第11話 不可解な点

「…………ごめんなさい。またアッシュフォードくんに迷惑をかけてしまいました」


 泣きながら俺に抱き着くファルネーゼ。

 大きな胸がぎゅうっと当たる……


 身体はかなり震えている。

 よほどあの父親が怖かったらしい。

 ファルネーゼの怖がり方は普通ではない。

 ちょっとお父さんに怒られるのが怖いとか、そういうレベルを超えている。

 あの父親との間に何かあるに違いない……


「クラウゼンさん。そろそろ話してくれないか? 学園を追放されたこととか、お父さんのこととか……」

「…………はい」


 俺はずっと気になっていたけど、ファルネーゼに聞かないようにしていた。

 きっといろいろ事情があるのだと思ったからだ。

 言いにくい話を、無理やり聞き出すのは良くない。

 本人が言い出すのを待ったほうがいい。


「ずっと言わないでいて、すみません。気になりますよね?」

「いいよ。クラウゼンさんが言いたいなら言えばいいと思うし」

「ふふ。やっぱりアッシュフォードくんは優しいですね」

「そうかな? ありがとう」

「で、本題ですが……」


 ファルネーゼは話を始めた。

 

「実は……わたし、全然覚えていないのです。アリエスさんをいじめたと言われても、覚えていなくて……」

「え? 覚えていないのか?」

「ええ。わたし、アリエスさんとはお友達だったはずなのです。アリエスさんとは仲良くしていた記憶しかなくて、いついじめたのかわからなくて、気がついたら学園の大広間でクロード王子殿下から婚約破棄と学園追放を言い渡されました」

「なるほど……」


 ファルネーゼは真剣な表情で言っている。

 嘘を言っているようには見えない。

 本当に自分がアリエス――ツキヒカの主人公をいじめたことを覚えてないようだ。

 ファルネーゼの言う通りなら、ファルネーゼは何者かに操られた可能性がある。

 それに、気になることがひとつある――


「なあ、今、、と言ってたけど、本当?」

「? 本当です。一年生の頃から、アリエスさんとは友達でした」

「…………そうか」


 おかしい。

 アリエスとファルネーゼは、主人公と悪役令嬢の関係だ。

 仲良くなることは絶対にあり得ない。

 ツキヒカのシナリオと違う展開だ。

 これはいったいどういうことなんだ?

 俺はモブでメインキャラたちと交わることはなかったし、ファルネーゼたちとはクラスが違ったから、一年生の時に何があったのか知らない。

 俺の知らない、別のシナリオが動いているのか……?

 

「アッシュフォードくん、大丈夫ですか? 難しい顔をしてますが……」

「ううん。大丈夫だよ。それで、お父さんのことは?」

「はい。お父さまのことは怖いです……」

「うん。そうみたいだね」

「子どもの頃から、よくぶたれていました。クラウゼン公爵家にふさわしい令嬢になるために、怒られて……」


 ファルネーゼは、胸のリボンをぎゅっと掴む。

 身体がガタガタと震えている。

 やっぱりあの横暴な父親をかなり怖がっているみたいだ。


「だからお父さまがここにやって来た時、わたし、すごく怖くて……」

「……あのさ、 クラウゼンさんが場所をお父さんに教えたの?」

「え? いえ、わたしではありません。たしかに、どうしてお父さまは、わたしがアッシュフォードくんの家にいることを知ったのでしょう……?」

「そうだよな。そこが気になるな……」


 何者かが、クラウゼン公爵にファルネーゼの居場所を教えた。

 いったい何のために?

 アリエスとのこともそうだが、不可解なことが多すぎる。


「……あ! そろそろ授業が始まる時間ですね」

「そうだな。とりあえず、クラウゼンさんはここにいて。俺が帰ってくるまで、誰が訪ねてきても絶対にドアを開けないでくれ」

「はい。わかりました」

「俺は俺でいろいろ探ってみるよ」


 まずは主人公のアリエスを調べよう。

 隣のクラスにいるはずだから、休み時間に見に行くことにする。

 ……と、俺がいろいろ考えていると、


「…………で、アッシュフォードくんが授業に行く前にお願いがあります」

「え? 何?」

「その、ぎゅうっと、わたしを抱きしめてください。しばらく離れるのが寂しいですから……」





 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る