月刊メガラニカ 連載:「日本未確認生物誌」第18回
(出典:『月刊メガラニカ』1998年11月号より)
文・記録:未確認生物研究家 荒谷 恭一郎
光る猫
——アルターゴゾ・エルバッキー・ムニューダー考
――猫刮喰(ねこそぎ)/The Luminocatopus の正体を追う
夜に光る猫を見た――。
それは単なる車のライト反射や、カメラの赤目現象ではない。
猫そのものが、淡い燐光を放ちながら動いていたという報告が、近代以前から現在に至るまで各地で断続的に続いている。
欧米でも目撃情報があり、The Luminocatopus―ルミノキャットパスと呼ばれる。
国内での“光る猫”の目撃談は、1970年代に一時的にブームとなった未確認生物「アルターゴゾ・エルバッキー・ムニューダー」――通称エルバッキー――の再燃を思わせるものだ。
近年、再び神奈川県や秋田県、また瀬戸内海沿岸部に栃木県などの内陸部までを含めて、再び「光る猫」目撃が増えている。
しかも今回は、かつてよりもはるかにおぞましい形で。
▍猫の姿に擬態する「光の蛸」
報告によれば、エルバッキーは一見、何の変哲もない猫である。
しかし夜間、その体表が青白く光を帯び、瞳孔が異常なまでに輝く。
暗闇の中、まるで発光生物のように浮かび上がるという。
それだけならば、発光菌の付着や静電放電などの自然現象で説明できる。
だが、複数の証言が一致して語るのは、次の一点である。
「猫の頭部から、蛸のような脚が伸び出した」
それも一本ではなく、数本。
赤黒く、吸盤を思わせる節を持つ管状の器官が伸びる。
そして――獲物を包み込み、体内の“どこか”へ吸い込むのだという。
被害は小動物にとどまらず、犬・鳥・さらには人間や牛馬に及ぶとの記録もある。
1988年、栃木県鹿沼市で発生した「犬十五頭行方不明事件」は、地元紙が「野犬あるいは熊による捕食、あるいはなにものかによる盗難か」と報じたが、この失踪は、単なる動物盗難事件ではない。
明らかに“音もなく、争わずに消えている”点が異常であり、犬という警戒心の強い動物が“無抵抗”で消失しているのは、生体催眠または超常的捕食メカニズムの存在を示唆する。
実際、当時現場を目撃したとされた者が残したスケッチには“猫のような蛸のような影”が描かれていた。
この報道を機に、“エルバッキー”の名が再浮上する。
目撃者らが共通して語るのは「口が異常に大きく開いた」「触手のようなものが伸びた」という異様な描写である。
それは蛸の腕のようにしなやかで、吸盤状の斑点が並ぶという。
ある農家の男性はこう証言した。
「暗い納屋の隅で、やたらと目が光る猫がいた。
次の瞬間、触手が八本、ばらばらっと出た。
それで、ニワトリを3羽まるごと引きずり込んじまったんだ」
科学的には説明不能である。
だがこの“八本の足”という記述が、民俗学の古層と結びついていく。
▍「猫刮喰(ねこそぎ)」伝承との符合
瀬戸内海沿岸から九州北部にかけて、夜の港町には“光る猫に気をつけろ”という古い言い回しがある。
昭和初期に民俗学研究会が採集した「猫刮喰(ねこそぎ)」の語がそれだ。
海辺の漁師が、夜道で擦り寄ってきたぼんやり光る猫を撫でている。翌朝にはその者の姿が消えている。
『西海異獣譚』(明治32年刊)には、「大蛸は陸に上がり、猫の皮を纏う」との伝承も見える。
つまり、“ねこそぎ”とは、海棲の大蛸の陸上擬態形態=猫の姿であり、擬態して人を喰う現象だというのだ。
この系譜に照らせば、エルバッキーとは“海から上がったもの”の現代的変種である可能性がある。
▍捕食と消失——異空間収納の仮説
目撃証言を総合すると、エルバッキーの捕食過程には物理法則を超える要素が多い。
喉奥に存在する触腕が展開されると、空間が“歪む”ような現象が観察され、獲物が姿を消した直後、周囲の空気が沈黙するという。
この現象は、口腔内部に高次元的空隙(ポケットディメンション)を形成していると考えられる。これを「異空間収納(Dimensional Intake)」と呼ぶ。
喉奥に生じた高次元の“袋”が、対象を物理的に取り込むという。
生体内で次元歪曲を起こす存在――それはもはや地球的進化の産物ではあり得ない。
一部のUFO研究家は、この構造を「時空収納生体(Temporal Container Organism)」と呼び、火星起源のペット生命体説を提唱している所以でもある。
▍“光”と“呼び寄せ”
もう一つの特徴が「光」だ。
エルバッキーは夜間、獲物の前でふっと輝く。
光は青白く、蛍光灯のちらつきにも似る。
それに気づいた動物や人間が目を凝らすと、途端に距離感を失い、吸い寄せられるように近づいてしまう。
この現象は、深海で獲物を誘うチョウチンアンコウの発光器官を連想させる。
▍火星から来た“猫”
「火星人のペット」という説は突飛に聞こえるが、奇妙な符合がある。
1973年、NASAのマリナー9号極秘探査データには、火星表面で観測されたパターンの中に「猫の足跡に似た円形群」が記録されているという。
また、1950年代のオカルト誌『FATE』には、アメリカ南部で“glowing cat with tentacles(触手を持つ光る猫)”の報告が掲載されている。
火星と蛸、そして猫――この三つの要素は、古代から象徴的に結びついてきた。
蛸は知恵と変化の象徴、猫は夜と霊界の境を往来する動物。
それらが融合した存在、エルバッキーは謂わば観察生物、地球外知性体による“観察端末”としての役割を担うのではないかという仮説もある。
▍現地報告(1990〜1998)
・1991年 「光る猫を見ました」神奈川県横浜市。夜の公園で体全体が発光する黒猫を目撃したと本紙読者からの報告。
・1994年 「ホームレスが猫に喰われたところを見ました。たぶん夢だと思いますが……」茨城県水戸市から、こちらも本紙読者からの報告。
・1997年 熊本県阿蘇郡天草:山中で「猫と大蛇の戦い」を目撃。猫の頭部が蛸状だったとの証言。地元紙の投稿欄に掲載された記事を、こちらも本紙読者より連絡いただいたもの。
いずれも、地元で短い記事として処理されたか、本紙への読者からの報告に留まる。
ただ、これらの記録は奇妙に一致している。
いずれも発光する猫が関係している。
また、それぞれの現場で青黒い体液が確認されている。
1994年のケースで熱心な本紙読者が現地で自主的に収集したサンプルを本紙独自に分析したところ、微弱な塩素臭とアミノ酸分解物が検出されている。それは海洋性軟体動物の体液に酷似していたのだ。
ただし、行方不明となった路上生活者がスーパーや外食店舗の廃棄食品を収集する際、蛸の死骸が混入していたのではないか、などという意見もあった。
▍終わりに
猫刮喰――あるいはアルターゴゾ・エルバッキー・ムニューダー。
「猫は液体である」という冗談がある。
だが、エルバッキーの存在は、その比喩を悪夢のように具現化した。
猫のかたちをした“流動体”が、街の隙間に潜み、私たちの隙を狙っている、のかもしれない。
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