第18話 いっぱいきた

 な、何とか間に合った……。新路線が完成したのはファースト開拓民がやって来る前日だったのだ。それも夜遅くまでかかってしまったという。工事は順調だったのだけど、思ったより距離があってね。フロウに上空から見てもらいつつ工事を進めたってのもある。思えば大陸縦断路線の時、方向についてはかなり適当だった。よくあれで三日月湖まで到達できたものだよ。そうそう、新路線の終点にあるお迎え場所にも駅名をつけた。駅名はオリジンベル。始まりの地点って意味に呼び鈴を鳴らすとかそんな意味を込めている。俺を呼び出す呼び鈴はいつ鳴り止むやら……。

 新路線は既存の大陸縦断路線から途中分岐してオリジンベルに至るオリジンベル・一ノ谷間を繋ぐ。

「クリス様ー、そろそろお出掛けですよー」

「ありがとう、今行く!」

 アリサの呼ぶ声で寝袋的なやつからのそのそと出て、リビングに向かう。俺の寝ていた場所は一ノ谷で最初に作った簡易宿泊所だ。三人に加え、リビングではハリネズミも暮らしている。正直馬車で寝るのと快適さはそう変わらないんだよな。何せ家具が何もない。ちなみに馬車は車庫的な囲いの中で、馬は厩舎的なところにいる。馬の餌ひとつとってもここに来てからの食材は水を除き全て三日月湖産であることは言うまでもない。もう少し準備期間があれば、一ノ谷周辺の探索をしたかったところだ。

 扉もない自室を出てリビングに入るとアリサだけでなくエルナンも起きてきていた。

「おはようー」

「クリス様、おはようございます!」

「やあ」

 なんて感じて挨拶を交わし、シャインマスカットをもしゃもしゃと。あれからハリネズミに頼んでシャインマスカットをとってきてもらったんだ。今では二日に一回くらいの朝ごはんになっている。


「留守を頼むね」

「ハリネズミさんもいるので大丈夫です!」

 アリサには一ノ谷に残ってハリネズミと馬を見ていてもらうことにした。馬はともかくとしてハリネズミをお留守番させたことがこれまでなかったから、不安を覚えてね。俺とエルナンの二人が揃わないとブロック貨車が運行できないため、お留守番となれば彼女になる。しかしだな、残った一人だから彼女ってわけじゃあないんだよ。彼女は一番ハリネズミの気持ちがわかり、ハリネズミも彼女に懐いているからさ。もしお互いにソリが合わないんだったら、ハリネズミを残して彼女を連れて行くことになったと思う。彼女なら最もハリネズミをうまく扱うことができることから彼女に頼んだ。適材適所ってやつさ。


 ◇◇◇

 

 王都から砂漠地帯のオリジンベルまでは結構な距離がある。オリジンベルから一番近くの村までだと馬車で二日くらい……だっけ? 俺たちは立ち寄っていないので正確な場所は分からない。村に向かわず三日月湖の方へ進んでいたからさ。

 あ、そうそう、最も近い街までなら分かるぞ。確か四日、いや五日だったはず。街からオリジンベルまでの移動と考えるとそれほどの距離でもないか。因みに王都からになるともうちょっと時間がかかる。いずれにしろ徒歩じゃ辛い距離だよ。ブロック貨車なら王都までの距離でも楽々だけどね。

「あー、本当にきているよ」

 オリジンベルの駅から5分ほど歩いたところで、群衆の姿が見えてきた。

 そこで立ち止まり、隣で歩くエルナンに目をやる。

「100人だったよな、初回の開拓民って」

「本当に送ってくるとは政府もどこまでやる気なんだか」

「それは俺も思った。風呂敷広げるだけで貧困層を放置するんじゃないかって」

「ははは、来るのは貧困層だけじゃあないだろうけどね」

 そらそうだ。誰が来てもウェルカムだよ、俺としてはね。死ぬよりはマシ程度の生活を覚悟してきているだろうから。

 不毛の砂漠地帯へ行く希望者を募ると政府高官から聞いていたけど、食うに困った希望者が大半だろうなあ。

 当初は自給自足の共同生活、安定してきたらいくらでも開拓・探検してもよし、フロンティアスピリッツ、って宣伝文句なんだとさ。

 考えたのは政府高官の誰かだろうけど、実際に砂漠地帯を見れば現実を思い知るよ。ゴールドラッシュはあるかもしれんが、とにかく食べ物がない。

「って、違う違う、本当に開拓民を連れてきたのは驚きだけど、人数だよ、人数」

「100人には見えないね、護衛とかもいるんじゃない?」

「そうだよな、うん」

 気を取り直して再び歩き始める。


「クリス王子、エルナン様、ご足労いただきありがとうございます!」

「ここまでの護衛、ありがとう」

 先頭に立ち、敬礼する髭の男は軽装ながらも質感の良い皮鎧を着ていた。肩口に見える紋章から判断するに王都の騎士で間違いない。

 まさか騎士様が護衛につくとは思いもしなかったよ。彼の他にも騎士がもう一人、残りは街の兵士が五人ほどってところか。

 挨拶を済ませた髭の騎士は懐から目録を取り出し、片膝をつく。

「目録となります。お納めください」

「あ、うん……ありがとう」

 男に掲げられたは二本の巻物であった。一本は開拓民の名前を書いたリスト、もう一本は馬車をはじめとした物資の目録だ。

「エルナン、目録の確認を……っていない」

 騎士と挨拶を交わしているうちにエルナンがどこかへ行ってしまった。群衆の中にいるのかなあ。

 迷子になるほど群衆の規模はないから、そのうち戻ってくるだろ。

「それでは、私たちはこれで。ご武運を」

「やはり来月になったら次が?」

「はい、予定しております」

 護衛のみなさんもご一緒してくれるなら、三日月湖に行ってもらうこともできたのだが、やはり帰るらしい。

「みなさん、お疲れのところ申し訳ないのですが、まず全員が揃っているか点呼します。呼ばれた方は前に出て私の後ろへ行ってください」

 正直なところ全員揃ってなくても構わないんだ。目録がこの場にいる全員の名前を正確に記録しているかも分からないし。

 重要なのは、この後だよ。今この場にいる人たちを把握し、一ノ谷までちゃんと連れていけたかも確認する。

 逃亡する分にはいくらでも逃亡してくれ、なのだけど、何かしらのアクシデントがあってもこの人数だと気が付かないからな。

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