第3話

 突然の声に警戒する。な、なんだ……? 俺が項目を操作するのを監視でもしていたのか?

 なんで俺の家に突然……。


 疑念と恐怖の所為か、扉を叩く音がとても恐ろしく感じられる。

 どうしよう……ドアモニターの液晶画面を確認してみる。


 するとそこには、確かに本人が自称するように、俺よりも二、三歳年上と思われるお姉さんが、なにやら怪しげなボディスーツを身に纏い、必死に扉を叩きつつ、インターホンを連打している姿が映されていた。


 何度も鳴り響く『ピンポン』の音と、扉を叩く音。

 恐い……普通に恐い。


『いるんでしょー? あっれー……違ったのかなー……』

『ねぇ本当にいないのー? 帰っちゃうよー?』

『いない……もう帰る……』


 あ、外から少し寂しそうな声が聞こえる。

 俺は玄関扉に備え付けられているドアスコープを覗いてみる。

 すると……スコープから見えるはずの外の景色がまったく見えず、ただの暗闇が広がっていた。


「あれ……なんで……」

『あ、声した! 開けろ! 開けないとお姉さん騒ぐぞ!』

「うわ!?」


 暗闇の正体は、こちらを覗こうと密着していたお姉さんの瞳でした。

 外からじゃ覗けないの知らないのか……!


『あーけーてー! 我アドバイザーぞ? 迷える子供を導くお姉さんなんだぞ!』

「子供じゃないんですが! もう一八歳だから成人なんですが!」

『会話するなら開けてよー! 色々質問に答えるよ坊やー』

「坊やじゃねぇって言ってんだろうがよー」


 なんだか危険な人間ではなさそうなので、流石に扉を開ける。

 というか……ご近所で噂になったら大変なので……なんかぴっちりスーツだし。

 ドアチェーンを付けたまま鍵を開け、静かにドアノブを捻る。

 だがその瞬間――


「わはは! 油断したな! もう閉めさせないぞ! あ! チェーンされてる!」

「うわ! 足を隙間に入れるなよ! 一度締めないとチェーン外せないんだから」

「小癪な……じゃあ足抜くから、ちゃんと開けるんだぞ。お姉さんとの約束だ」


 しぶしぶチェーンを外し、ついに画面越しでも扉越しでもなく、対面する。

 現れたのは、画面越しに見た通り、ぴっちりスーツでボディラインが浮き出たお姉さんだった。


「うわ! 本当にでかい! キッズじゃない! えー……じゃあボーイ?」

「なんで変な呼び方するんですか……貴女、何者ですか?」

「んー……立ち話もなんだし中で話さない?」

「それ言うの本来家主の俺なんですが」

「えー……だってお姉さんちょっと声出し過ぎて喉渇いたんだよ?」

「……スポドリでいいですか?」

「いいよ、お姉さんは強い炭酸は苦手だからね!」


 こうして、俺はこの怪しさマックス、アクの強そうな性格の、半ば痴女のような恰好の自称お姉さんを家に『半ば無理やり』招き入れるハメになったのだった。




「へー、こういう風な構造になってるんだ家って」

「お姉さん何者なんですか……」


 リビングに通し、椅子に座ってもらう。

 有名スポーツドリンクを渡すと、お姉さんはコップを勢いよく傾け、一気にすべて飲み干した。


「ふぅ……お姉さんはねぇ、君のアドバイザーだよ。【二周目特典】の付属の景品お姉さんだ」

「この【二周目特典】ってなんなんです?」


「教えらんないね! けど、結構いいもの当たったみたいだね? 【取得経験値10倍】はね、凄いんだよ。ボーイには過ぎたものかもしれないね!」


「アドバイザーとは? アドバイスしてくれるんじゃないですか?」


「しょーがないなー……ボーイにはお姉さんが教えてあげるよ。じゃあ……あ! switc〇! ねぇスマ〇ラやろうよスマ〇ラ! お姉さんはね、〇カチュウ使うよ〇カチュウ。なんてたってこの星の中でも上位の人気キャラクターだからね。いいだろう?」


 もうやだこの人……話進まないし自分勝手が過ぎるんだけど……。

 俺は、勝手にswitc〇の準備を始めて起動したこの謎のお姉さんを満足させないと、ちゃんとした答えを得られないと思い、しぶしぶスマ〇ラの相手をするのだった。


 ええい……! ボコボコにしてうっぷん晴らしてくれる。

 VIP常連の実力、目にもの見せてくれる。接待なんてしないからな……!




「フー! またお姉さんの勝ちだね。まだまだだねボーイ、いや、キッズ♪」

「チクショウ……マジで勝てねぇ……!」

「これでお姉さんの三連勝だね。んじゃあ、ちょっとオンライン対戦をしてみな」


 勝てませんでした。なんかもう動きがヤバい。TASかよってレベルで精密動作が過ぎる。

 俺はお姉さんに言われるままオンライン対戦をしてみるのだが――少し妙だった。


「……なんか今日調子いいかも。なのにお姉さんに勝てないの納得いかないんだけど」

「まぁねー? お姉さんはなんたって『と く べ つ』だからねー」


 ……話しながらのプレイでも、オンライン対戦、それもかなりの猛者としかマッチングしないはずなのに、俺は連勝を重ねていく。

 これは……さすがに異常だ。


「さーてそろそろ気が付いたかいキッズ。君の【取得経験値10倍】はね、全てに適用されるんだ。ああ、でも筋トレとかして、一〇倍のトレーニング効果が出たりはしないよ。あくまで『経験』だけさ。だから、君は『超絶つよつよプレイヤー』のお姉さんと戦って得た経験を、一〇倍手に入れて、自分の技術として身につけたんだ」


「え!? これ、モンスター倒して自分が育ちやすくなるとかだけじゃないんですか?」

「そ、だからキッズはかなりの大当たりを選んだってワケなのさ」

「なるほど……それを実感させるためにゲームをさせたんですね」


 このお姉さんのこと、見くびっていた。

 しっかりとアドバイザーとして動いてくれていたのか……。


「そ、そうだよ。これもお姉さんの、計算のうちなんだよ。さぁ、褒め称えるといいよキッズ」

「キッズ呼びは止めてください。成人済みです」

「えー……お姉さんにゲームで負けるのに? じゃあ……ボーイ?」

「名前でお願いします。ヒガシヤマ アキラって言う名前があるので」


「んー……じゃあアキラ? へいアキラ! もう一戦やろう! 今度はお姉さん、ハンデを付けてあげるから。〇チューでいいよ〇チューで。進化前だからね、流石に勝てるだろう?」


「いや、もう充分このスキルの効果は実感できたので……」


「何勘違いしているんだい? 勝負はまだまだこれからさ。今日は全キャラでアキラをボコボコにするまで止めないからね、覚悟しなよアキラ」


 前言撤回。この人、遊びたいだけだ……!

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