第13話 止まった鉛筆
数日後の夕方。小さな机の上には、下書きの紙やノートが山のように積み重なっていた。いろはとつづりは肩を並べ、黙り込んだまま鉛筆を握っていた。
「……なんか、ちがう。」
いろはは描きかけのキャラクターを見つめ、鉛筆を止めた。
「頭の中では動いてるのに、紙にすると全然動かない。」
つづりはノートに短く書く。
——「おなじ」
彼の文字も、いつもの伸びやかさがなかった。ページには途中で止まった文章がいくつも並んでいる。
「どうしよう。せっかく大賞に出すって決めたのに……」
声はしぼんでいき、指先は強く鉛筆を握りすぎていた。
つづりは一度視線を落とし、ノートにためらいがちに書く。
——「がんばりすぎ?」
「そんなことないよ……」
否定したものの、胸の奥では言葉が刺さったままだった。
沈黙。鉛筆もペンも動かない。時計の針の音だけが、部屋にカチカチと響いていた。
そのとき、台所からようこの声が届いた。
「そろそろごはんにしようかー!」
いろはとつづりは顔を見合わせ、同時にため息をついた。
動かない紙の上を前にして、食欲だけが少しずつ湧いてくる。
——行き詰まりの夜は、静かに更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます