言いたい、言えない

葛籠澄乃

全1話

 インスタのDMで送った。金曜日の16時半、校舎裏。友達の誰にも相談せずに、何度も何度も反芻して送りつけたメッセージはまるで宣戦布告のような鋭さ。約束の時間が近づくにつれて、わたしはずっと心臓が痛かった。わたしは校舎裏近くで足踏みをしていた。心臓が痛いし、顔も首までまっかっか。「ここでいいの?」と、後ろから声をかけられた時、わたしは声にならない悲鳴で小さく飛び上がってしまった。「なに?」というように、小さく首傾げる仕草にわたしは声が詰まってしまう。一言言うだけでいいのに。すきだよ。すき。すきです。だいすき。あれ、でもそのあとは付き合ってください? 言いたいことはすぐ喉まで来てるのに出てこないもどかしさ。グルグルと変な思考も流れてきてしまって、わたしは今にも泣きたいくらい。


「送る人間違えてたんだ、ごめん」


「そうなの?」と返された。どんな顔をしてるのか、わたしは顔をあげることができない。「部活」と言葉を絞り出して、少しだけ引き留める。


「がんばってね」


 あなたはがんばる、と言って去ってしまった。わたしは校舎に背中をくっつけてしゃがみ込んだ。このヘタレ、ばあか、ばあか、ばか。心臓が痛い。ずっと痛い。大粒の涙が溢れて地面を濡らして乾いていった。蝉は鳴けないくらい、今日は暑い。

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言いたい、言えない 葛籠澄乃 @yuruo329

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