第11話任務と誤解とおじさん
俺はセリアに案内され、隣村へとやってきた。
リーナも同行を希望し、長老の許可を得て一緒に来ている。俺としても、彼女がいないと“レンアイ”の説明を一人で背負うことになり、不安だったので助かった。
村の門をくぐると、衛兵たちが整然と並び、セリアの帰還を迎える。
その姿を見ただけで、この村が“規律”を重んじる場所だと分かった。
だが同時に、人々の目にちらほらと迷いが浮かんでいるのも感じる。
「セリア、帰還ご苦労。……その者が例の旅人か?」
鎧を身にまとった中年の隊長が俺を見下ろす。
「はい。彼が“レンアイ”の布教者です」
「ふむ……。だが任務に必要のない概念を広めるのは混乱を招くだけだ。何の利益がある?」
いきなり懐疑的な空気だ。
俺は深呼吸して、落ち着いて答える。
「“レンアイ”は利益や効率のためじゃない。人を人として扱うための心の在り方だ」
隊長は鼻で笑った。
「ならば、忠誠と何が違う? 我々はすでに主へ命を預ける忠誠を持っている。わざわざ“レンアイ”などという曖昧なものを必要とせぬ」
村の兵士たちも「そうだ」「任務が第一だ」と同調する。
セリアは険しい顔で一歩前に出た。
「違います。“レンアイ”は任務ではなく、自分の意志で誰かを大切にする心です!」
「セリア、お前までそのような……」
場が緊張に包まれる。
リーナが俺の袖をそっと引き、囁いた。
「旅人さま……彼らは“レンアイ”を“任務”の延長と勘違いしています」
「ああ。ここで正さなきゃ混乱が広がる」
俺は一歩前に出て、皆に声を張った。
「“忠誠”は上から与えられる命令だ。だけど“レンアイ”は自分から選ぶ心だ。誰も強制できない。違うのはそこだ!」
兵士の一人が反論する。
「だが、自分で選んだところで、相手が拒絶したら意味がないだろう!」
「そのとおりだ。意味がないと感じるかもしれない。けれど、その痛みを受け入れる強さがあってこそ、本物になる」
沈黙が流れる。
やがて、若い兵士が手を挙げた。
「……俺は。戦場に行っても、どうしてもある娘のことを考えてしまう。任務に集中できなくなる自分を恥じていた。でも、それが“レンアイ”なら……弱さじゃないんですか?」
俺は首を振った。
「弱さじゃない。むしろ強さだ。誰かを思う気持ちがあるからこそ、命を無駄にせず帰ろうとする力になる。それは任務よりも、もっと根源的な動機になるんだ」
その言葉に、兵士たちの表情が少し揺れる。
セリアが続ける。
「だからこそ私は学びたい。任務としてではなく、人として」
――その真剣な姿を見て、俺は確信した。
ここでも“レンアイ”は必要とされている。
ただ、その隣でリーナが黙って俺を見ているのが気になる。
セリアの言葉に共感しながらも、心の奥に複雑な影が差しているのが分かる。
布教の道を進めば進むほど、リーナの心に“嫉妬”や“不安”が積み重なっていくのかもしれない。
――俺は、この世界に“レンアイ”を広める覚悟を決めた。
だが同時に、“自分自身のレンアイ”とも向き合わなければならない。
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後書き
第11話では、隣村にて“レンアイ”が「忠誠や任務」と混同される誤解を描きました。
おじさんはその違いを説き、セリアをはじめ一部の者に理解の芽を植えることに成功します。
一方で、リーナの心には“嫉妬”や“不安”が積もり始め、布教と個人の心が交錯する複雑さが強調されました。
次回は、セリアが“任務とレンアイの板挟み”に直面し、初めて感情を爆発させる場面が描かれます。
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