第6話
「レ、レオン殿下‥!」
一気に先ほどまでの空気が変わり、重苦しいものに変わる。
元から表情に出ないレオンの顔を伺ってみればやはり、変わっていない。
(でも、なんか怒ってる?)
それに対して何故かと心のうちで首を傾げるも、レオン越しに見る。
レオンは掴んだ手を離していて、メイド達は後ずさって、先ほどまで強気だったのに可哀想なくらい震えていた。
「ち、違うのです!レオン殿下!」
「違う?何がだ?」
「す、少し話を‥そう!話をしていただけです!」
「話をしていて俺の婚約者を殴ろうとしていた、と?」
出す言葉がなくなったのか三人のメイド達は、とうとうその場に崩れ落ちてしまった。
もう、良いんじゃないかと思うくらいだったのだが、いつの間にか来ていた兵達がメイド達の身柄を一人一人捕縛し連れていった。
そういえば、僕自身、怒りで忘れていたシークの存在を思い出し、片足を引き摺りながら急いで階段下に居るシークの元に駆け寄る。
見れば顔がぐちゃぐちゃになる程、涙を流し震えていた。
その背中を摩りながら声をかける。
「僕を庇わなくてよかったのに、そうすればシークも危ない目に遭わなかった」
いや、そもそも僕の勝手な行動でシークを良くない方向に進ませたのがいけなかったか。
そりゃ、今まで誰とも話さなかった僕がシークだけをお気に入りのように扱ってたらあのような人間だって出てくる。
それに、僕自身にあまり良い印象を持っていなかったし、これは僕が招いたことか。
「いえ、舞様は何も悪くありません!舞様は私を助けてくださって‥!」
「いや、僕のせいだよ。もう、僕に関わるのはやめた方がいい」
背中を摩っていた手を離し、部屋に戻ろうとすると急に体が誰かによって横抱きに抱き上げられる。
誰かなんてこの状況の中一人しかいない。
「離せ!僕に触るな!」
「お前、怪我をしているのだから少しは大人しくしていろ」
そのまま、聞く耳持たずのレオンは僕を横抱きにしたまま、部屋へと向かっていく。
シークのことは気になるがこのまま、距離を取った方がいいだろう。
(せっかく、仲良くなれたけど‥仕方ないよね)
部屋に戻り、ソファに降ろされレオンがひざまづいて、靴と靴下を脱がして足の状態を見ていた。
「腫れているな、今治してやる」
「別に、そのままでいいよ。こういうの慣れてるし、早く何処か行って‥」
元の世界でもこういうことはよくあって、同じ学校の男女問わずあった。
最初こそ、悲観的にばかりなっていたが段々とあまり何も感じなくなった。
だって、どうやっても僕の声なんて届かないんだから。
「俺はお前のことが大事だ」
「嘘つけ、良いよご機嫌取りの世辞なんて」
鼻で笑いながら、ここまで気を使わせてるのが情けない。そう思っていると、いきなり視界が変わる。
ソファーに座っていたはずが、いつの間にか体を押し倒され、レオンがおい被さっていた。
黄金の瞳は変わらず綺麗に輝いていた。
だが、何故だろうか少し寂しそうなその顔に手を伸ばし頰を撫でた。
「俺はお前が好きだ」
「だから、世辞なんていらない。そもそも、僕男だし‥」
頰から手を離し、レオンの体を押し除けようとしようとも、びくともしない。
運動はするタイプじゃないし、力差で言ったらその辺の男より力がないのは当然だ。
睨みつけても、レオンの眼差しは変わらずこちらを射抜いていた。
「好きだ」
「はいはい、そういうの本当鬱陶しいから‥早く退いて‥っ!?」
完全に油断し切っていたその瞬間、唇に口付けられる。
(は?何やって‥)
抵抗しようとすれば、顎を固定され再び口付けられる。
その時間は短かったのかはたまた長かったのか分からない。だけど、レオンの唇が離れると息がやっと吸えた。
最悪だ。口元からは飲み込みきれなかった唾液が伝い、酸素がうまく取れなかったせいで視界が滲んでいる。
何より顔が身体中が熱い。
「何だ、可愛いじゃないか」
滅多に表情を変えないレオンが捕食者のような笑みを浮かべて、こちらを見下ろしてくるのが気に入らないのに、何故か心臓は早く脈打って身体中に響いた。
「っ〜!!ふざけんな!は、初めてだった‥のに‥!!」
「俺も初めてだ。お前にだけだ」
手を取られ迫られるその状況に、頭の処理が追いついていかずショート寸前のところで、レオンの体が離れていき気づけば足の痛みも消えていた。
どうやら、口付けをさせられている間に魔法で治したようだった。
「意味わかんない、お前おかしいんじゃないのか」
「お前じゃない、レオンだ」
「は?別に「レオンだ」」
どうしても名前を呼ばせたいらしいその目は気のせいか、僅かに期待に輝いていた。
いや、いけない。このまま全部レオンの言いなりになってしまっては、受け入れてしまったことになる。
「‥呼ぶわけないだろ!調子に乗るな!」
「では、お前の名前は?」
そういえば、召喚されてから名乗っていなかったのを思い出す。
だけど、易々と教えてしまうのも嫌だ。
ふと先ほどまで痛んでいた足に目がいく。
「‥舞。吹雪舞。これで、さっきの足の怪我の借り帳消しだからな」
「‥まい、舞。可愛らしい名前だな」
そう言って微笑むレオンの顔に再び胸の内が脈打つ。
さっきもそうだが、レオンは沢山「可愛い」と言ってくれる。
それが、安い褒め言葉じゃないことも偽りの言葉じゃないことも顔を見ればわかる。
本気だからこそ困るのだ。
(だって、今までそんなに言ってくれる人なんて居なかった‥それに‥)
改めてレオンの顔を見ると、ずっと遠目だから分からなかったが、近くで見るとかっこいいことがわかる。
顔面偏差値が高い上に、全てにおいてかっこいいところにときめいてしまっているのではないのかと、感じてしまっている自身がいるのが悔しくてならなかった。
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