妖精の宝石
シーサル
第1話 妖精の宝石
「……?」
ある日、いつもの登校道中の事。
私は道に転がる赤色の石を見つけた。
私は不思議に思い拾い上げる。
とても光っていて美しい。もしかしたら何かの宝石なのではないか。
そう思った私は咄嗟に鞄に入れよとした。
全く悪い癖だ。
何でもいい物じゃないかと拾い上げて、棚の中がゴミ箱になる。
石ころに面白い形をした葉っぱ。
そんなものをコソコソと詰めているのだ。
「今日はいい一日になりそう」
少し早足で学校に向かった。
教室。
私は1人、端の席で寝たフリをしている。
「空ちゃんって変だよね」
小学4年生、2年前に私はそう言われた。
友達に石をあげたのがいけなかった。
綺麗な石だからとあげたが、他人にしてはただの石ころでありゴミ。誰がゴミを受け取るというのか。
今思えば馬鹿馬鹿しい話だ。
そう後悔していても私の習慣は変わらない。
特別なんじゃないか。持っていたら天使様が来てくれるんじゃないか。
そんな発想がよぎって拾ってしまう。
「クスクス」
笑い声が聞こえる。
いつもと同じだ。
気まずいら寝ているふりをするのだ。
そうして美しい世界を石を見ながら想像するのだ。
「綺麗……」
と小さな声でその石を見つめていると足音が近づいて来る。
最初は通り過ぎるだけかと思ったが、足音は私の前で止まった。
私は咄嗟に顔を上げて告げた。
「誰?」
見た事もない。
名前も顔も念の為に覚えていたけど、本当に見覚えがなかった。
「私、上平 真鈴っていうの。貴方は?」
「私は……上川 夜」
「わぁ!上っていう漢字は一緒!私今日から転校してきたんだ!よろしく!」
なるほど。
転校してきたのか。
宝石を見つめる。
もしかしたらこの宝石が転校生を連れて来てくれたのかも知れない。
例え、話しかけてくれるのが今だけだとしても嬉しかった。
「よろしく」
「うん!」
転校生というワードを聞きつけたのか皆んなが寄って来る。
そしてすぐに囲まれて話題の中心になった。
話がエスカレートして遂に私の話になる。
別に嫌われてもいい。そういう運命で自分がおかしくて……駄目な子だと知っているから。
「あの子ね。不思議っこちゃんなの。石とか葉っぱとかを集めて想像をするの!おかしいでしょう!」
周りがクスクスとする。
他人を馬鹿にすることは話題になる。
だから広がって独りぼっちになったのだ。
「ははは、そうなの?」
ほらやっぱり。
もう諦めよう。
「そうなの!それでね……」
と会話が進む。
なんか全部嫌だ。
知っていた事だけど、いざ現実になると嫌だ。
ワガママだ。
キンコンカンコン
音がなり我に帰った様に自身の席に帰っていく。
「じゃあまたね」
と言って転校生も去っていった。
廊下で何で顔を出したの?
と言う先生の声が聞こえる。
転校生がいきなり何でと思ったがそういう事か。
ようやく話がついたのか先生と転校生が入って来る。
「皆さん知っていると思いますが上平 真鈴さんです!」
パチパチパチパチ
拍手で迎えられる。
「じゃあ貴方は……アッ」
と言葉に詰まる先生。
空いている席は私の隣だけ。先生と生徒が避けてきた席だ。
「上川さんの横の席がいい」
「!?」
全員が驚く。
あそこまで悪口を言われて来るなんて……何だろう。嫌味だろうか?
「よろしくね、上川さん」
スマイルが怖い。
その裏に何か隠されているんじゃないかと思ってしまう。
「私ね。人を噂で判断しないの。百聞は一見にしかずって言うでしょ?」
「う……うん」
今思い返せば彼女は話に乗っていなかった様な気がする。
神様は何という幸福をくれたのかと感謝で耐えきれなかった。
「では読書時間です」
嬉しくて彼女に話しかけようとして止まる。
とても集中して読んでいる。ここで話しかければ私の評価が下がる。
折角出来た友達なのに駄目だ。
いつもはだらけて適当に見ていたが今回だけは集中して読んでみる。
面白い
読んですぐ本の虜になった。
「終わってね」
「え?」
こんな読書時間が短く感じたのは初めての経験だった。
「上川さん、次の授業ってわかる?」
「うん。次は国語だよ」
いつもは無気力で、先生も嫌いだからまともに聞いていなかったが上平さんの姿に魅了されて、私も集中し出した。
「だよねぇ」
「面白いよねぇ」
相手が大の小説好きだと知り、先程読んだ本で盛り上がった。
少しだったが、それでも魅了された本だったのでそれはもうすごく。
「上平さんも変だよねぇ」
一日が終わる頃。
そんな会話が聞こえてしまった。
「あっ」
そこで自分の過ちに気づいた。
自分が上平さんの評価を下げている事に。
私とこれ以上いれば彼女も仲間はずれになる。
それだけは避けたい。だって彼女はこんな私にもつきあってくれる優しい人だから。
「えっ」
「話すのはもう、やめよう」
決意した私は早速翌日にそう告げた。
驚いた顔と失望した様な顔が混ざり合った様な顔が、矢となり私の心に深く刺さる。
「私、変だから。貴方と合わないの。ごめんね。私が悪いだけだから」
ともう一言告げて背中を向けてその場を去っていく。
「待って」
といったが振り返らない。
いっても2日の付き合いだ。後悔なんて……ないはずだ。
私は謎に零れ落ちる自身の涙を拭きながら自分のポジションに戻った。
その日、次の日と彼女は横にいても私に話しかけて来ることは無かった。
読書も面白いと思いつつもページが進まないし、授業の内容も入ってこない。
もう限界だ。
知っていた。もっと早くてもよかった。
私はあの時拾った赤い石をじっと見つめる。
もうこの石は救ってくれない。元々、無かったのかもしれない。
「お母さん……」
「え?なに?なによ!文句でもあるの!お金は払っているのよ!ヒック!」
眠った。
帰ってきて速攻、母さんは酔い潰れて吐く。
当然家事は全て私が行う。ゲロ処理も同時並行だ。
「……」
学校も、家も楽しくない。
特技もない。私が楽しめる道はない……
「どうすればいいの?」
親も友達も先生も誰も頼りにならない。
学校から配られた紙?怖い。連絡なんてできない。
「ハハハ」
どうしよう。
なんかどうしよう。
自殺できる勇気もない。
私って何だろう?
棚の中の宝物……ゴミを取り出す。
「……」
そうして大量に積まれた黒いビニール袋の中に詰め込んだ。
「……」
私が見つけた。これまででも一際目立つ石。
これも……いらない。
彼女と繋げてくれたかも知れない宝石……いらない。
「……」
駄目だ。
全部捨てたらダメになる。
これだけは手放せない。
「どうすればいいの?教えてよ宝石の天使さん」
そんなの存在しない。
「教えてよ私のご先祖さん」
答えてくれない。
「教えてよ。神様」
聞こえない。
「教えてよ……異世界の人」
いない。
「妖精さん……ねぇ!」
……
「教えてよ……誰か教えてよ。どうすればいいの?私は何の為にここにいるの?」
いつもの想像力が効かない。
辛い時も、想像を膨らませて楽観的にしてきた。
それでも、今回は無くならない。あの子を失ってしまった喪失感は無くならない。
ツゥ───
涙が目から肌へと流れる。
私は寝転んだ。
寝た。
起きた。
もう母は会社に行っていない。
賞味期限切れの食品を取り出して食べる。
そしてロボットの様に登校する。
「あっ」
綺麗な形をした石。
もしかしたらあれを拾えば異世界への扉が……開かれる訳がない。
馬鹿馬鹿しい。
バッ
蹴って道の端に追いやる。
「はぁ」
猫背でいつもの道を歩く。
校門を潜っていつもの席に座る。
そして寝たふりをする。
目を瞑った。
「夜、夜ちゃん」
目を覚ますとそこには広い草原が広がっていた。
何だろう、空想の世界だろうか。眠ってしまったのかも知れない。
「え?」
するとそこには妖精がいた。
綺麗な赤い羽を動かす妖精。美しい。
何処かあの宝石を想起させる。
「誰?」
「私は妖精のベルっていうの」
ベル……小学5年生の頃、想像していた友達だ。
クルリと周り空中でポーズを決めて笑う。
「夜ちゃん、一緒に草原を走ろう」
「何で?」
「いいからいいから!ほら早く!」
言われるがあまり走り始める。
「気持ちいい」
「でしょ?」
何の意図があるのか。
いや自分の想像だから何もないか。
突然、空を飛び回っていた妖精が止まる。
「ねぇ、私達を忘れるの?」
「へ?」
その瞬間、目の前にこれまで想像してきたすべての物達が出てきた。
「あの声に釣られて来たの。宝石に乗って、遅れちゃったけど」
「宝石?」
「そう。あれは空想と現実を夢で結ぶ宝石、魔女様が作ってくれた宝石だから」
馬鹿馬鹿しい発想だ。
「違うよ。発想じゃない。現実だよ」
「……」
「ねぇ、もう一度聞くよ。私達を忘れて、あの友達も失って……思い出を捨てて後悔はないの?」
後悔……
「ない」
「あるよ。分かっているでしょ?」
分かってるよそんなの。
分かってるよ!
「でもどうしようもない!」
「どうしようもなくない!あの上平さんだって貴方の事をとっても心配してる!」
「そんな訳……」
「ある!皆んなと違って貴方の優しい心を見てくれる子がいるんだよ!」
後ろにいる動物や魔女や先祖、天使にロボット。
頷く。
「大丈夫」
「私達を生み出してくれたじゃない!」
「そうそう。君なら大丈夫さな」
「お前のヒイヒイヒイヒイヒイヒイ……爺ちゃんがいうんだ。間違いない!」
「大丈夫。君なら大丈夫」
「アナタナラデキマスヨ」
「後悔があるんだったら!今からでも大丈夫!」
……
「本当に?」
「うん」
「ほんとうに?」
「うん」
「ほんとぉに?」
「うん!!」
……
「分かったよ。やってみるよ」
途端、彼らは光となり消えていく。
「え?」
「大切にしてね。彼女も。そして貴方の素晴らしい想像力も!」
「待って……!」
「大丈夫」
「マッ!」
目覚める。
するとそこには上平さんの顔があった。
「真鈴……さん」
「ごめんなさい!」
瞬間、謝れてしまう。
「え?」
「夜さんの事、悪く見てた。気遣ってくれていたのに!あんな事言ったのに!」
しっかりした彼女からはどう考えても想像できない言葉だった。
「……ねぇ真鈴さん」
私は口を開いて上平 真鈴を見つめる。
「もう一回、友達になれるかなぁ?」
「うん、なろうよ!」
鳴きあった後、私はようやく赤いその宝石を握っている事に気づいた。
握っていなかったはずなのに、そこにあった。
もしかしたらあれは空想じゃなくて……現実だったのかも知れない。
宝石はひび割れている。
もう、あの時の様な美しさはないが儚い意味での美しさがそこにはあった。
「ありがとう。皆んな」
真実だと信じよう。
そう思おう。
その後私達は他人の声を聞かずに交流を深めた。
もうあの子達は諦めて何も言ってこない。
逆にあの後、別クラスの先生にバレて生徒は反省文を書かされ、このクラスの担任は何処かに飛ばされた。
私達はというと、小説の話などなどで盛り上がっていた。
「すごいね真鈴。絵が上手いんだね」
「夜だって想像力がすごくて話の構成が出来る……」
「「ねぇ、漫画家になろうよ!」」
お互いが目を見合わせる。
そしてふふっと顔を合わせて笑い合う。
「出してみよっか」
「だねぇ」
そして中学生になり、最初の挑戦では失敗に至ったものの、担当者がついた。
2作目では何と有名雑誌での連載が決まり、高校進学後、5年ほど続いて一躍有名作家となった。
私の想像力が発揮されたのだ。きっと彼らも嬉しく思っているだろう。
「妖精さん可愛い!」
物語に出る赤い翼の妖精は子供に人気のキャラクターとなった。
母親もあの後何処かに行ってしまった。
それでも悲しまない。私の人生を生きているから。
「う〜ん!締め切りがやばい!」
「やばいね!」
私達は今も仲良く、アシスタントと共に次回作を書き込んで切る。
「でも楽しいね」
「ね」
あの時、小学校から始まった関係は色んなトラブルを超えながら続いている。
あの日の思い出をずっと忘れない。あの日の別れと出逢いを忘れない。
「よし!今日はこれぐらいにして寝よう!」
「だねぇ!」
大変ながらも面白く楽しい毎日が送れています!
妖精の宝石 シーサル @chery39
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