第28話 もういないらしい

「よおし、討伐完了」

「ちゃんと確認した方がいいよ」

「頭を潰されても平気なモンスターもいるかもだものな」

「そうだね、警戒を解かずに近寄ろうか」

 砂の悪魔サンドワームは砂の中に潜るという特性があるから厄介なモンスターとなる。向かい合った時の単純な強さだと、三日月湖の大型モンスターの方がきっと強い。ガウガメラとか気配だけでビリビリくるものが少しはあった。対するサンドワームからは何も感じない。

 しかし、どちらが倒すことが困難かというと断然サンドワームだね。地中にいたらどこにいるか分からないもの。

 気がつかぬうちに真下から襲われたらただでは済まないだろうな……。アッシュがいなかったらと思うとゾッとする。

 今回一番の功労者であるアッシュは、まだ砂漠を睨みつけたままだった。

「アッシュさん、まさかもう一匹いたりするんですか?」

「……」

 返事がない。余程集中していると見える。声をかけるか迷ったが、二体目のサンドワームがいるとなると早く対処した方がいい。

 邪魔したら悪いなと思いつつも、再度彼の名を呼ぶ。

「アッシュさん?」

「も、申し訳ない。『少しだけ驚く』どころじゃないですよ! とんでもなさ過ぎます」

「あ、あの。サンドワームがもう一体いたりします?」

「い、いえ。あそこで横たわっているサンドワーム以外にはいません。サンドワームが同時に二体なんて悪夢なんてものじゃないですよ!」

 そ、そうなんだ。たしか数年前に一度出現して以来のご登場だったな、確か。

 俺としても地中を進むモンスターは地下路線に影響が出るのでご免被りたい。万が一、サンドワームの出現情報があれば即駆除する。

 あれ、アッシュと会話していたらいつの間にかエルナンがいない。狭いブロックの物見だから、見渡すまでもなくいればすぐに分かる。

 ここにいないとなると、下だろうけど、ブロックの物見は結構な高さがあるから、飛び降りると怪我をするぞ。

 あ、エルナンがいた。

 てくてくとサンドワームに向かっているわ。砂が柔らかいから飛び降りても平気とか?

「飛び降りるには少し高すぎます」

「ですよねえ」

 エルナンのことだから、落下速度をコントロールする魔法とかを使ったのかもしれない。あとで聞いてみようっと。

 

 砂に足を取られながらも、ようやくエルナンに追いついた。

「どう?」

「うん、大丈夫そうだ。食べる?」

「こ、これはちょっと……遠慮したい」

「僕も他に食べるものがあるなら遠慮したいかな」

 巨大イモムシだものな、見た目が悪すぎる。いや、イモムシじゃあないか。ミミズの方が近い見た目をしているな、サンドワーム。

 ワームってイモムシやらその辺の虫を指すものだものね。いや、虫といっても昆虫じゃあないんだけど、その辺はフィーリングで補完して欲しい。

「エルナン、こいつを燃やしたいのだけど、魔法でなんとかならない?」

「図形魔法だと火力が微妙だよ。生き物は水分が結構含まれているから」

「虫だったら水分が少ないから燃えるんじゃ?」

「甲虫じゃあないからね、ま、試してみようか」

 倒したモンスターを持ち帰らない場合、放置するか灰にするかは目的で使い分けている。死体を放置すると、それを食料にする生物が集まるんだよ。

 三日月湖のように生物密度が高い場所だと丸一日経てば骨だけになる。敢えて死体を放置して、撒き餌にしちゃうこともできるってわけさ。

 逆にモンスターを集めたくない場合は焼却するなどして処理した方がいい。

 今回は街の傍であり、俺たちは立ち去ってしまうから、村のためにサンドワームは灰にした方がよいと思ったんだ。

 エルナンが図形魔法を使おうとする手をアッシュが制止する。

「クリス殿、エルナン殿、後は我々が危険のないように処理いたします」

「燃やしてしまおうと思ったんですが」

「そこまでやっていただくわけには……討伐、誠にありがとうございました! 若い衆を呼ばなければなりませんし、村へ戻りましょう」

「分かりました、行きましょう」

 ありがたく申し出を受け、来た道を引き返す俺たちであった。

 

 ◇◇◇

 

 木々を抜けオアシスが見えると、ずらりと村人が集まっているではないか。

 ここまで響き渡るほどの爆音だっただろうから、それでビックリして集まったのか、それとも、物見からサンドワームを倒すのを見て集まってくれたのか。

 答えはすぐに分かった。

「勇者様! ありがとうございます!」

「万歳!」

 そう、歓呼の声で迎え入れられ、彼らが既にサンドワームを討伐したことを知っていたことが分かったのだ。

「クリスさん、エルナンさんー」

 ぼふんと俺の元に村に入って最初に会った少女ボタンが飛び込んできた。

「無事終わったよ」

「やっぱり勇者様だったんだね!」

「いやいや、たまたまうまくいっただけだよ」

 離れた彼女の前で腰を降ろし、彼女の頭を撫でる。

 正直、力技で村の人に感謝される事件に出会えたことは幸運だった。しかし、俺としてもサンドワームは滅しておかなきゃならない気持ちは嘘じゃあない。

 これぞまさに一石二鳥である。

 村人に取り囲まれ戸惑う俺たちとは対称的にアッシュはさっそく村の若い衆と真剣な顔で言葉を交わしていた。

「クリス殿、我々はサンドワームの解体へ向かいます」

「ありがとうございます」

「クリス殿は村長と……あちらにいらっしゃるので」

「分かりました」

 ペコリと村の若い衆と共に頭を下げたアッシュは木々の方へと消えて行く。

 彼らを見送るのと入れ替わるようにしてアッシュと別の村長のお付きの女の子がペコリとお辞儀をしてくる。

 彼女に連れられ湖のほとりで持参した椅子に座る村長と引き合わせてもらった。

「あ、座ったままでご無理されず」

「この度は誠に、誠に感謝しております!」

 立ち上がろうとする村長に待ったをかけ、彼と握手を交わす。

 ひとしきり状況を伝えた後は、彼の家で食事をしながら歓談することとなった。

 村長としては砂の悪魔討伐の宴を催したいようであったが、今日の今日は難しいため、せめてものとのことである。

 俺たちのためにそこまでしてもらわなくとも、と思ったが、村を悩ませていた砂の悪魔が倒されたということで皆祝いたいのだそうだ。

 暗い気持ちになっていたところの明るいニュースだったから、気分転換のためにも必要なのだと村長が説明してくれた。

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