第三章・第五節 じいじ、ボイスチャットに挑む

 大会の予選が迫る中、TACTが提案したのは――

「JZさん、ボイスチャット(VC)にも慣れた方がいいっすよ」

「ぼいす……ちゃっと? おしゃべり道具のことか?」

「そうっす。仲間と会話しながら戦うんすよ」

「ふむ……つまり、“口撃”の鍛錬じゃな」

「いや、言い方ァ!」


 こうして重蔵の“ボイスチャット特訓”が始まった。

 マイクを前に正座し、背筋を伸ばす姿は、まるで講座か面接官。

 試しにTACTが声をかける。


「JZさん、聞こえますか?」

「……こちら六十五歳、受信良好!」

「いや、何その軍隊ノリ!?」

「通信には礼節が肝要じゃ。まずは名乗り、挨拶、そして――」

「じいじ、それ普通に自己紹介でいいから!」


 笑いながら美羽がマイクを奪い、翔がフォローに回る。

「じいじ、VCってね、チームでわいわい話す場所だよ」

「わいわい、とな。つまり……漫談会場か」

「まあ……近いかも!」


 試合開始――。

 VCにはTACT、美羽、翔、そしてJZ-65の声が響く。


「敵、右から来てます!」

「右了解――右とはどちらの右じゃ!?」

「じいじ、それ右です! 画面の右!」

「ふむ、右に敵、左に孫、前に未来!」

「ポエム言ってる場合じゃないっす!」


 だが、その妙なテンションがなぜか配信で大ウケした。

「誰このおじいちゃんw」「ボイスだけで映画一本いける」「声優デビューして」

 コメント欄は爆笑と称賛で埋まり、視聴者数が跳ね上がる。


 TACTが吹き出す。

「JZさん、マジでやばいっす……声の説得力がプロ」

「声とは魂の震えじゃ。心を込めれば敵も味方も癒される」

「いや、敵は癒されちゃダメ!」


 その瞬間、画面に“勝利”の文字。

 味方のフォローと偶然のグレネードが功を奏した。


「おお……勝ったのか?」

「勝ちました! じいじ、ナイスボイス!」

「うむ。戦とは、声の合唱である!」


 美羽も翔もTACTも皆、爆笑。

 配信のコメントには新たなタグが生まれていた――

 #ボイチャ談義 VC #癒し系バトル #JZ65の声で眠れる

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