第2話

「先生? ちょっと俺の項目見てくれませんか?」


 この異常と思われる【二周目特典】という加護? スキル? それを確認してもらおうと先生を呼ぶと、他の生徒のウィンドウを確認していた先生がこちらに来てくれた。


 見れば、俺と同じように先生を呼んでいる生徒の姿も多く、やはり全ての加護やスキルを把握している生徒は少ないのだろう。

 俺だって、この【二周目特典】なんてもの、初めて見たし。


「どうしたヒガシヤマ? お前も知らない加護が発現したのか?」

「っぽいです。これなんですけど……」

「ん? 項目になんで空白があるんだ……?」


 空白? 俺は先生の言葉の意味が分からず、自分のウィンドウを確認する。

 確かに【二周目特典】の文字があるのだが……いや、さらに下段にもう一つの加護があった。

 そこには【身体感覚強化Lv1】とあり、先生にはその加護だけが見えているような物言いだった。


「ふむ……ヒガシヤマ、これは正直悪い加護じゃないが……難しい加護だな。ほら、お前の年齢でもLv1表記だろ? これは中々育ちにくいので有名な加護でな……」


「あ、はい。確かに普通2か3ですもんね、俺達の年齢なら」

「ああ。いや、しかし育てばかなり強力だが……他の加護を得た時、初めて真価を発揮するんだ」


 先生の説明を聞くに【身体感覚強化】と、割と有名な【身体能力強化】は全く異なるらしい。


 文字通り感覚の強化であり、育てば『自分の身体の細かい機微まで感じ取れるようになる』『目に見えない自分の体内の働きまで正確に読み取れる』『効率的な動きを感覚で理解できるようになる』と言われているそうだ。


「え、普通に強くないですか?」


「だが、それは身体がそもそも超人的な能力を持っていた時の話だ。それに、この加護……いやスキルか。これも育たないとそこまで大きな恩恵がないんだ。逆に『温度変化や痛みに敏感になる』程度で止まってしまうこともある。だから、育てるのが困難なんだ。この状態で戦うのは中々に難しい。今の状態で戦いを潜り抜けて成長させるのは、中々骨が折れるぞ」


「ええ……まぁやるしかないんですけどね、もう」

「……留年して来年進学するって道もあるが、どうする?」

「いや、これで行きます」


 経済的な理由もあるが、何よりも『先生に見えていない二周目特典』に可能性を感じる。

 これ、もっと深く調べることはできないのだろうか……。

 考え込んでいるうちに、俺のクラスの人間は全員確認が済んだらしく、一度ダンジョンを退場することになった。


 そのままバスに乗せられ、学校に戻ることになったのだが……それでも俺は、未だにウィンドウと睨めっこを続けていた。

 ……普通に外でも使えるしこれ便利だな。スマホの機能とか追加出来たらもっと良いのに。


 考え込んでいると少し頭が痛くなってきたので、俺は気分転換に隣に座るカスミ、戻ってから一言も発しない彼女に話しかける。


「なんだよーまだ機嫌治さないのかよカスミー」

「不機嫌じゃないよ、ただ残念だなって。私は『進路を教えるのに値しない関係』なんだなーって」


「そう言うなよー……マジで探索者になることで頭いっぱいだったんだって。俺あれだぜ? 楽しみ過ぎていろんなこと忘れてたんだから。両親の単身赴任すら忘れてて、誰も家にいないのに『母さんまだご飯できないの!』って一階に文句言いに行ったくらいだし」


「え? それ流石にヤバくない? ていうか今一人暮らしなんだ」


「そうなんだよなぁ。母さんは『フロリダ分岐ダンジョン』で研究チームの一員として出張したし、親父は普通に会社員としてインドネシア。凄いよな、高校卒業する息子放って置いて行っちまった」


「それはなんていうか……普通に悲しいヤツだ。はぁ……いいよ、もう。じゃあ本当に私が探査学園を卒業したら、ダンジョンについて教えてよね。まぁ私達も課外授業の一環でダンジョンに潜ることあるっていうし、その時に会うこともあるかも」


「だな。そういやカスミって、加護どうだった? 弓に使えそうなの出た?」


「うーん……微妙? 【三次元軌道】っていうスキルなんだけど……これ、移動系のスキルなんだってさ。パルクール的な移動ができるようになるっていう話だけど、育てばそれに応じて動体視力も上がるって聞いたんだけど」


「へー! いいじゃん! それならアクロバティックに弓で攻撃しながら翻弄とか出来そう」


「そうかなぁ? 私、立った状態での射撃訓練しかしてこなかったから、これからもっと訓練しなくちゃだよ……」


「それもそうか……でも、頑張るしかないもんな。進学しても元気でやれよな、俺も頑張ってダンジョンのベテランになっておくから」


「ん、そうだね。じゃあ未来の先輩に期待するかなー」






 学校に戻った俺は、念のため図書室で【二周目特典】なる項目について調べてみたのだが、案の定空振り。無論、インターネットでも調べたのだが情報は皆無だった。


 結局俺は、学校からほど近い自宅に戻り、今日も誰もいない家で一人、冷蔵庫の中にストックしている出来合いの弁当で腹を満たす。


 金に困るような生活じゃない以上、両親が家を空けることに文句はないが、さすがに食事はもう少しレパートリーが必要だよな……。


 そのうち自炊でも覚えようと密かに決意しながら、自室で再びウィンドウを開く。


「自分の状態の表示に……現在地の表示。ダンジョンの外でも使えるのはこれだけか」


 ダンジョン内では、遭遇した敵の情報が記録されていったり、他の探索者が提供した情報を見られたりと、中々便利な機能があるのだが。

 なお、しっかり国が管理しているので、でたらめな情報を載せると処罰されるそうです。

 主に『仲間の募集』とかそういう掲示板的な使われ方をしているそうな。


「二周目特典ねぇ……なんの二周目なんだよこれ」


 俺は、この正体不明の項目に、少しだけ八つ当たりをするように、その項目を指でつつく。

 するとその瞬間――


「!? 追加の項目が出てきた!?」



『二周目特典一覧』

『下記の中から一つ選択可能』

『また追加の特典として選択後にアドバイザーを派遣』


「え? え? なにこれなにこれ! 二周目特典って……こういうのがあるのか!?」




【ドロップ確率4倍】

【取得経験値10倍】

【ダンジョン内マップ全開示】

【能力成長倍率1.2倍】

【スタミナ消費量1/2】

【HP自然回復量5倍】




「えー……なんかRPGの二周目特典じゃん……なに、俺の人生ってRPGなの? マジで二周目ってなんなんだよ……」


 俺は、この六つの項目の中からどれを選ぶか思案する。

【ドロップ確率4倍】はきっとダンジョン内で手に入るアイテムが入手しやすくなるのだろう。


【ダンジョン内マップ全開示】は便利そうだけど……ちょっと楽しみが薄れる気がしないでもない。

【能力成長倍率1.2倍】は肉体が成長した時、パラメーターが上がりやすくなるのだろうか?


【スタミナ消費量1/2】と【HP自然回復量5倍】は良く分からないが、これは普通に体力的なもののことだろうか? ウィンドウって誰が開発したんだろう? 随分とゲーム的に感じるな。


「数字が一番大きいのは【取得経験値10倍】だよなぁ……」


 これ、具体的にどういうものなのだろうか?

 ダンジョン内で魔物を倒せば、そりゃ存在の強さが徐々に上がっていくのは知っているが……。

 その効率が一〇倍になるのだろうか……?


「数字的には一番大きいしなぁ……これにすっか!」


 俺は【取得経験値10倍】を選ぶことにした。

 項目を指でタップし、これでいいのかと最終確認がされる。

 そして、その二周目特典を手に入れた次の瞬間だった――突然、家のチャイムが鳴らされた。


「なんだ? 宅配便か何かか?」


 タイミングが決定と同時だったので、少し心臓がどきどきしてしまった。

 まったく心臓に悪い。

 俺は玄関へ向かい、来客の正体を探ろうと、外の様子を液晶画面に映そうとする。

 が――


『開けてよー、いるんでしょー? アドバイザーのお姉さんが来たぞー』


 ……は!? この声の主も二周目特典なの!?

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