第6話 表情

 一樹は頻繁に月見に会うようになった。

 話している間は心地よかった。それは新鮮で、望んでいたことで、一樹の心の拠り所になっていた。

 その隠れ場所の周りが月見のおかげで霧に包まれ、いくら通おうが一向に誰にも知られないことにも、一樹は安心していた。

 月見は笑みを絶やさず何でも答えてくれた。一樹も最初は雲について繰り返し質問していたが、やがて他愛のない話ばかりするようになった。


 ある日いつものように話していると、月見に顔を覗き込まれた。

「君ってさっぱり笑わないねえ? 逆に泣いてくれてもいいんだけれども」

 いつもなら聞き流しているところだったが、流石に我慢ならなかった。

「よしてくれよ。君ら空こそ、無表情で冷静なものはないだろ」

「僕を他の奴らと同じにしてくれるなよ」

 珍しく震えた声が聞こえた。一樹が隣を見ると、少し火照った頬と燃えるような目があった。いつも飄々としている彼の初めて見る表情に、一樹はたじろぎ、ごめん、と声を零した。


 すると月見は打って変わってけらけらと笑い出した。

「本当に僕が怒っているとでも? 大真面目だな! ああ、やっぱり飽きないよ」

 ……やはりこういった所は嫌いだ。一樹は恥ずかしさと苛立ちで、雑草を引っこ抜き下を向いた。


 その時、一樹の背中の一部が一瞬薄く霧と変化し、月見の笑顔が曇ったことを、一樹には知る由もなかった。

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