第5話

あれから、空いている時間にシークは僕の部屋に訪れるようになった。

最初こそオドオドとしていたのに今では、僕に小言を言うほどになった。


「舞様!カーテン全部閉め切っていたらお体に悪いですよ?」


「いいよ別に‥それに、何か太陽の光浴びると体調悪くなるし‥閉めといて」


そう言うと渋々とカーテンを開ける手を止めたシークは、何か隠している。

元の世界でいろんな人の目に当てられた僕だからこそ、人の目線で何を思ってるか勘程度だがわかる。

シークは、良くも悪くも裏表のない子だ。

それゆえにわかりやすく、顔に出やすいと言うのもあるのわけだが。


(聞いてみてもいいけど、きっと、口止めでもされてるんだろうな)


どこか気まずくなってしまった空気の中僕がため息を吐くとシークの方が僅かだがピクリと動く。

そのシークの手を引いていつも通り、ドレッサー前に座らせる。


「怒ってもないから、気にしないで。それで、今日は何を持ってきたの?」


何処か安心した表情になったシークは、今日持ってきた物をドレッサーの上に並べていく。

メイク道具だろうか。

色とりどりの瓶など並べられ、一つずつ中身を見ていく。


「今日は、以前言っていた化粧道具を持ってきて見たのですが‥」


どこか言葉に詰まるシークの顔を鏡越しに見ると、目が泳いでいた。


「給金は貯めていたので、良いものや流行りのものを買って見たのですが‥、どれも使い方も色見も自分に合ってるかわからずで‥」


唸り声を上げながら頭を抱えてしまったシークを見て何処か懐かしさを覚える。

始めてメイクをした時、店先に並んでいたおすすめばかりを買って失敗したこと。

誰にも頼れず、胸を高鳴らせながら初めて手にとった女性雑誌。

そこから、僕の可愛いのために努力した。


その頃の僕とシークが重なって、どこか懐かしい。

一つ一つ手につけたりして、シークの肌に合うか、色などを見比べて使えそうなものとそうでないものを分けていく。


「これと、これはシークに合いそう。でも、これとこれは、合わないかも」


「舞様はどうやって合う合わないを見分けているのですか?」


「シークの肌の色とか、瞳の色とか色々と見てる。あとは、ただの勘」


分けたメイク道具を見比べているシークは真剣にメイクを学んでいた。

実際に手に取って僕の真似をして手につけて見て、見比べて見たり見様見真似にしていた。


「確かに、こうして手につけるとわかりやすいですね」


「うん、後この世界にはメイク‥化粧に関しての本はないの?」


そう言うと、また何処かシークは何かを隠すような、言いづらそうな顔をした。


「えっと‥仕事もあるので中々お買い物に行ける時間がなくて‥この化粧道具も実は急いで買ってきたものばかりで‥その‥」


なるほど。だから、こんなにバラバラな物がそろってるのか。

最初は、初心者ゆえに知識がなくバラバラな色を買ってきた物だと思ったがどうやら違うらしい。


それに、メイドと言えどそんなに忙しいものなのか。

元の世界でも社会人にだって休みはあった。

だからと言ってこの世界も同じと言うわけでは無いだろうが、何か引っ掛かる。


気づけば時間が経っていて、シークは慌ててメイク道具をまとめて部屋を去っていってしまった。

最近、シークは前にも増して急いでいる様子が見られた。

走り去った際に何かが音を立てて落ちていったのを見て、拾い上げるとシークのメモ帳だった。

仕事も含めシークは僕との時間で学んだことも真剣にメモしていたことを思い出した。

勝手に中身を見るのもどうかと思うが何かが、引っ掛かってゆっくり開いて中身を見て嫌な予感が走って部屋の扉から外に出た。


メモの中身それは、乱暴に破られた後に、何かで汚された跡があった。

シーク自身が大切にしているものをそんな扱いをするわけがない。

あんなに真っ直ぐで、真面目な子。


部屋を出て勘で走ってみるもこの城の中の構造なんてわかるはずもなく、そもそも僕の部屋の周りに近づくのはシークだけで、人通りもない。

どうしたものかと、考えていると何処からか声が聞こえて耳を澄ます。

遠くから笑い声が聞こえて自然と足が動いた。


「生意気なのよ!あんた!」


「そうよ!少しお気に入りだからって!」


「色気づいちゃって、召喚者様に色仕掛けでもして取り入ってるんじゃないの?」


近くまで来るとよく聞こえるその内容に、頭の中が真っ白になった。

壁から覗くように見れば三人のメイドに囲まれたシークは、顔を俯かせて震えていた。


「大体、あんな気味の悪い召喚者なんて、早く出ていってほしいものだわ」


「女みたいな格好して、余程レオン殿下の気を引きたいのかしら?」


そう言うと、下品な笑い声をあげた三人。

何処の世界も同じ。

こう言う人間は何処にでもいるものだ。

とにかく早く、シークを助けないといけないと踏み出そうとしたところでシークが叫び声を上げた。


「舞様は気味が悪いお方ではありません!!」


震えながら叫んだシークの瞳は潤み涙を流していた。

すると、気に障ったのか一人のメイドがシークの髪を鷲掴み丁度、後ろにある階段から突き落とした。

間に合えと三人のメイドのたちを押し除けて、シークを抱きしめて僕の体を下にして二人で、階段下まで落ちた。


「痛っ‥」


「ま、舞様?!」


「大丈夫?シーク」


「私ではなく舞様がお怪我を!!」


顔を真っ青にして慌てるシークを宥めて、立ち上がる時に足に痛みを感じる。

だけど、そんな場合ではない。

階段上で狼狽えてる三人のメイドを睨みつける。


「なんだっけ?女みたいな格好をした僕がレオン殿下の気を引きたいだっけ?まぁ、不細工なお前らみたいなやつに言われても仕方ないかなぁ」


階段を一段一段上がっていく。

痛む足なんて気にならない。今は怒りの方が勝っている。

メイドの前まで来て、少しメイド達より身長が高いから見下ろす。


「ケバイ化粧にあってない色見。せっかくの化粧道具も台無しなのも良いところ。だから、不細工なんだよ」


「なっ!!」


「僕の方が可愛くて当然だよね〜。だから、嫉妬しちゃったんだ、可哀想に」


「黙っていれば!ただの気味の悪い召喚者の癖に!」


我慢の限界が来たのか一人のメイドが僕に向かって手を振り上げる。

きっと平手打ちを喰らうんだろうなと目を閉じる。

すると、久しぶりに聞く声が聞こえた。


「これは、何の騒ぎだ」


瞼をゆっくりあげれば、先ほどまで姿すらなかったレオンが目の前に立ってメイドの振り上げた手を掴んでいた。





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