第12話 上陸ポルト・アリア

「つ、疲れた…」

昨晩は嵐に見舞われた。航海はそれまで順調であったが、昨日で一気に崩れた。

船はぐわんぐわんと揺れ、倉庫もひっくり返り、飲み水が甲板に飛び散った。


チューンは操舵のため懸命に演奏を続けていたため、彼女もまた疲労している。


「マ、マオ様。見えました!ポルト・アリアです」

地図をなんとか二人で読み解きつつも、どうやらたどり着くことができたようだった。


遠く朧げに人口物らしき白い建築物が見え始めた。

「や、やった。やったぞチューン!」

「は。はい! しかし、この後どうしましょう」

「え。この後?」

「え、ええ。マオ様は問題ないかもしれませんが、私はこの」

そう言って彼女は自身の頭にある巻角をつるり、と撫でる。


「そうか。魔族ってバレてしまうということか」

「はい。おそらく私のこの姿を見て間違いなく、街は混乱の嵐となるかと……。申し訳ありません。ちょっと、倉庫でノコギリ探して参りますっ! マオ様を面倒ごとに巻き込む、こんな角など切って海の巻き貝になれば良いのですっ!」

ダっ、と倉庫に向かって走ろうとする彼女の腕を掴む。


「ま、待てって。ほら着替えにローブか何かあるはずだ。それで角を隠せるだろ」

「あ、そうですね。ありがとうございます」

いや。ちょっと考えればわかることだろう。


そうこうして、船はポルト・アリアの波止場までたどり着いた。

船守は近づく自分達に気がつき、停める場所をハンドサインで指示する。

「ちょっと失礼します」

人の目がありダストを召喚できないため、チューンは自らの手で縄を引っ張り、操舵する。やはり彼女は何かと器用だ。


「停泊は何日だ?」

波止場へ降り立ち、声をかけてきたのは髭を生やした男であった。

そして、この世界で初めて見る「人間」でもあった。

自分と姿形が変わらない。だからこそ、そう判断した。


「あ。ええと」

「そのなりは商売人だろう。正直、今のこの街は武器の類以外はあまり売れねえぞ。注意しな」

商人。まあ、違うが正体がバレてしまってはまずいから彼の話に合わせることにした。

「そうだな。ええと3日?ぐらいかな」

「それなら1日10ゴールド。だから30ゴールド寄越しな」

「こいつ。真王様に向かって。愚民の分際で……」

ぼそぼとつぶやく彼女に肘で小突く。


「いいから。それで。お金あるか?」

チューンに尋ねる。

「ええ。多少ならございます。この世界の貨幣が共通なことだけは助かりますね」

そういって、彼女は自分の手に金貨30枚を握らせる。そして、それを男に渡すと、「まいど」と口笛を吹いて消えていった。


「なぜか上手くいったな」

「そう、ですね。しかし。人がなんと多いこと」

波止場を抜けると、巨大な市場が広がっていた。魚や貝といった港町の特有の海産物が多く売られている。


軽快で溌剌とした声でとても活気に溢れている。魔界とは比較にならない。

「これが西国の人々……」

「チューンも初めて見るのか」

「はい。恥ずかしながら。ただわかるのは、ここにいる者たちには何の音力も感じません」

「そういうのわかるもんなのか」

「そうですね。振動のようなものを感じるのです。少なくとバフォメットである私は、そういった感覚には敏感なのです」

これまた音楽に因ちなんでいる。音もまた振動だ。


潜入した後。第一の目標は、この地域にいるというデーモン族、ドライブの所在を掴むことであった。

街は一見平和そのものであることを見るに、戦いは起こっていないように見える。


しかし、それにしてもすごい人だった。

マーケットは通るのがやっとなレベルの人混みであり、自分が知っている世界。前世で見た光景にかなり近しい。


これが、自由主義。経済的にも自由に取引が行える効果なのかもしれない。

そして、当然かもしれないが「人間」しかいない。

そこで思う。俺は本当に果たしてなのだろうか。いや、ということで良いのだろうか


「マオ様。とりあえず、水を買いませんか。大変申し訳ないのですが、人の数に酔ってしまったのと、昨日から喉が乾いておりまして……」

「そ、そうだな。ちょっと探してみるか」

自分の素朴な疑問はチューンの質問で消えていった。


「ふう」

マーケットを抜けると広場があり、空いていたベンチに腰をかけた。

チューンは購入した水をフードが脱げないよう飲む。


広場には噴水があり、子供達が忙しなく駆け回っている。

「平和、だ」

その二文字が似合う光景であった。

「さて、ドライブとかいったか。どうやってその男を探せばいいのか」

「そうですね。おそらく彼のことです。何度かこの国と小競り合いはしていると思います」

「ふうん。チューンはそのドライブってやつと面識はあるのか」

チューンはその言葉に頭を抱える。


「残念ながら面識はあります。」

「残念?」

「あの男は野蛮で粗雑で破壊的で……。それに真王様の復活のことなど、全く信じることもしませんでした。それに私のことを引き籠りなどと……」

苦虫を潰したように恨み節の目を光らせる。


「それで、何となくですが私めに思い当たることがあります。書本の情報ではありますが、近くのギルドに赴きたく考えています」

「ギルド。それって、冒険者とかそういう人たちが集まる場所?」

「はい。確か書物にはそう書かれていたと」

何やら物々しい場所に足を運ぶ必要がありそうだ。

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