第四章・第三節 決戦、そしてバズ

 爆風から数時間――いや、正確にはゲームのリスタートまでの五分。

 JZ-65チームは作戦会議を開いていた。


「まず、じいじはグレを上に投げない!」

「うむ、肝に銘じた。上は危険だ」

「次に、味方を撃たない!」

「心得た! ただし、たまに動く的に見える」

「それが味方だよ!」


 TACTは頭を抱え、美羽と翔は腹を抱えて笑った。

 観戦モードの真理は、画面越しに微笑んでいる。


 そのやり取りが、既にコメント欄を埋め尽くしていた。

 〈今日も神回確定〉

 〈この家族、癒しとカオスの融合〉

 〈老兵スマイル、世界トレンド入りまだ?〉


 再開した戦場は、夕暮れの「シェルター・ドーム」。

 ゾンパニFでも屈指の激戦マップ。

 TACTが索敵し、翔と美羽が物資を拾い、JZ-65は――

 地図を上下逆に見ていた。


「TACTくん、私は今どこにおる?」

「マップの端です! そっち行ったら海ですよ!」

「む、泳げぬ!」


 重蔵は慌てて引き返す。が、キーを押し間違え、ダッシュ→ジャンプ→転落。

 断崖絶壁の下、静かに転がるJZ-65。


「じいじ落ちたぁぁぁ!」

「JZ-65、早くも脱落w」

「見事な落ち芸」


 しかし――奇跡は、そこから始まった。


 重蔵の落下した場所には、偶然にも他チームが潜伏していた。

 転がる拍子ひょうしに拾ったショットガンが、

 敵の背中を直撃。

 そのままダブルキル。


「じいじ!? やったの!?」

「うむ……なんか、当たったようだ」

 視聴者:〈神降臨〉〈老兵、物理で勝つ〉〈まさかのラッキーヒーロー〉


 その瞬間、視聴者数が跳ね上がった。

 十万人、二十万人、そして――五十万人。


 コメント欄が止まらない。

 〈これがJZ-65伝説か〉

 〈反射神経ゼロ、運勢MAX〉

 〈令和の黄門様、FPSを制す〉


 そして、最後の円――最終安置にて。

 TACTが敵を引きつけ、翔と美羽が援護。

 JZ-65は、崩れかけた壁の陰に身を潜めていた。

 手には最後の手榴弾。


「じいじ、今だ!」

「心得た!」


 重蔵は渾身の力で、真っ直ぐ前に――

 いや、少しだけ上に――投げた。


 爆風。

 閃光。

 そして、画面いっぱいの「VICTORY!」の文字。


「勝ったぁぁぁぁ!!!」

 翔が叫び、美羽が跳ね、TACTが拍手。

 観戦モードの真理も笑いながら涙を拭った。


「じいじ、すごいよ!」

「ふむ、まぐれではあるが……悪くない戦だった」


 画面には「同時接続:102万人」の数字。

 そして、コメントの嵐。

 〈JZ-65、伝説更新〉

 〈老兵スマイル、世界を救う〉

 〈じいじ、俺の推し〉


 その夜。

 重蔵は湯呑を片手に、穏やかな顔でつぶやいた。


「……楽しいな、みんなと一緒に戦うというのは」


 老兵の笑みは、まだ消えない。

 次なる伝説の夜が――もうすぐ、始まる。

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