第2話 再出発
「くそっ!キツいな!!」
レクトは大嵐の中、ひたすらに走り続ける。木々は激しく揺さぶられ、強烈な雨が叩きつける。もはや小型の魔獣は姿を消した。家を出たあと早足で進んでいたがいきなり天候が荒れてしまった。
「危なっ!」
巨大な岩が斜面から滑り落ちてくる。
荒れているどころではない。もはや森ごと吹き飛ばす勢いである。
「ただの嵐じゃないと思ったが......ストームドラゴンの影響だとは......!!」
嵐の中で巨大なドラゴンが悠々と飛んでいた。あのレベルなると今の装備じゃ厳しい。
「とにかく今は…森から抜けないと」
幸か不幸か嵐の影響で魔獣達の活動は押さえられている。だが......めんどくさい奴らはいるのだが!!
「邪魔!」
「グギャァ!!」
いきなり目の前に現れたリザードマンの顔面に膝蹴りをかます。この野郎、今俺に槍向けてやがった。気づくのが後ちょっと遅れてたら......
「うおっと......」
逆上したリザードマンが槍を投げてくるが、回避に成功。
「こんなもん渡すんじゃねぇ!!そら、お返しだ!!」
地面に刺さった槍を引き抜き顔面狙って投擲。見事命中したリザードマンは膝から崩れ落ちる。
「このままさっさと…...ちっ!」
レクトは思い切り飛び退き近くにあった岩裏に飛び込む。
「なんて威力だ......」
決してレクトを狙った攻撃ではないが、地面を抉るブレスは余波でさえも驚異である。
「ゴアアアアア!!」
「.........」
レクトは無言で弓を引く。巣穴を破壊され怒り狂うグレートベアに目をつけられてしまった。風も雨もどんどん強くなっていく。
「ふぅ.........」
突っ込んでくるグレートベアを前に一切動じること無く眉間に矢を放つ。グレートベアの頭蓋骨を持ってしても防ぐことはできなかった。そのまま地面に突っ伏していた。
「さて......どうする?」
「グルルルルルル!!」
振り返ると、ストームドラゴンがレクトを睨み付けていた。
「やるしかないか......」
弓を構える。瞬間嵐をまとったストームドラゴンが突撃してくる。すんでのところで回避しながら3連同時打ちを叩き込む。3本とも弾かれてしまい効果が無かった。
「ぐあっ!」
お返しとばかりに、叩きつけをもろに食らう。ガードも間に合わず吹き飛ばされ岩に直撃する。
「がはっ.........はぁはぁ.........」
血反吐を吐きながら見上げる。
「.........!!」
声をあげる暇無くウィンドブレスを叩き込まれる。弾き飛ばされたレクトはボロ雑巾のように転がる。
(.........くそが。こんなのを相手にするってわかってたらガイザー持ってきたんだかな)
ボタボタと頭から血を流しながら、気合いで立ち上がる......が、血を失いすぎた。意識が......
「...............」
視界がぼやけ、体の感覚がなくなりそうである。まさに絶体絶命。生殺与奪の主導権は完全にストームドラゴンが握っていた。
「ガァァァァァァァァ!!」
強大なブレスに飲み込まれ、訪れる死に身を委ねる......
「私の弟子に何してくれてんだぁぁぁ!」
「グギャァァァ!!」
ストームドラゴンの眼球に杭が刺さっていた。師匠が投擲したものだ。槍を片手に師匠がレクトの前に立つ。
「まったく......忘れ物だぞ?」
「!!」
師匠からガイザーを渡される。
「立てるか?」
「うぅぅ............何とか......ふぅ...」
「ほら、使え」
師匠から再生ポーションを受け取ると一気に飲み干す。師匠お手製蜜蟻青虫汁である。
「ふぅぅぅ............よし!!」
顔をバチンッと叩くと、ストームドラゴンと対峙する。
「まったく…お前がもたもたしてるから、あいつ立て直しちまったじゃねぇか」
「助かったよ師匠。ありがとう」
やれやれといった感じで師匠は槍を肩に乗せ、ストームドラゴンを睨み付ける。
「ガァァァァァァァァ!!」
「行くぞ!!レクト!!」
「ああ!」
ガイザーを構えレクトはストームドラゴンに突撃する。
「お返しだ!!食らいやがれ!」
ザシュッ!!ズガンッ!
切りかかると同時に爆発を起こす。
ガイザー......レクトが作った二つ目の武器である。背丈ほどのグレートソードに無理やり砲身をくっつけた武器。打ち出すのは弾丸ではなく、爆発魔法である。持ち手にトリガーを装着しており、対巨獣戦闘を想定して作った武器であった。
顔面に強大な爆発魔法を食らったストームドラゴンは倒れ伏す。
「おらぁ!」
師匠が目に刺さっていた杭を引き抜き、槍と同時にもう一度突き刺した。
「グッ......ギギャ...」
あまりの激痛にストームドラゴンは悶えながらも何とか立ち上がろうとしていた。
「くそったれがぁぁ!!」
力任せにストームドラゴンの頭を持ち上げる。師匠の馬鹿力は健在である。
「今だレクト!!」
師匠のお陰でドラゴン種の共通弱点である逆鱗が見える。
レクトは走りながら、ガイザーの魔石を交換する。一発限りだかとてつもない火力を出せる特別な石......その名も竜石である。
「食らいやがれ、フレイムガイザー!!」
灼熱の影響で真っ赤に染まった刀身を逆鱗に突き刺し、トリガーを引くと強大な火柱が立ち上る。
「カ......カハッ......」
声をあげることもなく頭のど真ん中に穴を開けられたストームドラゴンは力無く倒れるが、それでも奴は生きていた。
「しぶといぞ!」
師匠が手に持つ杭のスイッチを入れる。
「離れるぞ!!」
バチバチと杭が帯電し始める。それに合わせるように真上の空が青く光始める。
「これだけの嵐だ......凄まじい威力だろう」
「ガァァァァァァァァ!!」
最後の力を振り絞り飛びかかろうとしたした瞬間、頭に特大の落雷が直撃。
「くっ!レクト無事か!!」
「何とかね!!すげぇ威力だ...」
余波で吹き飛ばされたレクトを心配しつつも、警戒は一切とかない。
砂ぼこりが晴れ現れたのは首から上を失ったストームドラゴンであった。
「痛っててぇ......」
ストームドラゴンを倒した後、レクトは師匠から治療を受けていた。体に巻かれているのは治癒包帯。時間はかかるが確実に怪我を治してくれる優れものである。
「すまなかった......私がもっと観察していればストームドラゴンだと分かったはずだ。危険に晒してしまったな」
「気にしなくていいよ.....。そもそも、俺が弱くなければこんなことにはなってないよ」
「だが......」
珍しく気を落とす師匠を見ながら、レクトは思いを口にする。
「俺はこの森以上の事を何も知らないんだ。だから始めてみるストームドラゴンにもあっさりやられるんだ。師匠が助けてくれなかったら、死んでたんだぞ?」
「レクト......私は...」
「それにさ......学院だっけ?今は楽しみなんだよ。俺だって結果的に今無事なわけだしさ?だから......泣かないでよ...」
「レクトォォ............」
始めてみる師匠の涙。レクトが無事な事に対してか、別れが寂しいのか.........
「師匠!!」
「!!」
いきなり大声を上げたレクトに驚きながらも師匠は真っ赤に腫れた目でレクトを見る。
「森に捨てられた見ず知らずの俺をここまで育ててくれて本っっ当にありがとう!これからもっと立派に成って師匠にまた会いに来るよ。約束だ!」
小指を出したレクトを見ながら、師匠は目元を擦ると強く指を切る。
「約束だ!必ず......立派に成って会いに来てくれ。私はレクトの帰りをずっと待っているぞ!」
一夜開けて...
大きく手を振る。既に師匠の姿は小さくなっているが全力で手を振っているのが良く見える。あの後森の出口まで見送ってくれた。レクトは既に平原におり、まだ居るかな?と振り返ったらまだ手を振っているのだから驚いた。
「よし、行こう。」
前を向き、背負うリュックを正す。手に持つ地図を広げるとエーデルド魔術学院までの道筋が記されていた。
「とりあえずはゴタ平原を抜けた先にある、ペルー村に向かおう。」
地図をしまい、レクトは駆け出す。その目には未来への期待と希望が写っていた。
「行ったな......頑張れよ。」
姿が見えなくなるまで手を振り続けていたロゼッタは手を下ろす。
「お前も見送りに来たのか?ロディ?」
「ガウ!」
「そうかそう......お前もレクトが心配だったんだな。そうだ!身体が落ち着くまで一緒に暮らさないか?一人は寂しくてね。」
「ガウ!ガウ!」
ロディは嬉しそうに尻尾を振る。
「よし!今日からよろしくな。」
ロゼッタ師匠とロディの新たな生活も幕を開けたのだった。
狩人さん森を出て魔術学院へ。そして歩む英雄街道 黒猫 @retasu1228
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