第20話 農場のご様子
図形魔法の使い手である元宮廷魔術師ハリス、金属細工職人グリアーノというその道の熟練者が開拓者の中にいたことでほくほくの俺であったが、続く開拓民たちの自己紹介を受け二人ほどではないにしろ、色々な経験を持った人がいてさ。これなら第一陣開拓者だけでも、村として立ち上げることができるかもと希望が出てきた。
ううむ、開拓民をどう動かすか。腕を組み唸り声をあげて悩む。
「こいつは責任重大だな……」
「この一か月が勝負だね」
「あ、声に出てたか」
「一番のチャンスが初回だろうから、気持ちはわかるよ」
自ら希望して砂漠地帯にやってきたタフな開拓民たちが初回に集まった。気概があるだけに専門的な知識を持つ者とか、これまで自給自足で生活してきた者など個々のスキルが高い。そして、初回だけに一番抱える人数も少ないのだ。
優れたスキル、そして最も人数が少ない初回の一か月間に何ともできないのなら、この先は辛い。初回の開拓者たちが高スキル持ちだっただけに、かかるプレッシャーも大きいんだよな。これでダメなら、今後より厳しい環境下でチャレンジしなきゃならん。
何より来てくれた開拓民を飢えさせるわけにもいかないわけで……。
「ええい、考えてもしかたない! まずは家まで案内しよう」
「その間にハリスさんと作戦会議をしてもいいかな?」
「助かる!」
「凄い食いつきだね、ハリスさんは組織運営にも慣れているから頼りになるよ」
ハリス氏、すげえ。俺には組織運営の経験なんてないからね。
開拓民と地下から外に出た時、ブロック貨車かそれ以上の驚きの声があがる。ブロック貨車が動いた時は絶叫な気もしたが、今度は歓喜の声が殆どで、中には膝をついて祈り始める人までいた。
地下からスロープを登って外に出ると、一面の豆腐ハウスが並んでいる。地下へつながる側は住宅中心になっていて、橋を渡って対岸が農場にしようと思っていて、水路といくつかの小屋を用意しているんだ。
他にも生産施設だったり牧場だったり、なんてものも必要になってくるだろうけど、ブロックは大量に余っているし、必要になれば後から作ればいいやって。
ここで開拓民のみなさんにお好きな家を選んで住んでね、なんてことはさすがの俺でも言わない。
彼らを誘導する先はベンチのある広場だ。中央にモニュメントを作ろうとしたのだけど、うまくできず柱が立っているだけになっているのはご愛敬である。
集まって座ってもらい、先ほど聞いたそれぞれのやりたいこととできることから、役割を振り分けていく。
「農業班の人はこっちへ。工芸が得意な人はこっちだけど、しばらくは農業班の人と一緒でお願いします」
てきぱきと振り分けて行き、10人ほど残った人には待っててもらって、対岸へ繰り出す。
いや、ただの待ちぼうけってのも勿体ない。
大きく息を吸い込み、口笛を吹く。
「ピィイイイイ」
『きゅいいい』
口笛に反応してか、でっかいハリネズミが風のような速度で駆けてきた。ざわつく開拓民へ落ち着け、と手で合図をする。
来るかどうか分からなかったけど、ハリネズミは耳も良いし俺が口笛を吹いたとなればやってくるかなと思って。一応、開拓民を驚かせないようにと紹介するまで引っ込んでもらう手はずだった。でも、時間を無駄にするよりはいいかって。案外、開拓民のみなさんはハリネズミを見ても平気そうだし。
単に驚き過ぎて麻痺しているだけかもしれないが、気にしてはダメだぞっと。
そして、ハリネズミの背にはアリサが乗っていた。彼が来るなら彼女も来るはずと見込んでいたのだが、予想通りになってこれ幸いだ。
「アリサ、残った人たちにA区画の家を案内してもらえるか」
「畏まりました!」
獣耳をピンとさせて、さっそく残った10人を案内し始めるアリサ。
迎え入れる側は僅か三人だから、多少待たせてしまうのは仕方ない。彼女がいてくれるのといないのでは大違いだよ。
アリサの場合は一人で見知らぬ開拓者と向かわせるのは不安だけど、ハリネズミと一緒なら大丈夫だ。でかいし、いざとなれば人より遥かに速く走ることができる。といっても大人しい草食モンスターなので、戦闘能力は期待できず逃げの一択なのだけどね。
「農具を持っていない人はそのうち支給できるように鍛冶や細工の経験者に頼むつもりです」
案内しながら、都度説明を挟んでいく。とにかく何もないからな……道具がない人の中からお料理班も選出しようと思っている。
一応初回の積荷には多少の農具や鍛冶や細工道具なんてものも入っているが、量に限りがあるからな。まずは持参した人を優先し、残った人数を見つつ振り分けて行くしかない。中には農具を用意できないほど貧困にあえいでいる人もいるかもしれないけど、農具を持っている人を優先するのは許して欲しい。
安定してきたら働きに応じて再構成するつもりだから、それまで待ってね、ってことで。
農地候補地についた。連れ立った開拓民の中で目に付く人物が二人いる。一人は白髪の年嵩の男で、もう一人は日焼けした小柄な男だ。
彼らは到着するなり膝をつき、素手で土に触れていた。
「土の様子を見ているんですか?」
「これなら水があれば育ちそうです」
「土をさらりと見ただけで分かるものなのですか?」
「痩せた土壌だとは思います。ですが、水が全て流れてしまうような状態ではありませんし、少し掘ってみなければ分かりませんが粘土質が硬くなっているような感じではないのではと」
「掘ってなくてもある程度わかるものなのですか!?」
「掘ってみるまで確実ではありませんが……今掘ってみてもいいですか?」
ぜひぜひ、と小柄な男へお願いした。さっそく彼は懐から小さなスコップを出して、土を掘り返し始める。
シャベルとか大きいものじゃないと、土を掘り返すのも大変だよな。大き目のシャベルならいくつか荷物に含まれていたはず。
幸運なことに開拓民の中に大き目のシャベルを持っていた人がいたみたいで、前に出てきて彼の代わりに掘り始めた。
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