第十一射 科学とぼっちと共犯と

「お邪魔しま…………って、なにこれ臭ッ!?」




歩夢のメッセージの通り第三科学研究室へとやってきたのだが………………扉を開けた瞬間、異臭が鼻を突いた。腐った何かの、そのさらに奥のほうのような、感覚を狂わせるほどの悪臭だ。




カーテンを閉め切っているようで、薄暗く、視界の悪い室内で何が行われているのかは分からないが、ちょっとこの部屋に入る勇気はないな…………




と考えていると、何やら部屋の中で動いているものが見えた。しかもそれは段々近づいてきており…………




「なに!?ちょ、なに!?平和な学園ライフを送れると思ってたのにこんな早くから敵の襲撃が………………」




散々取り乱した後だが、その姿をよく見てみると防護服のようなものを身に着けている人間だった。




「シュコー、シュコー………………」




防護服姿の人物は、部屋から出ると扉を閉め、俺のほうへ向き直った。何かの装置のようなものを操作すると防護服を脱いだ。その中にいたのは…………




「先生、早く来てくれるのはありがたいのだが、ノックくらいはしてほしいな。とはいえ、ようこそ、私・の・第三科学研究室へ!」




歩夢・クリスト・ファーブルスは不敵に微笑んで見せた。







「いちおう私は立場上ここの生徒ということになっているが、その実態はほぼ学部としては機能していないのをいいことに私が好き勝手やっているだけなのさ。それゆえ私を咎める者もおらず、自由に研究し放題!科学者にとって、これ以上の環境はないだろう!?だから………」




いつもの白衣姿のまま、既に換気の行われた第三科学研究室内で星座しながら、歩夢は言った。




「そろそろ許してくれてもいいんじゃないかな?」




「許すか!この部屋には目を通させてもらった。既に生産を禁止された劇薬、法律で使用を禁止されている科学研究装置、もう何か分からないけど見るからに危なそうな物質の山!いくらこの学部が君一人のために残されているからと言ってやりすぎだ!」




「いやいや、先生!危険性を孕んでいるからと言って何もかも禁止していては科学の発展は望めないんだよ!むしろそういったものは積極的に研究を行い、危険物ではなくすことが必要だと思わないかい?我々には害をなさず、人類の仇敵、サテライトたちに有用な武器をこれまで開発してきたのはいずれも裏の社会で暗躍する日陰の人材たちだ。そんな彼らが自分の自由を捨ててまで世界に貢献し、自らの能力を示して見せたんだ、表立って活躍する私たちが指をくわえてみているだけでいいと思うのかい?」




途端に饒舌になった歩夢。赤縁の眼鏡の奥では、深紅の双眸がキラキラと輝いているように見える。




「そりゃ、科学技術は俺たちの戦いに多大なる貢献をしてきたが…………だからといって、生徒にそんな危ないものの使用を許可するわけには………………」




「『概念破壊の銃弾』………………あれ、使っているの先生だろう」




う、それがあったか…………法律で所持を禁じられた薬品なんかより何倍も危ない物体を作っているのは彼女だ。それを俺が使っているとなれば、俺の先ほどの言葉は説得力のせの字すらなくなる。どうする、ごまかすか…………?




「な、何の話かな………………?」




(ピーッ、脈拍の上昇を検知、対象が嘘をついている可能性、九十八点三%)




「な、なに今の!?」




「ふっ、引っかかったね先生!私のマジックパッドには歩夢・クリスト・ファーブルス特製の超多機能アプリケーションが入っているのさ!嘘発見はお手の物、カロリー計算やしりとりの相手、新たなアプリケーションの自動開発すら行えるのさ!と、いうわけで…………」




歩夢が意地悪く微笑む。




「私の悪事をバラせば、先生の切り札は一つなくなることになる。いや、私の悪事をバラさなくとも、私がこの件に先生が関与しているといえば…………?」




「わ、分かった!俺の負けだ!もう何も言わないから!」




「ふふっ、先生が話の分かる人でよかったよ。私も大切な顧客を失いたくはないしね」




全く、子供とは思えないな…………日本ならまだ高校生、青春真っただ中のはずだ。だが、この世界が悪いとは一概には言えない。日本の人々が毎日を必死に生きているように、彼らもまた全力で生きている。そこにあるのは死との距離の違いくらいだ。




「さて、それじゃあ悪ーい共犯者さんにはさっそく無茶ぶりを聞いてもらおうかな?」




にやにやと、いやらしく笑う歩夢の様子に嫌な感覚を覚える。いつもの通りなら、これはきっと。




「実は今、サテライトを違法研究している『変革を望む者』たちの情報をつかんでいてね。今度実際に会うことになったんだけど……………もちろん、着いてきてくれるよね?」




「………………はい」




やはりというかなんというか、嫌な予感はよく当たる。またしても面倒ごとに対処せねばならない状況に嘆息しつつ、この学園をなんとかせねばならないと思った。







「ねぇ鏡花」




「ん、サターシャ?どうしたんだ?」




お昼休みだというのに昼飯も食わずにどうしたのだろうか?




「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、あの…………歩夢さんって、どんな人?」




「………………あのなぁサターシャ、アタシの交友範囲は確かに広いけどさ、流石にアレは対象外だぜ?まあほんとに困ってるってんなら力になるけどな」




彼女はアタシの親友なのだ。決して彼女のお願いをむげに断ったりはしない。




「いや、そこまで困ってるわけじゃないんだけど…………なんだか近寄りづらくてさ。私の後ろの席なんだけど、いつも寝てるし。この学園も二年目だから、流石に近くの席の人とくらいは話したいと思うんだけど…………」




だからといってアイツを選ぶのもどうかと思うが………歩夢・クリスト・ファーブルスについていいうわさなど聞いたこともない。根本からひん曲がったいわゆるマッドサイエンティストというやつらしく、友達になれるかと言われたら流石に無理である。まあアタシも少し前まで不良だったのだからそこまで言えるわけでもないが。




「あ、それなら先生に頼ってみたらどうだ?あの人も中々変わってるし、歩夢と波長も合いそうだろ?」




と提案してみると、サターシャもなるほどとばかりに頷く。




「確かに………あの人も大概だものね。分かった、ありがとう鏡花!うまくいったら今度お礼に購買の焼きそばパン買ったげる!」




「お、ほんとか!?サンキュー!頑張れよー!」




新たな友達づくりの第一歩を踏み出した親友を見て、無性に温かい気持ちになった。これが子を見守る親の気持ちか………




なんて、くだらないことを考えながら手に持ったおにぎりを口に放り込む。




「ほんじゃ、アタシもちょっこらお手伝いしてやりますか!」




どうせ先生がどこにいるのかも分からず飛び出したのであろうサターシャが恥ずかしそうに帰ってくるのを見て、アタシは満足しながら頷いた。やはり、まだ巣立ちには早かったようだ。




「ちょ、わ、笑わないでよぉぉぉぉぉ!!!!」




サターシャのぼっち脱却まで………あと??日

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