月と異世界と銃火器と

唸れ!爆殺号!

第零射 過去と師匠と試練(ミッション)と

これは、あくまでも過去のお話である。







2年。2年が経った。2年というのは俺からしてみれば大分長い期間だ。なんせ人生の17分の2に値するのだから。人が変わるには――――十分だ。




散々引き伸ばしてなんだが、この数字は俺が異世界に転移してから過ぎた時間を表しているだけである。作者は異世界モノばっか書くのだ。たまには現代ラブコメでも書けと思わなくもなくもなくもない。




そんなことはどうでも良くて。




今回語っていくのはとある世界のお話。まだこの世に存在しない俺たちではあるが、設定はバッチリだ。




それでは始めよう。過去と師匠と試練(ミッション)を。







「師匠ー!朝ですよー!」




俺の師匠は朝に弱い。どれくらい弱いかというとほのおタイプがみずタイプに弱いのと同じくらい弱い。




「……嘘…………まだ夜……」




「どうやったら間違えるって言うんですか!朝です朝!早く布団から出てください」




「うぅ……悪魔………」




誰が悪魔だ。




頭まで被った毛布を剥ぎ取る。その中には、真冬だというのに膝より短いズボンを穿いているせいでむき出しの綺麗な太ももと、もう18だというのに中学生に引けを取らない発育途上の体をした少女(女性?)の姿があった。




………今となっては見慣れたものだが、やっぱり最初の方は緊張した。元々一人暮らしだったこともあって、家だとこの人、結構リラックスするのだ。




彼女の名はミル・ラガン・ドラグノフ。【狙撃手(スナイパー)】だ。




どんなターゲットであろうと全てに死を与えてきた事から、『死の弾丸(デス・ブレット)』との呼び名がつくほどの凄腕だ。




昔ならまだしも、今となってはちっともそうは見えないが。




そんな彼女だが、それだけでは飽きたらずこの国最高峰の戦闘能力を保持する者のみが選ばれる『七色しちしき』にも選出されている。




もちろん、七色と言うからには七人である。




無理矢理布団を引き剥がしたからか、師匠が引き込まれそうなほど深い深紅の瞳で俺を睨んでくる。




「ご飯は?」




幾分怒った調子で尋ねてくる師匠。




「師匠がいつまで経っても起きてこないので、全部食べちゃいました」




「!?」




「嘘です」




ホッと胸を撫で下ろす師匠。可愛い。




「良かった。危うく弟子殺しになるところだった」




全然可愛くなかった。……え?もちろん冗談ですよね?




「私は嘘ついたことない」




と、走る体制を整えた俺を見てボソッと呟いた。




………今すぐ料理を温めてこよう。




俺は部屋を飛び出し、キッチンへと走った。







「ちょっと出かけてくる」




朝ごはんを食べ終わり、特に予定がない俺はソファーにて今日の朝刊を読んでいたのだが、唐突に師匠が立ち上がり宣言したことで朝のまったりタイムは中断される。




「分かりました。お弁当いります?」




「いる」




ちょっと急だし、ありもので済ませちゃうか。




冷蔵庫の扉を開くと、最近買い出しにも行っていなかったのでなんにもなかった。というか朝気付くべきだった。




「あぁ〜、すみません師匠。なんにもないです」




「?なんにも?」




「そう、なんにも」




「ガーン」




わざわざ口に出すほどでもないだろうに……




「というわけで、お昼は外でお願いします。夜までに帰ってこれれば買い出し行ってくるんで、晩御飯は作れますけど。どうですか?」




「……っ!う…ご、ごめん。間に合わない………」




理性と食欲の間で揺れ動いていた空前絶後のスナイパーだったが、何とか理性が勝利してくれたらしい。




……そんなに俺のご飯食べたいのか…………




ちょっと嬉しくなってしまうが、勘違いは仲違いの元っていうし(俺調べ)、今の心地よい関係が壊れるのも怖い。調子に乗りすぎないように気をつけねば。




「それじゃあ師匠、行ってらっしゃい」




「ん、行ってくる」




小さく手を振って、師匠は家から出ていった。









この世界の、話をしよう。




まず、この世界は先述の通り異世界である。


だが、レンガ造りの建物に冒険者ギルドがあるような異国情緒溢れる世界ではない。この世界では、下手をすれば俺の母国日本よりも科学技術が発展している。




それも当たり前だ。この世界に平和など無い。人間は戦いの歴史の中で科学を発展させてきた。




今から約10年前、この星に月が近づいてきた。何かの比喩でも何でもない。紛れもない事実なのだ。




最初に気づいたのは一体誰だったのだろうか。そしてその人物は何を思ったのだろうか。




この世界の月は『ルナ』と呼ばれ、初めてこの星に近づいてきた時に、この星に革命を起こした。この最初の革命を『ファーストコンタクト』と呼ぶ。




ルナとのコンタクトは現在までに2回起こっており、その際にこの星の四分の一ずつが死んでいる。つまりこの星は、もう半分しか残っていないのだ。




因みに、これは俺が立てた仮説なのだが、この星は地球のパラレルワールドなのではないだろうか。その根拠として、今俺がいるこの国。名を『大大和帝国だいやまとていこく』というのだが、この国、形が日本そっくりなのである。他の国だってそうだ。


二度のコンタクトによっておよそ生物が住める環境ではなくなったこの星の半分は地球で言う南半球に酷似している。


極めつけは、この星の名が『ヴァース』であることだ。かの有名漫画を読んでいれば分かるだろうし、アースと似ている。




多分十中八九そうだと思う。ってそんなことより………




ルナとのコンタクトによって起きた革命。




それは破壊のみに留まるものではなかった。




一部の人間に新たな耳が生えた。魔法という概念が生まれた。そして……




敵が生まれた。




今もルナは変わらず俺たちの目と鼻の先に存在している。




獣人が生まれても、魔法が使えるようになっても、『敵』はすぐ側にいるのだ。




――――まぁ、それに対抗するために科学と魔法が発展し、世界は何とか保たれている。対ルナ用の人員を育成するための教育機関まで出来たらしいしね。




暇を持て余した俺の中で広がっていたこの世界のお話は、なんとも残念な位置に落ち着いた。




「おっと、そういえば買い出しに行かなきゃ」




俺は財布とエコバックと、そして拳銃を持って、買い出しをするべく街へと繰り出した。







結局、師匠が帰ってきたのは次の日の晩だった。




「…ただいま」




「お帰りなさい。お風呂にします?ご飯にします?それともぉー、し・ご・と?」




「うぇ………ご飯」




俺の突然の奇行に気持ち悪いものを見る目を向けながらもご飯を所望する食い意地の張った師匠。




別にそんな目で見なくたっていいじゃん?誰だって一度はやってみたいはずだ。それが美少女相手ならなおさらだ。




「それに……今仕事終わったばっか。疲れた」




「そうっすか、お疲れ様です。今日の晩御飯はみんな大好き野菜炒めですよ」




師匠が嫌そうに俺を見る。




「………ピーマンは?」




「入ってないですよ。人参、玉ねぎ、もやしにえのき。あとは牛肉様です」




一回ピーマンを出して、俺が炒め物になるところだったのでしっかり学習した。




「えっ!?牛肉!?なんで?」




野菜炒めに牛肉が入っているのがよほど嬉しいのか、いつもは笑いもしない顔をフニャアととろけさせている。




「昨日買い出しに出たら軽く道に迷いましてね。スーパーに着いたときには牛肉が値引きされてたんですよ。それに……」




「それに?」




こんなことを言うのは照れくさいが、言わなきゃ伝わらないだろう!?勇気を出せ俺!




「師匠、疲れて帰ってくるかな……って」




頑張って口に出したはいいものの、途轍もない恥ずかしさを感じた俺は顔を俯かせてこう言った。




「いやいや、その!変な意味とかはなくて………その……」




俺が勇気を出したとこらへんから一切反応のない師匠を不思議に思い顔を上げてみたのだが。




そこには顔を真っ赤に染めた絶世の美少女の顔があった。長い銀色の髪を右の手で激しく弄りながら口をパクパクさせる師匠。




………俺たちの間に流れた気まずい空気は、牛肉様を食べ始めるまで残留していた。







最強の狙撃手になるには何が必要かと、師匠に問うたことがある。




返ってきた答えはこうだった。




『ん、腕も大事。観察力に洞察力、広い視野に高い思考能力。使う銃に慣れるのも大事。でも、一番大事なのは………』




『狙撃するにあたって、最高のシチュエーションを作り上げられる行動力。これが私の持論』




なんの感情もない瞳で俺を見つめる師匠。




あの頃の師匠は固体のドライアイスより冷たかった。俺が師匠に師事できたのはきっと、千年に一度とない奇跡だったのだろう。




何を言いたいのかって?




もちろん、師匠がやってた仕事の話。




「仕事に行きます」




「マジすか」




「マジ。行きます」




何故か俺まで連れて行かれることになってしまった今回の仕事。内容をまとめるとこうだ。




現在世界中に存在すると言われる『変革を望む者』が武装組織を統率しているという情報を受けた国から、師匠に依頼が来たらしい。




だが、正しくはその疑いの濃い人物が、だ。(唐突な武装組織の結成等からそう判断されてしまったようだが)




『変革を望む者』というのは、分かりやすく言うとルナ狂信者である。ルナとのコンタクトによって、世界には崩壊と共に進化が訪れた。


だが、コンタクトの影響は更に大きかったのだ。




コンタクトを経てから人間性や行動が大きく変わった者たちが現れる。彼らは殺人だろうがテロだろうがなんの罪悪感もなくやってのけるという。




もちろん殆どが素人であるため警察によって捕らえられる。その際、彼らは揃ってこう言うそうだ。




『ルナの御心のままに』




と。




彼らに話を聞いたところによると、彼らには声が聞こえるらしい。その声に従う事は、ほぼ全ての人間にとっては快楽となるという。だが、一部は違う。病気だと思い病院にかかったり、ただただ興味本位で事に臨んだりする者もいる。




その中で特に厄介なのが、力を持つ人間が興味を持つこと、だ。




今回の依頼もそのケースである。




標的ターゲットの名はレオン・ボナパルト。


世界有数の大企業、ボナパルト海運の会長を務める男だ。先代であるサスケ・ボナパルトから職を継いで日の浅い彼ではあるが、驚異的な手腕で、元から大会社であったボナパルト海運を更に巨大にしていった天才である。




表ではコンタクト孤児(ルナとのコンタクトによって生まれてしまった孤児たちのことだ)たちが暮らす施設に巨額の募金をしていたり、人間性の出来た人物として度々ニュースで報道されていたりするのだが、まさかこんな裏があったとは……




「ほんと、人って見かけによらないものですね」




彼はそれだけでは飽き足らず、類稀なる美貌まで持っているのだ。まさに人間の完成形、と言っても過言ではない人物だとさっきまで思っていたのに……




因みに、面接で尊敬する人はいますか?と聞かれたときに彼の名前をあげると採用率が下がるという噂まである。ただ単に皆同じことを言うからじゃないかな。




「ん」




頷く師匠。




「私だって見た目ほど胃袋は小さくない」




自分で言うのか………まぁ事実なのでいいが。




「なに」




ニヤニヤしながら師匠を眺めていたら怒られてしまった。




「それじゃあ明日、朝9時出発。お弁当作ってね」




ちょっと怒った様子ながらも、お弁当を作らせるのは忘れない師匠に思わず笑みがこぼれてしまう。




「分かりましたよ」







というわけで、俺は早朝からお弁当作りに励んでいた。




とは言っても、師匠が仕事を受けることは少ないし、俺も殆ど師匠の家政夫状態なのでお金がなく、作るものは結構質素だ。




玉子焼きにきんぴらごぼう、白米を詰めて特製のふりかけをかける。この間は鶏肉も安かったので唐揚げも作る。




「よし、こんなもんか」




久しぶりに外での昼食だし、今日はちょっと張り切ってしまった。冷蔵庫にあったものはほぼなくなってしまったが、帰りに買い出しに行けばいいだろう。




二階から目を覚ました師匠が降りてくる。




「ふぁ。おはよう」




「おはようございます。偉いじゃないですか、ちゃんと一人で起きてこれて」




「私をなんだと思ってるの………」




もちろん世話のかかる食いしん坊のかわいい師匠だと想っている。




「ご飯の匂いがしたから」




ほらね?




「しかもいつもよりいい匂い」




「あぁ、やっぱり分かります?油を変えてみたんですよ。こないだちょうど切らしてたんで、魔法で創った水を使わず、自然の水だけで育てた植物から採った天然物の油です」




「へぇ。美味しそう」




今日の師匠は見た事ないほどニッコニコだ。確かにいつもの油で作った料理よりもいい匂いがするが。




「それじゃあお弁当もできましたし、俺も準備してきますね」




「ん、分かった」




お弁当を常温に冷やしつつ、俺は準備を整えるべく二階の自室へと駆け上がった。




俺は師匠程の腕はないので攻撃要員となるにはいささか不安が残るが、今回は味方がいない。絶好のシチュエーションを作るには俺が駆けずり回るしかないのだ。




そもそも俺は師匠の弟子でありながら狙撃が出来ない。できないというか向いていなかったようだ。




だが、その代わりに俺は拳銃やナイフ等の近接武器を扱うことができる為、相手を混乱させたり目標の位置まで誘導したりと言うのは得意だ。




拳銃や体術は師匠に習ったが、他は別の人に習っている。昔刃物の扱い方を習い遂に認められたと師匠に報告した時にはすごく何か言いたそうにしていた。




他の人に師事されて嫉妬していたのだろうか?




いやいやないない。あの頃の師匠はドライアイスより冷たかったし、そもそも殆ど俺に構わなかった。




ご飯だけは喜んで食べていたが。




「にしても良く受けたなこの仕事。師匠はルナ絡みだとあんまり手を出さないんだけど」




俺の部屋に辿り着き、机の上に置かれている拳銃(もうちょっと用心するべきか?)を手に取り、しっかり安全装置が作動していることを確認してから荷物の中にブチ込む。




今回の仕事はちょっとばかり特別なケースだ。




そもそも変革を望む者はルナによって唆され犯罪を犯す。だが、レオンは周りに一切その素振りを見せず、表向きは海賊達の撲滅を行う為の武力として武装組織を統率している。




今までの変革を望む者による犯罪には一貫性がないことから、大きすぎたショックによる精神病だのと言われて来たが、奴は至って普段通りらしい。




例えどんなに肝の座った人間でも、急に声が聞こえたら驚くだろうし取り乱すだろう。


元々大会社であり大きな権力を持つボナパルト海運は国によって監視されてきた。もちろん秘密裏に。


だが、それでも一切証拠が見つからなかったらしい。




本当に奴は変革を望む者なのか。




少し嫌な予感がするが、今の所『サテライト』の情報はないし大丈夫だろう。




画面の前の皆さん、説明しよう!『サテライト』とは!




文字通り衛星であり、眷属でもある奴らはルナによるコンタクトが起きてから現れたという。人間たちが魔法や高い身体能力を得るかわりにルナも対抗勢力を創り出したのだ。




奴らの姿は、ゲーム等に出てくるモンスターに酷似している。種類によっては殆ど同じだったりするが、今まで観測された中にはおよそ形容し難い姿のものもいた。




奴らは時々この星に降り立ち、思いのままに暴れることがある。奴らは途轍もない膂力に加え、魔法も操れるために一般人、いやある程度戦闘経験があっても敵わない。


奴らが出てくればほとんどの場合七色が呼び出される。




それくらいでないと相手取れない程の敵なのだ。




その為の教育機関が発足したと話したが、果たして成果は得られるのだろうか。




おっと、あれこれ考えている内に時間が経ってしまっていたようだ。




「早く、行くよ」




下から師匠の呼ぶ声が聞こえる。




「分かりましたー!」




諸々を鞄に詰め込み、俺は階下に向かった。




今から起こる出来事が、小さな伝説となること等に気付けるはずもなく。







「じゃ、作戦を説明する」




荷物を持って、目的地に向かう途中で森を通るのだが、そこになんかもう凄いいい感じな湖を見つけたので絶賛ピクニック中である。




師匠がモクモクとご飯を頬張りながら作戦内容を説明してくれた。




話の要点をまとめるとこうだ。




まず、レオンを殺すというのが第一目標である。そこまで大きな権力が崩れると世間に影響が出るのではと思ったのだが、国によって既に根回しは行われているらしい。




今日の午後16時にレオンが国が立ち上げたダミー会社との会合に出かける。




その間で射抜く、というプランなのだが……




「この作戦、穴が多い」




そうなのだ。まず、一般人は巻き込めないので狙撃する場所が限られる。レオンを乗せた車は一般道を走るので、国営の施設は少ない。となると、急ピッチで場所の確保を行わねばならない。




そして……




「相手側に魔法使いがいる」




この世界の魔法使いというのはとにかく万能なのだ。炎も水も風も光も雷も、なんでも出せる。魔力の限界はあるようだが、それでも周囲を守る『結界』を使われると撃ち倒すのは非常に困難を極める。




「破魔の弾丸も貰ったけど、3つしかない」




破魔の弾丸と呼ばれる特殊な弾丸があり、この弾丸を使えば使用者の力量によっては全ての魔法事象を破壊することができる。だが、製造に必用な素材、技術を持つものが貴重で世界規模で見ても数十発程しか存在していない。




「これまた難易度の高い依頼ですね」




きんぴらごぼうをシャキシャキと咀嚼しながら返事をする。




そもそも一般人を巻き込めないとは言っても避難位させたい。何も知らぬまま日常を過ごさせるというのも酷な気がする。




「んぐ……んぐっ………ふう。それじゃ、行こう」




お弁当を食べ終えたようで、綺麗に片付けながら師匠が言う。




「はい、でも結局何処から撃つんですか?」




というか街中で人間が撃ち抜かれたらそれはそれで人々は不安を覚えるのではなかろうか?




「分かってる。だから………」




たっぷり焦らした後にこう言った。




「ダミー会社の中でやろう」







「師匠って馬鹿なんですか?そんなとこから撃ったらバレちゃいますよ。しかも会社員のフリをしている人たちに当たっちゃったらどうするんですか」




一般人を巻き込めないからって関係者を巻き込んでどうする。




「そんなヘマはしない。というか、他にいい場所が思いつかない」




「まぁそうなんですけど………」




俺たちは途中で借りたレンタカーで、唐突に変更となった目的地へと向かっている(もちろん運転は俺だ。師匠では足が届かない)。師匠がわざわざ敵がやってくる場所に行こうと言うのだ。




とは言っても、あまりにも危険すぎる。まだ俺たちはそのダミー会社とやらを見ていないし、あの長い銃身を隠しきれる場所があるとは限らない。




「だから、上から撃つ」




「何言ってんだあんた」




「そんな顔で見ないで……泣くよ?」




「すいませんでした許してください」




「全く……ちゃんと説明するから」




今回の会合を行うにあたって建造したビルは、75階まであり、会合は52階で行われるらしい。




会合を行う部屋では人が隠れられるようなスペース等一切なく、奇襲は不可能。




なはずだった。




「透視の魔法を使えばいい」




「そんなのあったんすね」




「うん。確か今回の作戦にも参加してたはず」




というかそんなの早く言ってほしかった。最初からそうしてればよかったんじゃん。




「ん、ごめん」




悲しそうに謝られると許すしかなくなる。




「誘導は……任せる」




「本気ですか?」




「うん、絶対できる」




ふふっと微笑む師匠。




「でしょ?」




………




「仕方ないですね……分かりましたよ。外さないでくださいね?」




「誰に言ってるの?」




ドヤ顔でこちらを見てくる。




少し緊張していたのだが、俺も破顔してしまった。




「さぁ、本番だよ」




少し遠いが、遥か高くまでそびえ立つビルが見えた。




「ええ、始めましょうか」




今までで最大の試練ミッションを。







「おお、ミル様!お早いお着きで。もうターゲットを葬ったのですかな?」




会社に辿り着くなり話しかけてきた彼は、恐らく官僚の一人だろう。所々白髪が混じっているが、引き締まった体付きでまだまだ若そうな印象を受ける初老の男性。




今回の作戦は国にも全面協力してもらっているらしいので公務員が何人も参加している。




「ううん、まだ」




「まだ?それは一体……」




俺たちは作戦を彼に話した。




「なるほど………確かにそれなら確実でしょう。一般人を巻き込む事もありませんし。ですが、何故彼を突入させるのです?そんな危険を侵さずともレオンだけ射殺してしまえば……」




「それじゃあダメ。多分護衛位連れて来るから、その相手と完全な誘導を行うには突入は不可欠」




そう、今回の作戦は半分位俺にかかっている。




半分位………だよね?




相手側に魔法使いがいるなら、いつでも結界は張っているだろうし、破魔の弾丸も3発しかない。せっかく結界を破壊しても張り直されては意味がない。そこで俺が突入し、魔法使いを取り押さえる。詠唱さえできなければ結界は張り直されないので、確実に撃ち抜ける。だがその前に問題が。




「どうせ護衛が部屋の外で待機してるんじゃないですか?それはどうするんです?突入口はドアしかないですし。そもそもバレずに突入とかほぼ無理じゃないですか?」




「そこはもう………」




もう?




「任せる」




なんていい加減なんだ……




「なるほど、理解はしましたぞ。それならばこれを使うとよろしい」




男性が手のひらサイズの液晶版のようなものを手渡してきた。反対側が綺麗に見えるほど透明だが、定期的に波紋のようなものが浮かび上がる。




何だこれ?




「これは最近開発された魔導具で、周囲から音を奪うという物です。その名も『停止ストッパー』!」




大分テンション高いなこの人。




だが、確かにこの状況にはうってつけの魔導具だ。




「ありがとうございます。あとは戦力的な問題だけですね」




相手の人数によるが、俺一人では無理があるだろう。




「そっちの面には問題なんてない」




へ?




「一人で行って」







まさか本当に一人で行かされるとは……




俺は今、奴らが会合をしている部屋の近くの廊下で待機していた。




出るタイミングは師匠が教えてくれるらしい。




はてさていつ来るかと待っていたら。




パシュンと、サイレンサー付きの拳銃で撃たれたような音がした。




しかも髪を掠めた。




もしかして合図ってこれのことか?




……後で説教してやると固く心に誓いながら俺は飛び出した。




「おい、誰かい……」




「うりゃあ!」




液晶版を床に叩きつける。すると薄い膜のような物が広がっていく。




うまいこと廊下だけを対象にしてくれたようで、部屋に膜が入り込む、なんてことはなかった。




「かかってきやがれ、テメーら!」




相手は14、5人。相手取るにはこちらも全力で行かなければならない。




仕方ない、この人数差だと俺が殺られかねないし……




俺は拳銃を抜くと。




パァンと。




装填弾数全てを使い果たす。




「な、な……!?」




この拳銃には8発入るので残り半分ほどだ。




ちゃちゃっと装填し終えて、残りも撃ち倒す。




「悪い、銃は出来れば使いたくなかったんだが」




人を殺すのは好きではない。できることなら誰も殺したくなんかない。だが、こうしないと生きていけないのがこの世界だ。




ドアノブを捻り、ドアを開く。




そこにはこちらに気付かないレオンと一人の従者がいた。




(一人だけ…か。まぁ分かりやすくて有り難いが……)




もう少し用心していればいいものを。




俺は後ろから隣のローブを被った従者に飛びかかり、机の上に組み倒す。




よし!




パァン




乾いた音が響く。




それと同時にガラスが割れるような音が聞こえた。




首を締めて気絶させた従者をほっぽって、レオンを見る。




そこには、脳、心臓と重要器官が集まる体の中心を上から撃ち抜かれたレオンが倒れていた。一撃で絶命させることに成功したようだ。




「ふぅ、一件落着か」




小さくため息を吐く。




「いいや、まだだ」




テレビで聞いたことのあるレオンの声とはまた違った声がレオンの遺体から響く。




「なっ!?あんたたち、逃げ……」




「させると思うか?」




辺りが閃光に包まれた。







「くぅ……うっ……?」




「うぅっ……うっ………お、起きたぁ……!」




師匠が俺を抱きしめてくれる。




体を起こそうとすると全身に痛みが走った。




「一体……何が…?」




「あれ、見て」




師匠がユビサス方向に視線を向けると、そこには。




「ドラ、ゴン……?」




金色の瞳に銀色の翼、長距離トラックを超えるほどの体躯は鮮やかな真紅で、青い炎を辺りに吐きまくっていた。




「フハハハハハハハッッッ!!!恐れよニンゲン!どこまででも逃げ惑え!主の名のもとに貴様らを破壊しに来たぞ!」




あの声は……もしや。




「レオンの中にサテライトが潜んでた。あいつは大分ヤバい」




確かに見るからに危ない。しかもドラゴンだ。




最強の代名詞とも言える存在。奴を撃ち倒すことなどできるのか?




「方法はないでもない」




「どうすればいいんですか、教えてください!」




「でも……また、危険な目に……」




「俺のことなんかどうでもいいです!今はあいつを倒すのが最優先です」




奴の炎によって、既にこの街は半壊していた。




このままでは犠牲者の数は右肩上がりになってしまう。それだけはなんとしてでも食い止めなければ。




「………分かった。でも、ヤバいと思ったら逃げて。私に任せてもいいから」




「はい、分かってます」




最終的には、この人ならなんとかしてしまうだろう。ただ、今必要なのは速度だ。




「あいつは今、自分で結界を張ってる。しかも人間が張るのとは格が違う。一発じゃ、割り切れない」




「俺が一発当てればいいんですね」




「ん、そう」




師匠の狙撃銃は再装填に時間がかかる。俺よりも技術が上な師匠の一撃で仕留めきりたい。




となれば、俺が先に撃たねばならない。




「師匠、行ってきます」




「………気を付けて」




「ええ、分かってますよ。またご飯、作ってあげますから」




「……っ!」




俯く師匠。だが、すぐに顔を上げて自身に満ちた顔で得意気に微笑んでみせた。




「ビーフシチューが食べたい」







走る、走る。奴の元へと。




走って走ってようやく辿り着いた。




「おっと、ようやく戦える者が現れたか。待ち望んでおったぞ『兵隊ポーン』よ」




「誰が兵隊だ。俺は一人……いや、俺たちは二人だけだぞ?」




「二人でも我に歯向かおうと思える時点で戦いに精通しておる。それに………呼び名なんぞに特に意味は無いからな」




「……っ!」




嫌なヤツだ。




俺は拳銃を取り出し発砲する。もちろん普通の弾だ。




「む?なんだ、結界すら分からん素人であったか。だが、その勇気は褒めてやろう」




ニヤリと顔を歪める。正確にはどういう動きなのか分からないが(ドラゴンの顔なので)、多分あってる。




「その勇気を賞して、我が究極の技であの世へ登るが良い!」




おっと、棚ぼたラッキー!




究極の技を放つ為に長々と溜めに入ってくれた。




「悪いな、隙を突くみたいな感じになっちまうが。サテライトじゃなければ仲良くなれたかもしれないのにな」




残りの装填弾を全て撃ち込む。最後の一発が、破魔の弾丸だ。




「グッ!?結界が……!?……だが甘い。この程度で倒せるとでも……」




「もちろん、思ってないよ」




「っ!?」




あとは任せます。師匠。




「任された」




師匠が覗き込むスコープには奴がしっかり映っているはずだ。




「それじゃあ、バイバイ」




狙撃銃を中心に、何枚も何枚も魔法陣が重なっていく。


その全てが圧縮され……




放たれた。






まるで抑え込まれていた太陽のように、眩い光を放ちながら奴に直撃する。




「な、なんという威力……!いい、いいぞ!これこそ我の求めし……!!」




セリフを最後まで言い終えることはなく、奴は撃ち抜かれた。後に残るのは、月光のような柔らかな光の残滓のみ。




「終わった……か」







後にこの試練ミッションは『死の弾丸(デス・ブレット)』の英雄譚の一つとして語り継がれることとなる。






それでは、2年後の世界でまた会おう。

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