第9話波紋と依頼とおじさん
俺がリーナに本心を告げた翌日。
村はまだ“レンアイ”という新しい概念の熱に浮かされていた。選ばれる者、選ばれない者――そこから生まれる笑顔と涙が、昨日までの世界には存在しなかった色を加えている。
だが、その変化は村の外にも広がりつつあった。
市場に顔を出したとき、旅商人が俺を呼び止めた。
「おいあんた、“レンアイ”ってやつを広めてるのは本当か?」
どうやら噂はすでに隣村まで届いているらしい。
「……誰から聞いた?」
「昨日の夕方、この村の若者が話していた。“選んだ一人を大切にする関係”だとか。面白いからもっと詳しく知りたいって、あちこちで話題になってるぞ」
――広がるのは早い。
俺は胸の奥で少しざわついた。まだ村の中でさえ十分に根づいていないのに、外にまで波紋が届いている。
その日の夜、長老に呼ばれた。
「旅人よ。“レンアイ”を他の村でも教えてほしいと依頼が来ておる」
「依頼……?」
「そうだ。この村だけで抱え込める話ではない。だが、お前一人で広めるのは負担が大きいだろう」
リーナが隣で不安そうに口を開いた。
「旅人さまがいなくなるのですか?」
「いや……すぐには出ない。ただ、この村での理解がある程度落ち着いたら、次の場所へ行くことになるだろう」
――そうか。
“レンタルおじさん”として、俺はこの世界で“恋愛の先生”をしていくことになるのかもしれない。
けれど同時に、胸に引っかかるものがある。
リーナの存在だ。彼女は最初に“レンアイ”を一緒に歩いてくれた人。もし俺が他の村へ向かえば、彼女はどう思うだろうか。
長老は静かに言った。
「リーナ、お前はどう思う?」
リーナはしばらく考え、俺に向かって微笑んだ。
「わたしは……旅人さまの“レンアイ”を広める姿を見たいです。でも……心のどこかでは、置いていかれるのが怖いです」
その素直な告白に、俺は胸を突かれた。
レンアイを教えるはずの俺自身が、一番試されているのかもしれない。
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後書き
第9話では、“レンアイ”が村の外にも波紋を広げ始め、ついに「依頼」という形でおじさんに役割が与えられる展開になりました。
同時にリーナの気持ちも少しずつ表に出てきて、“布教者”としての使命と、“一人の相手を選ぶ心”の間でおじさんは揺れ始めます。
次回は、リーナとの関係をさらに深めつつ、隣村からやってくる新たな人物との出会いが描かれます。
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