第9話 好きだからこそ怖い ファルネーゼ視点

【ファルネーゼ視点】


「は……っ! わたしはどこに……あ!」

 

 眠りから覚めると、わたしはアッシュフォードくんの上にいた。

 しかも、下着姿で。


 (いったいわたしは何をして……?)


 あ。そうだった。

 寂しくて、アッシュフォードくんの上で寝たんだった。

 それで血族限界の

 アッシュフォードくんに、わたしの魔力を差し上げた。


「わたし、すごくはしたないことしちゃった……」


 わたしは顔を両手で覆って、ひとりで恥ずかしがる。

 幸い、今、アッシュフォードくんは寝ているみたいだ。

 

 クラウゼン公爵家の血族限界――星濡れの口づけ。

 血族限界は、特定の一族だけが使用できる特別な魔術。

 星濡れの口づけは、使用者が愛する者に魔力を与える。

 そう。

 そしてこの魔術は、効果は発揮する。

 

「わたしは、アッシュフォードくんを愛している……」

 

 さっきは勢いで星濡れのキスをしてしまった。

 アッシュフォードくんに魔力を移った。

 しかもかなり大量の魔力だ。

 だからわたしは、すごくアッシュフォードくんを愛していることになる。


 アッシュフォードくんは、学園から追放されたわたしを助けてくれた。

 家族からも、友人からも、婚約者からも、すべてからわたしは見捨てられた。

 もうわたしは死んでもいいと思っていた。


 (今、わたしが生きているのは、全部アッシュフォードくんのおかげだ……)


「アッシュフォードくんは、わたしの、神さまだ……」

 

 アッシュフォードくんと一緒にいるだけで、わたしはいろいろなことを学べる。

 自分の考え方が、どんどん変わっていくのだ。

 今までの人生の中で、こんなことはなかった。

 すべてが新鮮な体験だ……


「アッシュフォードくんに嫌われたらどうしよう……?」


 わたしは人を好きになったことは初めてだ。

 男性を好きになったのことは、もちろん初めてだ。

 たしかにわたしの周りには、いつも人がいた。

 人がたくさんいた。

 貴族の令嬢、令息、高貴な身分の人たちがたくさん……

 わたしと仲良くなろうとする人たちもたくさんいた。

 しかし、それは、全部わたしが、四大貴族のクラウゼン公爵家の令嬢だからだ。

 

「誰にも心を許してはならぬ――」


 これはお父さまの言葉だ。

 クラウゼン公爵家の力を利用しようとして、いろいろな人間たちが近づいてくる。

 クラウゼン公爵家は、四大貴族の筆頭だ。一番の権勢を誇っている。

 のし上がるために、人に言えない汚いことをたくさんやってきた。

 それで他の貴族たちの恨みを、たくさん買ってきた。

 だから味方のフリをして陥れようとしてくる敵もいる。

 ……そんな環境で育ったわたしは、誰も信用できなかった。

 友達や家族さえも信じられない……

 いつ敵の罠にかけられるかわからないから――


「アッシュフォードくんを、信じたい。だけど、もし、裏切られたら……」


 わたしは怖がりな女の子だ。

 アッシュフォードくんが好きだからこそ、嫌われるのが怖くてたまらない。

 大好きなアッシュフォードくんに、見捨てられるのが怖い。


「アッシュフォードくん、わたしを助けて……」


 わたしはアッシュフォードくんに、もう一度抱き着いた。

 



 

 

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