬語はやめろと言われたのだ。

そのカイの言葉に、ゲアトは耳を赤く染めた。

「なっ、ちが、いや、いいだろ!?」


「へぇ」

「ふふふ」

「すごくいいと思うよ」

ティムとフーゴは生ぬるく笑う中、カイはうんうんとうなずいた。


「ったく……。なあカイ、若い女は一体どういうのが好きなんだ?」

ティムとフーゴを無視したゲアトは、カイに向かって言った。


「ゲアト、それは主語が大きすぎると思う」

若いといっても、感覚は人それぞれだ。

好みだって個人によるから、一概には言えない。


「あー……。王都の近くに住んでて、病気がちであんまり外に出ない、人懐っこくてよく話す、あと本をよく読んでるな」


カイの頭の中で、深窓の令嬢と冒険者の甘酸っぱいやり取りが再生された。

思わずゲアトをじっと見ると、視線に気づいた彼は眉を寄せた。


「なんか変なこと考えてねぇか?あいつは、アルマは、そろそろ四歳なんだ」

「四歳の女の子かぁ」

脳内の映像は軌道修正されたが、若干危ない方向に変わった気がする。


「おい、アルマはオレの姪だからな?」

「あ、そうなんだ」


カイが納得してうなずくと、フーゴとティムが噴き出した。

「ぶーっ!あはは!ゲアト、ロリコン疑惑かけられてやんの」

「くっ、はははは!そうそう、アルマちゃんはすごくゲアトに懐いてるんだ」


ゲアトは二人をじろりと見た。

「お前ら、わかってたんなら言えよ」


「ごめんごめん。ぶ、くくく。カイの表情がわかりやすくって」

笑いを抑えようとしたティムが肩を震わせ、机をバンバンと叩いた。


カイは、余計な想像を振り払った。

「ゲアト、誤解して悪かった。ちゃんと聞くから、教えて欲しい」


「誤解すんな!ったく。絵本ばっかじゃ飽きるだろ?男なら珍しい虫とか模擬剣とか考えつくんだがよ、女ってどうなんだ?」

眉を寄せたゲアトは、太い腕をがっしりと組んだ。


「そうだなぁ……。四歳の女の子なら、ぬいぐるみとか?」

孤児院でのことを思い出せば、女の子がファンシーなものが好きなのは、世界を超えても変わらないらしかった。


「ぬいぐるみ?人形のことか」

シードルを飲むカイを見ながら、ゲアトは首をひねった。


「好きな動物でもいいし、好きな絵本に出てくるものでもいいと思う」

「オーダーするってことか。そんなもん、誰に頼めばいいんだ?」


カイは、笑顔で答えた。

「イーリスさんなら、作れると思う」


なにせ、彼女は針の名匠なのだ。

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