2階奇談

@Zyodan

読切

 H県N市に父方のばあちゃん家があります。

 浜手側にある旗竿地の二階建ての家なんですが、門から玄関までが20mぐらいあり、他にも庭があったりとまぁ、敷地が広いんです。


 それで、ばあちゃん家自体も平家みたいに面積が大きくて、玄関から居間へ続く廊下が10m近くあるんですよ。

 家の構造としては、玄関入って廊下の右手に2階へ続く階段があり、上に上がると洋室6畳、和室4畳の父がかつて兄弟達と使っていた元子供部屋があります。


 今からお話しするのはその部屋ににまつわるお話です。


 毎年お盆には親戚が祖母の家に集まるのですが、この年はお墓参りに中々行くことができてない親戚がいたので、皆で墓参りに行く事になりました。

 ただ、当時バンドマンをしていた僕はその日の夜がライブだったので、祖母の家に残りギターの練習をする事にしたんです。


 さて、1人だけ残って一階の居間でギターを鳴らして練習開始して15分後、何か人の動く気配がしました。

 ふと気になりギターを弾く手を止めると、静寂の中蝉の鳴き声が聞こえるだけです。

 当たり前ですよね、僕以外誰もいないんですから。

 気のせいかと思い、気を取り直してギターを弾こうとした瞬間、上からギシッと音が鳴りました。

 僕はビクッとなり、ギターを弾くのをやめて天井を見ました。

 そしたら、またギシッと鳴り、その後ズズッと何か引き摺るような音が聞こえました。


 最初は古い家だから家鳴りか猫が天井裏にいるのかなと思ったんですが…聞いてると明らかに二足歩行の何かが歩いてる音なんです。

 その足音はずっと止まることなく聞こえ続けました。

 いつの間にか蝉の鳴き声は聞こえなくなりました。

 そしたらね、僕は気付いたんです。


 足音の主が居間の真上にある2階和室の四隅を回り続けている事に。


何かがギシッ、ズズッと音を鳴らしながら四隅を回り続けてどれぐらい経ったでしょう。

 しばらくすると足音が少しずつ遠くなりました。

 音の様子からして、どうやら和室と繋がっている洋室に移動したみたいなんです。

 安堵して良いのかどうか分からない状況でしたが、息を潜めて音に集中していると、聞こえる音が変わりました。

 今までのズズッと何か引き摺るような音がなくなり、代わりにギシッ、ッギシッと片方の足音が一拍遅れて聞こえるんです。

 …そう、隣の部屋に行ったのではありません。


 何かが階段を降り始めたんです。


 いつの間にか僕の身体が動かなくなってました。

 ほんとは逃げ出したいほど怖いのに、何故かまったく動かないんです。

 そうこうしてる間に足音の主は階段を降り終わったみたいで、遠くからギシッ、ズズッとまた何かを引き摺るような音が聞こえてきました。

 僕は廊下を歩きながら居間へ来ようとしているんだと思いました。

 どうしたものかと脳内はパニックですが、身体は金縛りにあった様に動きません。

 足音がだいぶ近くに感じた時、足音の主の影が少し見えました。

 長い髪をダラリと垂らした『何か』でした。


 その瞬間、ふと身体が動く様になったので、

僕は急いで立ち上がり、窓を開けてすぐに庭に出ました。

 そしたら、さっきまで何故か聞こえなかった蝉の鳴き声が聞こえます。

 注意をこらし廊下を見ていましたが、特に何も出て来ません。

 それでも、しばらく様子を伺っていると親戚達が墓参りから帰って来て、家に賑わいが戻りあの妙な足音は聞こえなくなりました。

 あれは一体なんだったのか僕には分かりません。

 ただ、それ以来僕はその2階が苦手になりました。

 僕の話はこれで終わりです。






でもね、この話には後日談があるんです。


 先ほどの話から1ヶ月後ぐらいになるのですが、母と弟と実家で話していた時の事です。

 雑談からなんとなく祖母の家の話になった時に弟が2階は苦手だと言ったんです。

 僕はふと気になり、どうして苦手なのか尋ねてみたんです。

 すると彼は小さい頃にとある夢を見たからだと話し始めました。


 どうやら弟は夢の中で僕や従姉妹達とばあちゃん家でかくれんぼをしており、どこに隠れようか考えた結果、2階の和室に置いてある昔使われていたベッドの下に隠れたらしいんです。


 そこで隠れていると誰かが階段を上がる足音が聞こえてきました。

 でも、その足音が妙で何故かギシッ・ッギシッと少し遅れてるんです。

 まるで片足が不自由なのかの様に。


 気になりながらも隠れていると階段を登り終えた誰かが隣の洋室に入ってきました。

 ベッドの隙間から誰かと見てみると、真っ白いワンピースを着た長髪の知らない女が立っていました。

 女は誰かを探している様に部屋を見渡していましたが、しばらくすると和室の方に歩いてきました。

 ギシッ、ズズッと片方の足を引き摺りながら。

 そして、和室に入るとまるで四隅を回る様にギシッ、ズズッと足音を鳴らしながら部屋を歩き始めました。

 夢から覚めるまでの間、弟は恐怖に震えながらずっと目が離せなかった様です。

 何故ならその女はずっとこっちを見てたから。


 その夢を見て以来、弟は2階が苦手らしいです。

 僕が聞いた足音と弟が夢で見た白ワンピースの女は何か関係があるんでしょうかね?



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