第10話 毒親から守る
「あ、おはようございます! アッシュフォードくん!」
朝、目覚めたら笑顔のファルネーゼが目の前にいた。
そう言えば昨日はファルネーゼに抱きつかれたまま寝たんだっけ……
「朝ごはんできてますよ! 食べてください!」
トーストに目玉焼きにベーコン――うまそうな朝食がテーブルに並んでいる。
「これってクラウゼンさんが作ってくれたの?」
「はい。お料理はあまり得意ではありませんが、せめて一晩泊めてくれたお礼をしたいと思いまして」
「そっか。ありがとうな。いただくよ」
俺がトーストに手をつけようとした時だった。
コンコン――
部屋のドアを叩く音がする。
(こんな朝に、いったい誰だ……?)
昨日、魔術師がファルネーゼを殺しにやって来た。
目的は不明だが、ファルネーゼは命を狙われている。
それを考えれば、また敵が来た可能性がある――
ファルネーゼも同じことを思ったようで、顔をこわばらせながら俺を見ていた。
「アッシュフォードくん……」
ファルネーゼは不安げな声を漏らす。
「クラウゼンさん。後ろに下がっていて」
俺はファルネーゼを部屋の奥に下がらせると、玄関に向かう。
ドアについたのぞき窓を通して外を見ると、
(誰だ? あのオッサンは……)
立派な貴族の服を着たオッサンが、ドアの前に立っていた。
昨日襲ってきた魔術師たちとは雰囲気が全然違う。
殺気がまったくない。
どうやらただの訪問客のようだ。
(今のところは、な……)
昨日のことがあるから油断はできない。
「あんたは誰だ?」
俺はドアの前にいるオッサンに声をかける。
「……ゼウス・フォン・クラウゼンだ。我が娘、ファルネーゼはここにいるのか?」
「え?!」
ゼウス・フォン・クラウゼン公爵。
クラウゼンの名の通り、ファルネーゼの父親だ。
「お、お父さまが……?」
ファルネーゼも驚いている。
俺はドアを開けた。
「貴様がアッシュフォード準男爵の息子か?」
かなり威圧的な物言いだ。
たしか設定ではクラウゼン公爵は、プライドがすげえ高い男だった。
アッシュフォード家の爵位は準男爵。
貴族社会の最底辺だ。
だから鼻から俺を見下していてもおかしくない。
「そうですが……」
「我が娘、ファルネーゼがここにいると聞いた。早くファルネーゼを出せ」
「お父さま……」
ファルネーゼが奥から出てくる。
怯えた表情。
父親のことをかなり怖がっているみたいだ。
「この恥知らずが……っ!!」
クラウゼン公爵は、ファルネーゼの頬を殴る。
「きゃ!?」
突然の殴打に、ファルネーゼはその場に倒れた。
「おい! いきなり何をやって――」
「ファルネーゼ、お前は我がクラウゼン公爵家の汚した。もうお前を人前に出すことはできん。帰るぞ」
クラウゼン公爵は、倒れたファルネーゼの腕を掴む。
「お父さま、ごめんなさい。わたしは……」
ファルネーゼは何かを話そうとするが、
「お前の話なぞどうでもいい。さっさと来い」
クラウゼン公爵はファルネーゼの話を聞かず、引きずっていこうとする。
「おいおい。クラウゼン公爵。自分の娘の話くらい、聞いたらどうだ?」
たしかにファルネーゼは悪役令嬢だ。
悪いことをして断罪されたのかもしれない。
だが、俺は気づいた。
ファルネーゼは、悪い子じゃないと。
一緒にいて俺はそう確信した。
もし悪いことをしたのだとしたら、何か事情あるんじゃないか?
ツキヒカの本編では描かれていない、もうひとつのストーリーがあるんじゃないか?
「うるさい。貴様には関係ないだろう」
「関係あるよ。俺の部屋で起こってることだからな」
「これは、クラウゼン公爵家の話だ。 準男爵家は引っ込んでおれ」
「アッシュフォードくん、いいんです。わたしが全部悪いんですから……」
「よくない。クラウゼンさんは、何もないのに人をいじめたりする子じゃないだろ。事情があるならちゃんと話してほしい」
「おい! 貴様! 邪魔するな……!!」
クラウゼン公爵が、俺に殴りかかってくる。
渾身の拳。
だが、所詮は身体を鍛錬してない貴族のパンチだ。
遅すぎて余裕で俺は回避する。
まあ俺にとっては何でもないことだったのだが――
「アッシュフォードくんを傷つけないで!!!」
さっきまで父親に怯えていたファルネーゼが、憤然と立ち上がった。
「ファルネーゼ、この準男爵に何かされたのか? 貴様! 我が娘を辱めて――」
「アッシュフォードくんは、そんなことしません!! とってもいい人なんです!! すべてに見捨てられたわたしを助けてくれた恩人です!! あなたとは違うんです!」
ファルネーゼは叫んだ。
強く父親であるクラウゼン公爵を睨みつける。
「……父親に逆らうつもりか? ふざけるな!!」
クラウゼン公爵が拳を振り上げる。
「おい。自分の娘を殴るなよ」
俺はクラウゼン公爵の腕を掴む。
少しこの二人のやりとりを見たが、クラウゼン公爵はかなり横暴な父親だ。
おそらく家でもファルネーゼを虐待とかしていたかもしれない。
「く……っ! 離せ!」
「まずは冷静に話し合おう。二人は親子だろ?」
「貴様の指図など受けるか!!」
「とりあえず、女の子を殴るのはやめよう、な?」
俺は握る力を少しずつ強くしていく。
「ぐぐ……! わかった。わかったから離せ」
「了解」
俺はクラウゼン公爵の腕を離す。
「……ファルネーゼ。勘当だ。もうお前のような娘は、我が公爵家には要らん!」
クラウゼン公爵は吐き捨てるように言うと、部屋から出て行った。
「なんだよ。あれでも父親か――」
俺は思わず悪態をつきそうになるが、
「アッシュフォードくん、巻き込んでごめんなさい。わたし、すごく、怖くて……」
ファルネーゼが泣きながら、俺に抱き着いてきた。
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